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羊の国から、衣替え

・・・作中変態チックな言葉がもろに炸裂してますが、別にそんな描写はないです・・・。

拝啓。


はるか異世界に居られます、お父様、お母様。いかがお過ごしですか?


もう、初夏の頃ですね、新緑の緑の柔らかさが目に浮かびます。


日に日に暖かくなって、過ごしやすい季節になりましたか?


そう、雪深い山間のあの町にだって、もぅ初夏の気配は押し寄せてますでしょうね。


冬物は仕舞い終わったかしら?


もぅ、冬物着ている人はいませんよね? ね? ね?


ブ厚くて重ーい外套脱いで、お出かけしようよと、往年の飴玉隊の三人も言ってましたもんねぇ・・・。


あんなもん、着てたらいくら初夏の心地良い風が吹いても、一向に気持ち良くなんかなりませんって!


・・・やはり、これは大問題ですね・・・。


あ、なにが問題かって? いえいえ、こちらのお話なのであります。


主に、わたくしの精神的苦痛を払拭するために必要な活動予告なのですよ!


目指せ、クールビズ! 芽衣は快適なひつじライフを極めるために、いっそう努力します!


・・・ですから、ご両親様はご心配なさらぬよう。


遠い異界の片隅で、切に願っております!



 *************




「むう、問題です。大問題です。美形腹黒鬼畜攻めは正義な位、大問題なのです!」


「・・・わかった。わかったから、戻ってきなさい、芽衣」


今日は麗らかないい天気。


風薫る五月。生命は躍動をはじめ、伸びやかに己の人生を謳歌していた。それは、このひつじ族も。


この時期一番のイベントが開催されるこの月、ひつじ族に名を連ねる者たちはどこかうきうきとしていた。


そう。


芽衣が訪れる前までは、私だってこの時期を心待ちにしていたものだ。


文字通り、血湧き、肉踊る、ひつじとして生まれたものなら感じるだろう、生命の躍動を、種の神秘を実感できるこの珠玉の時期。


だが、いまや苦痛にしか感じられない。


あの胸躍らせる躍動の時が、苦行にしか感じられなくなってしまった。


・・・毛狩りシーズンの訪れ、だ。


大きな鋏を手に、きらきらした瞳で芽衣がノルディを見上げた。


・・・どうやら、刈る気満々のようだ。あれだけ、結構ですと言ったのに・・・。


羊族の上位種、白銀のノルディはどうしたもんかとため息をついた。


毛刈り。それは、羊にとって恍惚の時間・・・!


刈り手に身を預け、身を投げ出し、もぅどうにでもしてぇな状態でしなだれかかる。


分かる。分かるさ、わたしだって羊だからな!


あの開放感、あの清涼感は、金では買えない。


重いコートを脱ぎ捨て走る、あの開放感!!!・・・いや別に私たち羊族は露出狂ではない。だが、生命に刻み付けられた、羊の性が、開放感を喜ぶ自分自身を抑えきれないのだ!


あの姿を、そのときの自分を、芽衣に見せたくない一心でひたすらに隠してきたこのイベント。


芽衣が館にやってきてから、その存在を知られてはならんと言明し、徹底して秘密裏に行ってきた毛刈りイベント。


・・・毛刈りの翌日、芽衣の「あれれ? なんだか、今日はヤギさんがいっぱいですねー」に、そ知らぬ顔で相槌だって打った。


な、の、に。


「あンの、くそじじい・・・」


白銀のノルディは、ぎりぎりと歯軋りしながら恨み節を呟いた。


締め上げてやろうか。


敬老精神も吹っ飛ぶ、爺の仕打ちに、ノルディは心底怒っていた。あんなにあんなに、隠してきたのに・・・! バラしやがってくそじじい!


「なぁにが、魅惑のつるつるタイムだ!・・・刈っちゃいけないきわの際まで丸刈りにしてやろうか・・・」


・・・白銀のノルディは、おせっかい爺たちにとうとう殺意を抱いた。


・・・まあ、そんなこんなで、愛しいあの子に、だらしなく寝そべり、恍惚の表情を浮かべる自分を見せたくないばっかりに、今年の毛刈りをばっくれようと思っていたノルディだったが・・・、芽衣のきらきらビームに阻まれていた。


そっと目を離す。


(とことことこ)じー・・・。


向きを変えてまた目をそらす。


(とことことこ)じー・・・。


ああ・・・その期待に満ちた眼差しに、負けてしまいそうな自分がいるが、律するんだ、俺!


愛する芽衣にあんな姿を見られて良いのか、俺!


なんたって。


毛刈りスタイルってば、羊の姿は大の字万歳。


そう、大の字で、ば、ん、ざ、い!


