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魔王使い  作者: 六三
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第14話

 魔王は、元々はここからかなり離れた全然別の場所の、山奥に連れて来られたらしい。


 そしてまおうと同じ様にあまりの状況に呆然としていたが、これもまおうと同じ様に空腹を覚えた。


 だが、この魔王はまおうとは違い、幸いにもこっちの世界の植物や果物も食べられたのでそれを食べて空腹をしのいだが、すぐに腹がすく。


 どうやら魔王の世界とこの世界とでは食べ物の栄養素や消化具合が違うらしく、どんどん食べないと身体か持たないらしかった。


 魔王は1人連れて来られた世界で不安を感じながらも生きる為に食べ続けていたが、何分魔王の食べる量は半端なく、しばらくすると周辺で取れる果物や植物を食べつくしてしまったのだ。


 魔王が食べ物を求めて山を降りるとそこには大量の果物や野菜が実を付けていた。魔王は喜び勇んでそれらを貪り食った。


 魔王には生きる為の当然の行為だったが、それは山村の村民が育てていた作物だったのだ。こうして魔王は「作物を荒らす魔物」として冒険者が派遣される事になった。


 そして、田畑の持ち主の村民達は魔王が来ると恐れて逃げていってしまっていたので、魔王が初めてこっちの世界の人間に会ったのは、自分を征伐に来た冒険者のパーティーだったのだ。


 こっちの世界の人間は、まおうや魔王の事をゴツゴツとした硬い皮膚を持つ巨大な魔物と思っているが、魔王にしてみればこっちの世界の人間こそが「ぶよぶよとした気持ちの悪い肌を持つ化物」だった。


 そしてその化物達は有無を言わさず魔王に襲い掛かってきた。


 勿論、この時の魔王はまったくこっちの世界の言葉は話せず意思の疎通なんて不可能だったのだが……。


 化物に襲われた魔王は恐怖して逃げまどった。だが化物達の攻撃から逃げ回っていても時おりその化物からの攻撃を受ける事もある。そして気付いたのだ。


 この化物達は弱い。と。彼らの攻撃は魔王に傷一つ作る事が出来なかったのだ。


 魔王は自分を恐怖させた身の程知らずの化物達に反撃する事にした。そしてまもなくその化物達の息の根はすべて止まったのだった。


 冒険者達を殺しても、魔王には何の罪悪感も無かった。

 そう、俺達冒険者が森の中で襲ってきた、スライムの群れを倒すのに何の罪悪感も感じないように……。


 だがそれから魔王の逃亡の日々が始まった。

 冒険者にもピンからキリが居る。


 魔王の事を、田畑を荒らす程度の魔物、と思って派遣された冒険者などとは比べ物にならないほどの腕を持った冒険者が派遣されてきた。


 なにせ魔王は「冒険者のパーティーを惨殺した凶悪な魔物」なのだから、その凶悪な魔物を討伐するには一流の冒険者達が必要なのだ。


 魔王は次に来た冒険者達の戦士が繰り出す剣は軽々とはじいたが、魔法使いには苦戦した。


 魔法使いが繰り出す火炎に、魔王も口から炎を吐いて応戦したが、その魔法使いはさらに氷雪や電撃などを魔王に浴びせてきたのだ。


 魔王は氷雪に身を切られ、電撃に皮膚を焦がされながら逃げまどった。


 魔王は高い崖の上まで逃げると、そこから身を躍らせた。さすがに冒険者達はそれ以上魔王を追うことが出来ずに何とか逃げ切ることが出来た。


 だが、いくら硬い皮膚を持つ魔王とはいえ、崖から飛び降りては体中傷だらけで文字通り満身創痍となり、地を這う様にしてさらに逃げた。


 そしてそれからも冒険者から逃げ続け、一箇所に留まらず移動しながら生きる為に食料を貪り食っていたのだが、果物や植物よりも動物を食べる方が身体が持つ事に気付いた。


 こうして魔王は田畑を襲う事よりも、牧場を襲う事が多くなったのだった。


 口から炎を吐くとはいえ、まおうの様に動きが早くない魔王には、野生動物を捕まえるのは難しく、柵の中に居る家畜しか捕らえることが出来なかったのだ。


 そして逃げながらも少しずつ人間の言葉なども覚えてこの村に辿り着いたという。


 これが俺が聞いた魔王の話だった。


 俺には言葉が無かった。


 俺の正直な感想を言うと、魔王って何か悪い事をしているのか? という所だ。


 確かに冒険者を……人殺しをしているんだが、それにしたって正当防衛じゃないかと思うし……。


 だが……とはいえ、魔王が冒険者を殺したのは正当防衛なんだから許してあげて、これからは仲良くしましょうって言うのも通用しないんだろうな……。


 ん? しかし今までは冒険者から逃げ回っていたと言ってたよな?


「どうして、この村には長い間滞在しているんだ?」


「ここは時おり俺を殺しに来る冒険者とかいう奴らを迎え撃つのにちょうどいいんだ」


「どんな風に?」


 だが俺の言葉に魔王は口を噤んだ。


「どうしたんだ?」


「お前は冒険者なんだろうが?」


 そうか冒険者の俺にそれを説明すると、俺の口からそれが漏れて自分が不利になるかもと思ってるのか……。


「いやいや、俺はそれを人に話したりしないよ」


 だが魔王は目を細めて俺を睨むのみで答えようとはしない。まぁ俺も話の流れで聞いてみた程度の気持ちだし、無理に聞くことも無いだろう。


「それでこれからどうする?」


「どうするとは、どういう意味だ?」


「俺は、まおうを連れて他の魔王に会いに行って見ようかと思っている。もしかしたらまおうの仲間かも知れないしな」


「なるほどな。だが俺は遠慮しておく」


「どうして?」


「一緒に行こうよ!」


 まおうも言ったが、魔王は首を振った。


「動くのにはもう疲れた……。ここに居れば食うには困らん。俺はここに留まる事にする」


「疲れたって……。こっちの世界に来てどれくらいになるんだ?」


「この世界の時間で言えば……。7、8年と言ったところだろうな……。ここに来てからはまだ1年も経っていない。やっと見つけた居心地のいい場所なんだ」


 じゃあ、ここに来るまで6、7年も、ずっと1人で逃げ回っていたのか。それじゃここを動きたく無い気持ちも分からないでもないが……。


 だがいくらここが居心地が良いからってずっと居たらさすがにどんどん冒険者が来て危険だし、それに冒険者の方だって命を落すんだし……。


「いや、いくら居心地が良くても不要に戦う事も無いだろ。やっぱり俺達と一緒に行こう!」


「だからいいって言ってんだろ!」


「でも、ここに居れば村人達に迷惑も掛かるし、食べるものなら俺が何とかするから」


 前回の報酬もあるし、魔王をここから連れて行けば今回の報酬も入る。まおうと魔王を連れていてもしばらくは食費に困らないはずだ。


 だが俺の提案に魔王が吼えた。


「迷惑が掛かるだと! 俺の知った事か! 突然こんなところに1人放り出されて、清く正しくなんて生きていけるものか! 俺は俺の生きる為に必要な事をやっているだけだろ! なにが悪いって言うんだ!」


「……魔王」


「結局お前も、俺を追い立てた冒険者と一緒だ! 俺をここから追い出しに来たか!」


 その咆哮に、魔王の巨体がさらに大きく感じられた。


「いっいや、違うんだ……」


 俺は弁解しようとしたが、それは諦めざるを得なかった。魔王の目は怒りに燃え、とても話が通じる様には思えなかったのだ。



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