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羊の国から。寒中お見舞い

tmさまより、いただいたノルディ様のイラストです。ありがとうございます。ありがとうございます。

それでつい、触発されやってしまいました。

・・・これでは、芽衣がヘンタイっチックになるのも道理かと。もふりたい。

もふりたい・・・!

 前略。

 お父様、お母様。

 

 こっちは見渡す限り、銀世界です。

 真っ白です。

 白一色です。

 むしろ白以外無いんじゃないかと、思うことしばしです。

 ・・・ついでに言えば。

 寒いのです・・・。


 あ、でも心配しないでくださいね? 風邪なんかひいてませんから。

 羊毛百パーセントの、ふわもこグッズで固めていますので、寒さ対策はばっちりです!

 ふわもこのセーターや短パンやらで防寒対策は万全なのです。

 なんたって手編みですから! このざっくり感がいいのです。

 しかもしかも、しーかーも。

 ・・・ここだけの話、この毛糸、ノルディ様の長毛で、実に手に入りにくいと言う、マニアには垂涎の激レア超一級品なのですよぅ!

 あったかいのです。なんだか、ご主人様にいだかれ・・・あ、いけないいけない。妄想は大概にしないと。

 ここに落っこちてから、糸紡ぎの仕方や、編み物も羊族ライフの生きる糧として、また未婚の羊族女子の仕事の一環として教わって、日々成果を挙げています。最近じゃ、こんなセーターだって編めちゃうの!

 羊の群れに癒されてホンワカしたまま人生終わりそうだったから、このままじゃいかんと、落人の知識をひねり出しました。だって少し位はお役に立ちたいじゃないですか。

 ノルディック柄を図案化してみたら、皆さんに大受けしました。

 ノルディック柄って言うと、ご主人様がびょんと反応するので、面白くて何度も言ってたら、なんか、ノルディ柄と総称されるようになったけどね。

 長老と呼ばれる大御所の皆様にも、編み物の腕前を認めてもらいました。


 はるか異世界にいらっしゃる、お父様、お母様。

 願わくばこの手紙があなた方の手元に、たどり着きますように。

 悲しまないで。あなたの娘は生きています。

 悲しまないで。山に、星に、月に、雲に、水に祈ります。

 

 ・・・大丈夫、芽衣は、元気です。



 *********



 ニコニコしながら編み棒を動かすのは年頃の娘たち。

 その中に、落人として羊国が預かる娘、芽衣の姿もあった。

 彼女たちの周りには山と詰まれた毛玉の山。

 ・・・もとい、毛糸球が山積みされていた。

 「めえちゃん、ここは?」

 「ん。ひいふうみい・・・ひとつ編み目減らさないとだめよ」

 「ああ、やっぱりね、うんと・・・こうかな?」

 「そうそう」

 「めえちゃん、こっちは?」

 「色糸を重ねて、くるんで編みこむ・・・そうそう」

 「きれいに編めるといいなあ」

 「大丈夫、すごく上手だよ?」

 あの人にあげるの。と少女が笑う。

 私はあの人に。もう一人がまたはにかみながら微笑んだ。

 くふふふ、と笑いながら、女の子たちは編み棒を動かしていた。

 染まる頬、赤く、かわいらしい。

 その談笑のただ中で、芽衣は幸せをかみ締めていた。


 ・・・女子会・・・! 


 これよ、これ。女の子同士で語らう他愛のないおしゃべり・・・! お茶に甘いお菓子に・・・コイバナ!