ノルディさんの背中をつめたい汗が通っていった。


しかも、しかもだ。むくむくのうちはまだ良い。


羊毛に阻まれ地肌はまるで見えやしないのだから。


だが、ひとたび、つるりと毛皮を剥かれたら。あら不思議、さっきまでここにいた羊ってヤギだったのね、と錯覚することもあるくらい貧相な姿になる。


しかも、羊毛を刈られてる間、無防備にも程があるって位、股か(ぴぴぴぴぴぴー! レッドカード!)まるだし。


ま、る、だ、し(♥ )なんだよ、諸君!


「・・・何が悲しくて愛しの芽衣との初めての共同作業が、剃毛って・・・」


なんて高度な羞恥プレイ!


・・・しかも、剃られるのが自分。


ずずずうううううううううんんんん、と落ち込んだ。


逆でしょう、普通!


妖しく微笑み、芽衣の羞恥を煽りつつ、大人の余裕で芽衣を大人にしてやるのは私の仕事のはずでしょう?


何で、隠しておいたイベントがオープンになっていて、私の担当が芽衣なんですか・・・陰謀? 陰謀ですか、恨みますよ、長老・・・。


「ご主人様、毛刈りって羊さんじゃなきゃ、できませんよぅ? だってわたくし、落人ですから、刈れる様な毛皮姿になれません」


「・・・ええ・・・そう・・・そうですね・・・」


なんだか、ノルディは男の純情を投げ捨てたくなった。



 ***********



「えっと、で・・・では、参ります。ご主人様、痛かったら左手上げてくださいね?」


どこの歯医者と自分に突っ込みいれてみたが、ご主人様は疲れているのか無口無言。


どこぞの武士のように眉間にしわをこさえながら、雄雄しい獣のお姿になってくれた。


爺様たちが、周りでやいのやいの言っているが、昨日までにみっちり受けた講義を思い返した。


怪我をさせないように丁寧に、不自然な体制を長く取らせないためにも手際よく。


まず、ご主人様の背後に立って、前足を抱えあげた。腰を押し付けて胸を張るように背中を支えると・・・あら不思議。


羊さんの直立スタイルの出来上がり。ここから今度はそっと尾てい骨をおろして行けば・・・両手両足前に習いの羊さんの出来上がり!


おし。ここまではうまくいった。それではこれからが本番です。


「ご主人様、わたくしごときの拙い手で申し訳ありませんが・・・失礼いたします」


大きな鋏を手にとって、そっと白銀の毛並みに沿って鋏を入れた。


・・・一心不乱に鋏を使い、ふと気がつけば予定よりも時間がおしていた。


でも、ご主人様はじっとしてくれたままだ。ありがたいけど、それが却って自分の未熟さを突きつけられたようで、申し訳なくなる。


最後の最後まで身じろぎひとつせず、じっとしてくれていたご主人様が、私が腕を止めたのを感じたのか、ひょいと起き上がった。


無言で青い瞳が私の瞳を覗き込んでいる。


その瞳がそっとそらされて、私はあせった。


ザンバラの虎刈り姿になってしまってて、わたしのあまりの下手さにご主人様が呆れたんだ!


そう思ったら、思わず涙がにじんだ。


あわてて手を伸ばし、ご主人様の体にしがみついた。


「・・・ご、ご主人様、ごめんなさい・・・! 練習したし、みんなも上達したから大丈夫だって言ってくれたからって、ご主人様の毛を刈るなんて、私には早すぎました!やっぱりまだまだでした」


そしたら、どこからか咥えて来たシーツに、頭を突っ込んでもぞもぞしていたご主人様が、「立ち上がった」


えぐえぐしながら見上げる先に、髪がてんでに短くなった、ご主人様のお姿が・・・!


優しいお顔で微笑んでくれて、


「芽衣。来年もまた芽衣にお願いしますね。良いんですよ。だんだん慣れてくれればいいんです・・・」


そう言って、女神様のように慈愛に溢れた微笑を見せてくれたので、私はまたも泣いてしまった。



*************



「ご主人様、来年はもっとちゃんと刈れる様に練習します!」


そう言って泣き笑いをした彼女は、あいも変わらず、鈍くて可愛い。


真剣に仕事にまい進する彼女は、私のだらしない姿を見ても眉一筋も動かすことはなかった。


・・・それどころか。


彼女の胸に抱かれて、彼女の全身の動きを肌で感じられて。


芽衣の真剣な横顔、繊細な指先が、私のわき腹をなぞり、全身くまなく撫でさすられて。・・・いや、毛を刈っているのだから当たり前なのだが。


ほう、と切ないため息が口をつく。


ただでさえ、恍惚のときなのに。


芽衣の指はそれ以上の快感をもたらした。


「・・・癖になってしまいますね・・・芽衣」


黒髪の、柔らかい娘を抱き寄せて、毛を刈るというイベントの重大さをどう伝えようかと悩んだ。


これはそもそも、夫婦でないと成し得ないイベントなんですよ、と言うべきか。


将来を誓い合ったものにしか、その身を任すことはしないのですよ、と言うべきか。


白銀のノルディは、思案する。





きっと、勃ってたとおもう長様の一物。でも芽衣は一生懸命。

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