羊の国から、なつやすみ。
拝啓。
異世界にいらっしゃるお父様、お母様、いかがお過ごしですか?
こちらはとても平和です。
涼しかったあの時期はあっという間に過ぎ去りました。寒かったあのころが懐かしく感じられます。
今はもう、暑くてあつくて溶けちゃうんじゃないかと思うくらいです。現に木陰で、でろ~んと伸びている子ひつじさん続出なんですよ。・・・それはそれでかわゆいんですがね。
あのデロンとしたところなんか見ていると、鼻息が荒くなって、目がかまぼこ型になってしまいますね。にやにや。
くったりした子ひつじさんを枕に、昼寝。いいですねー。暑いので嫌がられてぺしぺしされますがね。
・・・そんで毎度ご主人様に怒られますがね・・・。
熱中症が怖い今日この頃なので、子羊ちゃんたちには水分小まめに取るよう指導してます。
かっかと燃える太陽さんが恨めしいです。
でも芽衣はせっせと涼しい夏を演出しますよ! 愚痴を言っていても仕方がないもん、楽しまなきゃ損です。
水辺に大きな布を張って、簡易テントを何個も作りました。日陰を作って居心地よくすれば子羊ちゃんたちも喜ぶだろうと思って! 瑞々しい果物も沢山冷やして、香草の青汁だって準備しました。さらにおこちゃまには甘い飲み物。大人の皆様にはすっきりした果物ジュースに、キンキンに冷やしたお酒です。
サンドイッチも各種。つまみやすいようにピンチョスにしました。羊さんのチーズで作ったピザだって、夏ばて防止にお野菜のピクルスだって準備しました。
そしてご主人様にお願いして作ってもらったのが、川の支流をせき止めた簡易プールです!
でも完全に流れを止めたわけじゃないんでミニ自然に流れるプールです!
小さきものが流されないように人手だって募りました! 下流でしっかりと成人牡羊の皆さんが見張ります。でもこんなに成人の牡羊さんがいたってことが驚きです。
聞けば、お屋敷とは別の屋敷で、日々毛織物の運搬や販売などの商取引を行っているそうです。
「あのね、あのねー、でいりきんしになったんだよー」
「おささまがねー」
「きめたのー」
「じじさまもいっしょになってねー」
「「「きんしだーって」」」
「「「でいりきんしってなにー?」」」
「・・・えーと・・・」
答える前に、血相変えたご主人様に掻っ攫われました。後ろで小さき者たちがメリーさんに説教受けて、さらに小さくなってました。かわいすぎる・・・。
・・・さて、万が一のために川を横切るように丈夫なロープを五本張りました。
ちいさきものたちが手をすり抜けてもどれかに引っかかるでしょう。むしろ引っかかるために大人の手をさけるでしょう。
準備はおーけーです。川流ればっちこい!
川原にこだまする子供達の歓声。楽しそうな笑い声。
万全の川遊び。でも喜んだのは小さき者だけではありませんでした。
「おお、嫁御、嫁御、お茶がなくなりそうじゃー」
「こっちに来て一緒に水浴びするかー?」
川にはまってじたばたしてる(・・・としか見えない)爺婆に手招きされました。
「水着はこの間渡した奴じゃろうなー」
「おー。おささま好みののー」
自分の体の前で手でカーブを描く爺たち。・・・その手つき何。
「ぐふふ。あれを着た嫁御を見れば、朴念仁の長様といえど!」
「辛抱堪らん!」
爺たちが腰を前後にかくかくさせながら、叫んだ。
ほんと、無駄に元気な爺ちゃんたちだ・・・。
「・・・ところで、皆の衆~、カキ氷にはイチゴミルクじゃと、わしはおもうのじゃがー」
「いやいや、香草ミルクがいちばんじゃー」
「おおお、特に嫁御特製の香草を使った香草シロップは絶品じゃの~」
さり気なさを装って話を変えた爺たちの目線の先で、ご主人様が無言の威圧感を出していました。・・・ご主人様、凍ります・・・。
・・・でもまあ、良いか。夏だし。
今日は一日ここで、羊族総出で遊ぶのです!
