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魔王使い  作者: 六三
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第13話

 翌日早速俺とまおうは、魔王が居るという洞窟へと向かった。


 その洞窟は村から一時間ほど歩いた場所にある。


 結構離れた場所にあるという印象だが実際エクリス村に住んでいる村人にしてみれば、歩いて一時間の距離に魔王が棲んでいるっていうのは大変な恐怖なんだろうな……。それに実際家畜の被害も多いらしいし。


 俺とまおうはしばらく黙って道を進んでいたが、不意にまおうが心配そうに聞いてきた。


「今から会いに行く魔王って悪い人なの?」


「いや、それは会ってみないと分からないな」


「でも、村の人達は困ってたみたいだよ?」


「家畜が襲われている事を言ってるのか?」


「ううん。そっちもあるんだけど……冒険者がやられちゃっている方……」


 しまった。まおうは気まずそうにしてるな……。

 村人から食べ物をとっていたのはまおうも一緒だからな。悪気は無かったんだが、痛いところを突いてしまったか。


 とにかくフォローしておこう。


「まあ、家畜を襲うのも生きるのには仕方が無いし、冒険者の事だって正当防衛って考える事も出来るしな」


「うん。そうだね!」


 どうやらまおうの機嫌も直ったようだし、俺達は先を急いだ。そしてしばらく歩くと目的の洞窟に辿り着く。


 その洞窟は大きな岩山の横っ腹に穿れており、典型的な鍾乳洞らしい。


 さすがに魔王が棲んでいるだけあって、入り口はかなり広い。まおうが屈まずに楽々入れるくらいの高さがあった。


「暗いね……」


「そうだな」


 まおうが言うとおり洞窟はかなり長くて、奥には日の光がまったく届かず、濃い闇が支配している。


 俺は持ってきた松明に火をつけると、まおうとつれて洞窟に足を踏み入れた。


 洞窟の中は尖った石柱が天井や地面からニョキニョキとあちこちから生えている。


 そして俺が持つ松明の光に驚いたのか、コウモリが飛び立つ。


「なんか怖いね……」


 まおうはそう言って、身を縮こまらせた。さすがにまおうもコウモリを可愛いとは思わないようだな。


 しばらく歩くと、前方に微かに明かりが見える。どうやらあそこに魔王が居るらしいな。


「よし! もうすぐだ!」


「うん!」


 俺達は歩みを速めてその場所に近づいた。だがその手前で一度立ち止まる。


「どうしたの?」


「しっ!」


 俺はまおうに黙るように言って、松明の火も消した。そして小声でまおうに話しかける。


「一応中の様子を窺がうんだ」


「うん、分かった」


 俺の言葉にまおうも小声で返事し、俺とまおうは改めて静かにその明かりの元へと近づく。


 その明かりは広い「部屋」の入り口から漏れてきていた。


 もちろん、本来洞窟に部屋などないが、どうやら元々あった洞窟の広い横穴の入り口部分に岩を積み上げて、わざわざ入り口を狭くしている様だ。


 とはいえ、俺は楽々通れるし、まおうも少し腰を屈めれば通れるくらいの広さはある。


 俺とまおうはその部屋の入り口にさらに近づいた。


 そして部屋の中を覗き込むと……。果たして魔王がそこに居た。


 その魔王はまおうより少し大きく、魔王と同じく硬い鎧の様なゴツゴツとした皮膚を持っていた。


 そして……。


「なあ、まおう。お前のいた世界って、人によってあんなに体型が違うものなのか?」


 俺の問いかけにまおうは「ううん」と首を振った。


 身体が大きい割りに胴体が細く手足も長いまおうは、言うなれば俺達人間がそのまま大きくなった様な姿なのだが、部屋の中にいる魔王はかなりずんぐりとした体型で、足の長さなどまおうの半分位しかなさそうだ。


 せっかく来たのだが、どうやらまおうの仲間じゃなかったか……。


 俺はため息を付いたが、まおうもがっくりとうな垂れている。


 さーて。どうするかな……。


 俺は身体の向きを変えてその場に座り込んだ。


 まおうの仲間じゃなかったから、じゃあ討伐しようって気にもならないし、だいたいまおうの仲間に違いないって思い込んでたからあまり考えてなかったが、戦ったとして俺が魔王に勝てるのか?


 うーん。まおうも戦いに向いている性格じゃないしな。


「どうするの?」


「俺もそれを考えてたんだが……」


 だがそこへ部屋の中から「ダッレダ!」と割れた声が聞こえた。


 しまった! さすがに部屋の入り口でグダグダしてたのはうかつ過ぎたか。


 仕方が無い。俺は覚悟を決めて姿を表す事にした。とは言っても戦う気は無い。


「俺は旅の冒険者だ! お前はもしかして別の世界から来たって言うんじゃないのか?」


「ナッゼ、ソレヲ」


 おお、まおうの仲間じゃなくても、やっぱりこことは別の世界から来たんだ。


「俺はまおうを連れているんだ。それでお前達が別の世界から来たって聞いた。少し話を聞かせてくれ」


「マッオウダト?」


「ああ、魔王だ」


 魔王が中に入れと言うので、俺とまおうは部屋の入り口をくぐった。部屋の中には明かりもあるので松明の火は消した。


 だが部屋に入り姿を見せたまおうに、魔王は落胆してうな垂れた。


「オッマエ……オッレノナカマジャ、ナッイノカ……」


「うん……ごめんね」


 まおうは申し訳なさそうにしているが、まおうだって落胆してるんだろうな……。


 しかし、それはさておき、まおうに比べてこの魔王はどうしてこんなに言葉が片言なんだ?


「お前はどうして普通に喋れるんだっけ?」


「僕は、言語翻訳の魔法を自分に掛けたんだよ」


「あんたは?」


「オッレハ、ソッンナマッホウナンテ、シッラン。オッレハ、ジッカンヲカッケテオッボエタダ」


 なるほど……別の世界から来たといっても、全員が魔法を使えるわけじゃないのか。


「その魔法ってこの魔王にも掛けてやれるのか?」


「うん。大丈夫だよ」


 おお、それは都合がいい。


「じゃあ、その魔法掛けてやってくれ」


「うん。分かった」


 まおうはなにやらぶつぶつと呟き、魔王に掌をかざした。


「これで大丈夫と思うよ。自分の世界の言葉の心算で喋ってみて」


「本当か? おお、本当だ! 便利なものだな。やっぱり言葉が通じないと色々と不便だったからな」


 魔王は、すらすらと言葉が出る事が嬉しいらしい。


 よしよし、これで話しやすくなった。さすがに聞き取りにくかったからな。


「それでどうしてこの世界に来たんだ?」


「いや、それがさっぱりだ。突然、深い霧に囲まれたかと思うとこの世界に居た」


 俺はその言葉にうーんと考え込んだ。


「どうしたのだ?」


「いや、まおうの時と一緒なんだよ。元居た世界は違っても、こっちの世界に連れて来られた理由は同じなのかも知れないな……」


「じゃあ、やっぱり俺がこの世界に連れて来られたのは、こっちの世界に何か原因があるっていうのか!」


 突然の魔王の剣幕に、俺は慌てて説明した。


「いやいや、そうとは限らないが、共通の理由があるのかなって」


 魔王は俺の言葉に口を噤んだが、やはり納得出来かねる様に唸っている。まぁ、突然、仲間の居ない世界に1人で連れて来られたんじゃ、腹立たしくもあるか。


 俺は、魔王がこの世界に来てからの話を聞くことにした。


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