表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王使い  作者: 六三
10/33

第9話

 日も暮れてきたので、俺とまおうは森を後にした。


「ばいばーい」

 まおうがうさぎに手を振るので、俺も合わせてうさぎに手を振ってやった。

 うさぎはずいぶんまおうに懐いている様だ。

 野生動物が簡単に懐いたりするのか? とも思うが、まぁ実際に懐いている。


 もしかしたら異世界からきたまおうには、何か動物を引き付ける特有の匂いというかフェロモンというか、そう言うものがあるのかも知れない。

 だが実際のところは分からないので、うさぎにもまおうがいい奴だと分かるんだ。そう思っておく事にする。


「よかったな」と俺がうさぎと遊べた事を言うとまおうも、

「うん。よかった!」と返事した。


 夕日で葉っぱが赤く染まる小道を、俺とまおうは俺達の住処であるボロ家へと向かった。


 ボロ家に着くとまおうを残し、俺はまた村へと向かう。


「寝ないでちゃんと待ってるんだぞ」


「うん。わかったよ」

 まおうはそう言いながら、ネズミを入れてある水槽へと向かった。


 まおうに寝るなと言うくらいなら、メシを買ってすぐに帰ってきてやれば良さそうなものだが、せっかく大金が入ったのだ。

 今日は豪勢にしようと、いつもとは別の店に行くつもりだ。


 なにせ205Gと言えば、いくらまおうが大食いでも数ヶ月、いや節約すれば1年分の食費になるだろうという大金だ。

 今日くらいはぱっといってもいいだろう。


 村の中心部へと向かいながら一番立派そうな店を探し、見つけるとその店内に入った。


「さあ! どんどん飲め! 今日も俺のおごりだ!」


 店内に入るなり、景気の良さそうな男の声が聞こえた。

 今日もって事は、連日奢ってやって飲んでるのか? 随分羽振りの良い話だな。


 まぁ俺には関係ないか。


 店員にメニューを聞いて、それなりの値段の料理を大量に注文した。

 一番高い料理っといきたいところではあるが、なにせまおうはよく食べる。

 一番高い料理をまおうが腹いっぱいになるまでと言うのは、さすがにちょっと痛い。


 だが、それでも結構な値段になるので、店員は上客だと喜んで厨房へとオーダーを通しに行った。


 料理が出来るのを待っていると、さっきの気前の良い男が俺に話しかけてきた。

 かなり酔っ払っているらしく、足元がふらついている。


「お。あんちゃん。どうだ一杯。奢るぜ?」


「いえ。連れが待ってるんで、お気持ちだけで」


 そう言って断ったが、その男はさらに絡んできた。


「ん? あんちゃん、よく見ればギャストン様の依頼を受けた冒険者様じゃないか? じゃあ、あんただってたんまり貰ったんだろ? ぱーといこうじゃねえか」


「え? どこかで会いましたか?」


「なに言ってやがんだ。ギャストン様の屋敷の入り口に立ってただろうが」


 ああ。チェルク城で雇われている兵士の一人か。

 はっきり言って、兵士の一人一人の顔まで一々覚えてない。


「家でまおうが待ってるんですよ。早くメシを持っていかないと、まおう暴れるかもしれないんで」


「え。……ああ、そうか」

 そう脅すと男は、酔いが醒めたかの様に大人しくなって、自分の席へと戻っていった。

 まおうをネタに脅すのは、まおうが怖がられるので良くないかも知れないが、酔っ払い相手ならまぁ良いだろう。

 しかし、一兵士がこんなに羽振りが良いなんて、俺への報酬もそうだがギャストン氏は気前が良いんだな。


 そしてさらにしばらくすると、店員が俺の注文した料理を持ってきた。


 俺は店員から料理を受け取ると何気に店員に話しかけた。

「チェルク城のギャストン氏は随分気前が良いみたいですね。そこに勤めている兵士が、会ったばかりの俺にまで奢ってくれると言ってましたよ」


 俺がさっきの兵士へと目を向けて言うと、しかし店員は眉をしかめた。


「いえそれが……。以前は給料が低いと不満ばかり言っていました。羽振りが良くなったのは数ヶ月前から急にでして」


「以前は給料が低いと言っていた?」


「ええ。そうなんです」


「なにか、チェルク城に大金が入る事があったんですか?」