だから遥かなる異世界にいらっしゃるお父様、お母様、
大丈夫。芽衣は、元気です。
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水しぶきがあがるたび、小さきものの歓声と、芽衣の笑う声が聞こえる。
羊族の上位種ノルディは、水着をつけた芽衣の姿に釘付けだった。掴んだタオルもそのままに、呆然と見つめるその先で。
・・・芽衣の小ぶりの形良い乳が濡れていた。
ぴたりと張り付いた布が、芽衣の綺麗な形を浮かび上がらせている。・・・それは先端の甘いつぼみも。
小さな尻が申し訳程度の布に隠されて、でも腿の間の柔らかい部分がふっくらと盛り上がっているのを見て、大判のタオルを手に駆け出そうとしたノルディさんだったが、楽しそうな笑顔に声をかけるタイミングを逃してしまった。
体のラインはまったくと言っていいほど隠されていないが、全裸よりはマシ。男の劣情かき立てるが、全裸よりはマシ。
・・・だが、この姿を見ているのが自分ひとりじゃ無いことが、こんなにも悔しくて、常なら隔離されているはずの牡羊達の目玉を潰して回りたい、とぐるぐる唸るノルディさんだった。
だいたい。
川遊びなら私や既婚者だけでも良いだろうに、いつの間にか組み込まれていた成人牡羊の群れ。メリーやリリアナの懇願に押されたが、呼ぶのならなぜ恥らって隠れているのだ、さっさと目当ての男を釘付けにしておかないか!
私の芽衣が万が一にも目を奪われでもしたら、どうするのだ!
芽衣の柔らかな黒髪が濡れた肌に張り付いて、稜線を美しく演出している。すらり伸びた太腿の艶やかさに、目の前がちかちかした。さわり心地の良さそうな胸から腰、腰から太腿と目をやって、際どいところに刻み付けた赤い花を認めて安心する。
夕べ、きつく吸い上げておいてよかった。
胸元と右わき腹と太腿の内側。
特に両胸のあわせの内側、見えるか見えないかと言うぎりぎりのところ。普通なら見えないそこは、上から胸の谷間を覗かなければ見えない場所だ。現に成人した独身男子が覗き込んで跡をみつけ、私を見て青くなっていた。
その目線にふっと余裕の笑みを帰す。~~~実質余裕なんか無いに等しいがな! そこは男の意地と言うものだ。
「きゃっ! やったなぁ~!」
小さきものが芽衣に向かって水をかけたようだ。ばしゃばしゃと水音、楽しそうな声が響いた。
芽衣も笑いながら応戦している。大きく開いた足の間の水を手のひらで掬っては投げかけていた。
・・・その右太腿の際どいところに、赤く咲いた花。
芽衣を目で追っていた男の顔が、さっと色をなくした。
・・・それでいい。
あの娘は、私のものだ。
*********
「・・・百物語?」
白銀の麗しの長様が小首をかしげた。
「はい! 怖い話を順番に話していくんです。ここにいる人数分なので厳密には百物語にならないんですがね。話し終ったら持ってるろうそくの火を吹き消すんです」
ふーってね!
「・・・なるほど。徐々に明かりが減って恐ろしさも増すと言う訳ですね・・・」
「はい! 意中の人の隣にすわると良いですよ! 怖がってぎゅうぎゅう抱きついてくれますからね!」
「・・・では、私は芽衣の隣に座ろう」
「は?」
何か言い返す前に、ご主人様の隣に座らされました。・・・え、でもここを狙ってる人は沢山いるんですよ?