 激しく女の子とのおしゃべりに飢えていた芽衣は身悶えた。


 最近なぜか、周りを爺と婆に囲まれて、じっとり物言いたげな眼差しに、貫かれ、こういった会話に飢えていたのだ。


 ・・・いや、話し相手はいるんだヨ。

 ただ。相手が子羊だったり、長老たちで、話が微妙に通じないという弊害があることに目をつぶらないといけない。


 「めえちゃん、めえちゃん。おささまに、えへってしてねー」

 「えへ?」

 「おおそうじゃ、そうじゃあ! ついでにしな垂れかかってくれると尚の事良し!」

 「めえちゃんがにこってしないとおささまがかあいそうなのー」

 「しな・・・? かあいそう・・・?」

 「めえどの! わしらの憩いはめえ殿にかかっているのですぞっ」

 「目線はこう、こうじゃっ! 憂いをこめてのぅ!」

 爺が睫をばしばしさせて、天井を見た。・・・くもの巣あった? 掃除しなきゃ。

 「うるうるの目で見上げれば如何な長様といえども、ぐっと来るに違いないっ!」

 いや、力こめて言われてもなんのことやら・・・。

 「めえちゃんがえへってしたら、おささま、がむばるからねー」

 「ガム・・・ばる?」

 「おお! そうじゃそうじゃあ! 夜は寝かしてもらえんぞー!」」

 「「「ねー?」」」

 「「「のー?」」」


 ・・・いや、キミタチ、今の会話、どう突っ込みを入れればいいの?


 羊族の長、ノルディ様は、雄雄しくも逞しく、優美なお方だ。


 脳内にノルディ様の魅惑のお姿を浮かべただけで、うっとりできる。

 「ああ、もふもふ・・・」


                挿絵(By みてみん)


 長毛種の鏡のようなお姿は、白銀でどこか処女雪のような崇高さを思わせる。

 思い返せば、後はもう。

 「・・・あはぁぁん、いい・・・」

 あの長い毛筋に櫛を入れて・・・いやいや、まずは指ですいてあげなくちゃ。

 やさしく絡まってるのをほぐしてから、ゆっくりじっくり、じらすようにブラシでグルーミングして。

 頭頂部分から背中、なだらかなお尻、かわゆい尻尾と、嘗め回すように・・・いやだわ、舐めませんよ? ブラシでそれぐらい丁寧に櫛梳って、つやを出すのですヨ。

 実際私がオシゴトした後の子羊ちゃんたちの毛並みの良さは折り紙付きなのです。

 子羊ちゃんたちの弱いところ、良いところは熟知しているから、軒並み腰が砕けたようになっているけど。でもそれくらい気持ちのいいマッサージ効果が期待される代物なんです。(色物じゃないのよ?)

 だから、ご主人様だって魅惑のかなたへお連れできると思うのに。

 ご主人様は許してくれない。

 それどころか、ある日、子羊ちゃんたちをお風呂に入れて、魅惑のボディマッサージ(毛すき)していたら、なんだか、子羊はそもそもひとり立ちするための訓練で屋敷に来ているのだから、手を掛けすぎてはいけないと言われちゃって。

 それからなし崩しにお仕事(子羊もふもふグルーミング)が減らされた。

 ・・・私の憩いが。

 和みと憩いの場をかえせっ。

 子羊がだめなら成人した羊さんなら良いのか? と思って申告したら、冷たい眼差しで問答無用で黙らされた。あれは怖かった・・・。

 もの言いたげな長老さんたちの目線が痛かった。おっきなため息吐かなくてもわかってますって!

