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煙と灰のエアロスカール  作者: 犬山三郎丸


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点と線

第18章点と線

工房の灯りが落ちても、堂島の頭の中は明るいままだった

配管の鳴り、伸びた手、落ちた針金

全部が門の脇に寄っている

寄せている、という言い方のほうが近い


リコットは工具台の前でレンチを拭いていた

寝ると言ったのに手が止まらない

止めたら戻ってくる音がある

今夜の鳴りの残りだ


「おじさん」リコットが言う

「今夜のやつ、荷は出してないんだよね」


「出してない」堂島が返す

「今夜は受領票じゃなく点を拾う夜にした」

「出しても止められるなら同じだ、それなら先に線を作る」


入口の影でシルビィが外套の内側を指で押さえている

そこに針金がある

触ってはいない

しまってある

しまったこと自体が線だ


堂島が言う

「シルビィ、さっきの紙」


シルビィは小さな紙を出す

ほんの短い時間だけ

単語が二つ

門、鳴り

針金、落ち

書いたのはこれだけ

それで足りる


リコットがそれを見て息を吐く

「こういうの助かる」

「私は現場を見ると腹が立つ方に寄るから、後から順番が抜ける」


堂島は頷く

「順番が抜けると相手の時間になる」

「抜けないように先に形にする」


堂島は工房の端にあった古い紙片を一枚引っ張り出す

裏が白い

余白がある

これなら増やしすぎない

増やすのは紙じゃなく整理だ


堂島は言う

「書くのはこれだけだ」

「いつ、どこで、何が起きたか」

「それと、何が落ちたか」

「名前は書かない、門の中の話もしない、位置と時間だけ」


リコットが首を傾ける

「それで線になるの」


「なる」堂島が言う

「点が同じ場所に寄って、同じ順番で起きてるなら線になる」

「線になったら偶然の顔ができなくなる」


堂島は紙に短く書いていく

門、外窓口、脇

吐き口、留め具

鳴り、混乱、手

針金、切り口、片側が潰れ

時刻は正確じゃない

でも順番は正確だ

工房を出た、門が見えた、数え始めた、鳴った、手が伸びた、針金が落ちた

その並びだけは崩さない


「おじさん、なんかさ」リコットが言う

「紙にすると急に落ち着くね」

「現場でぐちゃぐちゃだったのが戻ってくる」


堂島は紙から目を上げずに返す

「戻すために紙がある」

「現場は勝てばいい、後で残ればいい」

「残らないと次が同じになる」


シルビィが小さく言う

「次、同じ、嫌」


堂島は短く返す

「……ああ」


紙が埋まったところで堂島はペンを止める

止めて余白にもう一つだけ書く

目印、煤点

結び目の横に点を付けたこと

崩れていなかったこと

崩れていないなら箱の封は弄られていない

狙いは箱だけじゃない

その推測は推測のまま置く

決めつけると線が折れる


堂島が言う

「これを持って門へ行く」

「エリックに渡して向こうの点と重ねる」


リコットが即答する

「私は行かない」

先に線を引く

工房を空けない線だ

「工房が止まる」

「でも渡すものは揃える」

リコットは引き出しから受領票の控えと搬入札の写しを出す

「札の刻印、いつもの角が擦れてるやつ」

「ここに写しといた、あとで突き合わせて」


堂島は頷く

「了解」


シルビィが影から言う

「門、行く」

一拍置いて

「灯り、薄い時」


堂島は返す

「今だな」



---


門へ向かう夜道は、昼より静かなのに目が痛い

白い灯りが点々と増えて影が濃くなる

影が濃いほど、影の使い方が上手いものが混じる


門灯の下にエリックが立っていた

疲れは顔に出ている

でも視線は鈍っていない

門を見て影を見て人の位置を見ている


堂島は格子の外側、線の内側に入らない位置で止まる

「エリック、渡す」

「今夜、門の外窓口の脇で落ちた」


シルビィが外套の内側から布包みを出す

手のひらに載せて差し出す

格子の下の開口に置く

押し込まない

置いて引く

それが線だ


エリックは布越しに受け取り、灯りの角度を変える

一拍で言う

「同じだ」

「切断工具の痕だ」

「片側だけ潰れてる」

「刃が食い込んで、最後に捻れて切れてる」


堂島が言う

「中層でも出てるのか」


エリックは頷く

「出てる」

「しかも門に寄ってる」

「門へ向かう通路、外窓口の裏、灯りの死角」

「拾った札の擦れ方も偏ってる、同じ角だけ削れてる」


堂島は持ってきた紙を出す

見せつけない

でも必要な形にして見せる

「こっちはこれだ」

「鳴った場所、手が伸びた場所、落ちた場所」

「時刻は順番だけ正確にしてある」


エリックは紙を見てすぐ返す

内側に持ち込まない

例外を作らない

「十分だ」

「これで線が引ける」


堂島が聞く

「線になると何が変わる」


エリックは外側に出せる言い方だけで言う

「偶然の処理ができなくなる」

「同じ場所で同じ止まり方が続いている、と書ける」

「書ければ捜査の形になる」


堂島が息を吐く

「やっと仕事になるな」


エリックは一拍置く

「仕事にしたい、だから頼む」

「俺は内側を追う」

「でも外側の点が要る」

「お前ら三人で外の点を拾ってくれ」


堂島は頷く

「了解」

「拾うのは位置と時間と死角」


エリックが短く肯定する

「その三つだ」

「誰がいたかは後でいい」

「今はどこが使われてるか、そこだけ」


シルビィが小さく言う

「影、場所」


エリックはシルビィに目を向け、声を落とす

「影の場所が一番効く」

「影は嘘をつかない」


堂島が言う

「次はどう動く」


エリックは言い切る

「寄せてくる」

「門のすぐそばで、もう一度混乱を作る」

「混乱の中で抜く」

「抜けなければ、止めるだけでも成果だ」

「止まれば荷が詰まる、詰まれば底が困る、困れば誰かが折れる」


堂島は目を細める

「折れた方が負ける」

「だから折れない手順にする」


エリックは頷く

「そうだ」

「例外を作るな」

「門の中で話をしようとするな」

「外で終わらせろ」


堂島は短く返す

「了解」



---


帰り道、シルビィが角で紙を出す

危険が薄い場所、逃げ道がある場所

単語だけ書く

『線』

『切り口』

すぐしまう


堂島はそれを見て、胸の奥のざらつきが少しだけ変わるのを感じた

怖さが消えたわけじゃない

でも形になった

形になった怖さは扱える


工房へ戻るとリコットが入口で待っていた

寝ていない顔だ

でも問い詰めない

線を守る顔だ


「どうだった」リコットが聞く


堂島は要点だけ落とす

「同じ切り口が中層でも出てる」

「門に寄ってる」

「これで線になる」

「次は寄せてくる」


リコットは一拍置いて言う

「分かった」

「じゃ次は工房の中じゃなく、門の前で勝つ形にしよう」

「私は配管の前兆を見る、鳴る前に拾えるものがあるはずだ」


堂島は頷く

「……ああ」

「鳴る前に止められれば混乱が起きない」

「混乱がなければ手も伸びない」


シルビィが短く言う

「混乱、ない、いい」


堂島は返す

「そうだな」


その夜、三人は寝る

でも前みたいにただ沈まない

点が線になった

線ができたなら、次はその線の先で待っているものがある


門の白い灯りは遠い

遠いのに影はもう近い

近いなら、こちらも手順を前へ出すしかない

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