お尻がうずうずと居たたまれなさにうずきます。良いのかな、ここにいて。
恐る恐る顔を上げると、となりに座るご主人様が満足そうに笑った。
・・・ほっとした気分になった。
「では、皆準備はいいか?・・・はじめるぞ」
厳かにご主人様の声が響いて、各々のろうそくの火が灯された。
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「・・・後ろを振り向いた時・・・そこには血まみれの羊の姿が・・・」
「ひィ!」「ひょえ!」「ひやあ!」
小さきものを筆頭に、羊族の俊英たちが情けない声を上げた。牡羊の名誉のためにいうが、何かを決意した娘羊に抱きつかれて驚いたのだろう。現にメリーの隣の男は、顔を真っ赤にしてわたわたしてる。
リリアナの隣の男は奇妙なまでに固まっていた。
「かたかたかたとなる音に慌てて顔を上げたら、窓の外に無数の人形の首が・・・!」
「ひぅ!」「ひいい!」「ひょわあ!」
小さきものにいたっては、頭かくして尻隠さず。積み上げたクッションの山に頭を突っ込んでプルプルしている。尻が震えているのを見ても、なんの感慨も浮かばないが、芽衣が見れば、きっといつものように鼻息荒く子羊の尻を追いかけるのだろう(いやな表現だな)。だが、芽衣は今はそれどころではないようだ。
・・・ふ。
「水のそこから、今も聞こえるそうです。・・・おいでぇ・・・おいでぇ・・・と」
「はぅ!」
・・・ふふ。
「走っても走っても耳元で叫ぶんだってぇ、かえせえええって!」
「ひ、ぅ!」
がたがたと震えながら私の腕に縋りつき、私を盾に隠れているつもりなのだろう、芽衣の姿を目にすれば、どんな媚態も敵わない。
かくかくかくと震え慄く君の姿はなんと言うか、・・・かわいらしいにも程がある。
ほら、今また吹き消されたろうそくの炎に、うろうろと動く、黒い瞳。
まさかと思うが、お化けとやらを探しているの?
君の一番近いところに私がいて、そんな居るか居ないか判らない代物を傍に寄せ付けると思っている?
ありえないだろう。
だから意地悪したくなるんだ。
「・・・芽衣。ほら皆話し終ったよ、キミの番だ」
「・・・ひぃ。・・・わ、わたし、です、か・・・?」
ふふふ。腰が抜けそうな頼りない顔で見上げてきた芽衣の可愛らしさは、筆舌に尽くしがたい。
このまま芽衣を抱き上げて部屋にこもり、朝まで鳴かせたくなるほどに。
芽衣の柔らかいところを暴いて、噛り付いて、啜り上げて、全部味わってえぐり立てて、一番奥で果てたい。
肌の上にシルシをつけるだけじゃ、足りないんだ。
芽衣の中に刻み付けたい。
深く繋がって、離れられないほど近くにいたい。ニガサナイ。
「あ、じゃ、さ、ささ、最後にょ、おはなし、です」
ひしっとわたしの腕にしがみ付いたまま、芽衣が話し始めた。
*******
「・・・で、慌てた少年が村に帰ってみんなに言いました。
狼が来たぞーッ!って・・・。でも、さんざん嘘をついていた少年の言葉を誰も信じてくれなくて。
やがてやって来た狼の群れに、村人達はみんな食べられてしまったという事です・・・。
おしまい!」
わたしは、ふーっとろうそくの火を吹き消した。
みんなの怖い話が本当に怖すぎて、これ以上は泣いてしまいそうだったから、御伽噺で場をにごそうと思った。
「あれ?」
話し終わったのに、みんな微動だにしない。
「・・・ごしゅじんさま・・・? みんな・・・?」
顔を上げてノルディ様を見た。それから、みんなも。
「・・・ぇ」
・・・・・・みんな、白目を剥いて気絶していた。
美形の白目・・・(遠い目)
がくぶるしながら皆魘されたのでしょう。
「おおかみ・・・」
「おおかみがきた・・・」
「おおかみが・・・」
「うわあああああああんんんん、もううそつかないいいいいいい」