 子羊ちゃんの毛並みをマッサージしているわたしが、アブナイ人に見えるんだよね。

 確かに情操教育に悪いよねー。

 はぁはぁしながら子羊の尻を追いかける女子高生。・・・女だからまだ許容してもらえるのよね。男だったら即効アウト。

 以来、子羊グルーミングは減る一方。

 その代わりに娘羊さんと談笑しつつ編み物製造が増えてきました。

 あ、でもこれがいやというわけではないの。

 コイバナ、楽しいし。

 誰が誰を好きなんて話をこっそり聞かせてもらってどきどきものです。

 ただ、ノルディ様の名前が出るたびに、心臓がこれでもか! って跳ねるのがオドロキなんです。

 ノルディ様を恋い慕う娘さんは羊族はおろか、ヤギ族の娘さんにもいるんですって。

 そう聞いたとき、得体の知れない何かが渦巻いてしまって、目の前がくらくらしたけど。・・・きっとあれね。コイバナにあてられたんだわ。うん。


 ああ、でも。妄想は日々募るばかり。


 いっそご主人様をもふもふしたい・・・! ・・・あ、いかんいかん。禁断症状かな。私としたことが。


 白銀の長毛種の長様。優美なその体にこの櫛を入れたい・・・! ・・・いやまてわたし。


 毛並みに沿ってやさしくマッサージをしてあげたい・・・! ・・・あああ、待てこら、わたしったらもう。


 ・・・でもさ、きっとだめって一刀両断なんだろうなあ・・・はぁぁああー。


 自分じゃ手の届かない角だって優しく洗ってあげるのになー。

 「・・・めえちゃん、角を洗いますって・・・長様に言ったの・・・?」

 「・・・うんそぅ、何度も洗ってあげますって申告しているのに、ご主人さまったら毎度逃げるんですものー・・・」

 つぶやいた娘さんの周りで、娘羊たちは色めきたった。

 これは、お・・・おさそい!

 「め、めめめ、めえちゃん、それって・・・!」

 「んんー?」

 ・・・芽衣の手のひらが何か太くて大きなものを支え持ち、ゆっくりしごきあげる動きをしていたが、芽衣の意識はとうにお花畑へ行ってしまっていた。

 その仕草を間近で見ていた娘羊さんたちが、頬を真っ赤に染めてうつむいていたなんて、芽衣にはわからない。


 

 「めえちゃんは、長様にあげるのですか?」

 「え、何を?」

 あげる?

 あげるって何を?

 そんな感じで小首をこてんと傾げた芽衣を見て。

 娘羊さんたちはがっくりと肩を落とした。

 「・・・恐るべし、天然さん・・・」

 「いやぁ、求愛行動の意味を知らないからよ、仕方がないじゃない。落人さんなんだから」

 「長様も、それを知っているから、無体できないのね・・・」

 成人した牡羊の角を触るなんて、婚約者か番の相手しか出来ないことなのに・・・!

 そんな感じでこしょこしょ話し込んでる娘羊さんに芽衣は尋ねた。

 「あげる・・・ですね? このセーターで良いのなら、ご主人様に差し上げますけど。。。?」


 「「「「「それはあなたが着なさい」」」」」


 娘羊さん達が指差したものは、ノルディがわざわざ芽衣宛にとよこした毛糸玉で作ったセーターだった。

 芽衣が今編んでいる・・・ノルディ様の毛糸は白銀なのに光に当てると蒼く輝く珍しい毛だった。

 人柄(羊柄)を模して白く崇高な感じがする、一品だ。

 したり顔で羊娘さんたちは意気投合する。

 天然娘には早い所、マーキングが必要だ。

 お目当ての彼が、この天然娘に目を奪われたら元も子もないのだ!

 長様にはせいぜい張り切って、娘を落としてもらわねば!

 「ちょうど、恋人たちの日が近いのですもの。めえちゃんが長様にお礼を言ったら長様喜びますわ」

 「恋人たちの日・・・?」

 小首をかしげる娘に、羊娘達は頭が痛くなる思いだった。

 この娘、絶対、長様を意識してるのに、わかってない・・・!

 「寒い冬を暖かく一緒に乗り越えましょって、贈り物をするんですよ」

 「ノルディ様の毛糸で編んだセーターを着て微笑んであげたら、きっと喜んでくれますよ!」

 「そうそう。落人さんは獣姿になれなくて寒そうだって心配なさっていたから!」

 「だから、取って置きの冬毛を毛糸玉にしてくれたんですよー?」

 「「「「「めえちゃんにって!」」」」」

 「ノルディ様は、でも、」

 

 「大丈夫! きっと喜んでくれますからね!」


 そういって娘羊さんたちは・・・笑った。


 ********


 

 そんでもって。

 恋人達の日の当日。

 和気藹々と言葉を交わす恋人達の、その中で。

 ノルディ様の毛糸で作ったセーターを着込んだ芽衣の姿を、見つけるなり速効で攫って行ったノルディ様がいたとか。


 雄雄しい羊の姿で、背中に娘を乗せて走り去る、二人の後ろで、爺婆たちが万歳三唱していた。

 

tmさまありがとうございました。小話、ご笑納いただけると幸いです。

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