「そうですね。来年の話になりますが、実はチェルク城はユニバース帝国によるこの村の再開発を受けて、国から買い取られる事になっているんです」


「国から買い取り?」


「ええ。そうです。そうなれば城の評価額にプラスして立ち退き料として、かなりの補償が受けられます」


「それで、雇われている人達もそれなりの恩恵にあずかってると?」


「そうなのかも知れません。しかし、今まで給料が低いと言われていたのに、連日宴会を行えるほどの退職金を出すとも思えないのですが……」


「退職? ここを立ち退いたとしても、城主のギャストン氏は別のところに居を構えるんでしょ? あの兵士はついて行かないんですか?」


「ええ。この村に年老いた両親が居るとかでこの村に残るはずです。ですので改めて仕事を探さないといけないし、あんなに豪遊している場合ではないと思うのですが。まぁこちらも商売ですので、節約した方が良いと忠告するのもどうかと」


 店員はそう言うと、少し苦笑しながら肩をすくめた。


 俺は店員から受け取った料理を手にまおうが待つボロ家へと向かいながら、さっきの話を改めて考えた。


 国から立ち退きを要求されていて城を買い取られると言うのなら、ギャストン氏が依頼を冬までに、最悪年内にと注文をつけた理由は分かった。


 チェルク城の評価額をあげる為だ。


 物件の評価額は最寄の町や村の規模、そしてそこまでの距離。

 そして一番重要なのが、その物件の敷地が「魔物発生分布地図」で「魔物発生地域」に指定されているか、指定されていないか。

 それで金額が全然変わってくる。


 魔物発生地域のLvが上がる毎にその物件の価値が下がり、Lv10(退治が不可能な魔物が発生)ともなると、二束三文だ。


 このチェルク城は魔物発生地域Lv1だったが、それでも魔物発生地域外の魔物がまったく発生しないのと比べると、かなりの差だ。


 誰だって魔物が発生するところになんて住みたくは無い。

 元からの住民は先祖代々の土地だったりするからがんばってそれでも住もうとするが、わざわざ魔物が出るところに他から住み移ろうとする者など滅多に居ない。


 魔物発生分布地図は毎年1月1日時点の情報をもって作成さる。

 つまり1月1日までに魔物を駆除できれば、4月1日の公布時には、チェルク城は晴れて魔物発生地域外として地図に載り、評価額もそれに見合った金額になる。


 はっきり言って俺に払った報酬なんて、その金額差に比べれば雀の涙だろう。

 だが、それに関して文句を言うつもりは無い。

 実際、ゴブリン討伐の報酬としては相場よりはかなり高額だった。


 しかし、さっきの店に居た兵士は、連日あれだけ宴会を続けているというなら、俺と同じくらいの金を貰っているんじゃないのか?


 ただの一兵士に大金を渡す必要がなぜある?


 俺と同じくらいの金が貰えたと言うなら、今回の件で俺と同じくくらい重要な役割を担ったという事か?

 俺の役割は、ゴブリンを駆除する事だった。

 じゃあ、あの兵士はゴブリンについてどんな役割がある?

 ゴブリン発生の現象を消す事と同等の……。


 俺はしまってあった一枚のメモを取り出し、目を通した。

 そして急いでさっきの店へと取って返す。


「バジャルドさん!」


 俺は店に入るなり叫んだ。


「おお。さっきの冒険者様じゃねえか。どうしたい?」


 さっきの羽振りの良い男が俺に近寄ってきた。


「依頼が終わったので村を出ようと思うのですが、せっかくお会いしたのですから挨拶をしておこうかと」

 俺はそう言って、右手を差し出した。


「おお。そうかそうか」

 男も右手を差し出し俺と握手をした。


 俺は「じゃあ、これで」とその店を出た。

 男は、たったこれだけの為に戻ってきたのか? ときょとんとしていたが、俺はそんな事にかまっては入られなかった。


 バジャルド。

 それはギルドの斡旋人から聞いた、ゴブリンの目撃者という城の護衛の兵士の名前だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一言感想など
お気軽にコメント頂ければ嬉しいです。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