木枯らしの便りは雨宿りの軒先で
想定外の雨脚に、みるみるうちに地面が煙っていく。
夏の夕立のような激しさに、傘を持たずに出てしまったことが悔やまれた。
実際は夕立からは大きく季節感が外れて、雨は打ち付けるほどにその冷たさを増していくようで、あっという間に濡れ鼠になった私は慌てて軒先に避難したのだけれど。
「天気予報では、夕方からだったはずなんだけどなぁ」
思わず空を見上げて恨めしそうに呟いたところで、どうにもならない程度にはぐっしょりと水気を吸ってしまったコートが重い。
「やっぱりダウンにしとくんだったかなぁ」
ちょっと出掛けるだけだからと、クロ-ゼットから出したままにしてあったコートなんか着るんじゃなかった。
撥水加工もされていない毛のコートなんて、水を吸ったスポンジを着ている以上に質が悪い。
重いし、何となく獣臭いし、雨を防ぐどころか、しっかり服に水分を含ませる手助けをしているんじゃないかと思う。
いつの間にか吹き始めた北風に、加速度的に体温を奪われる。
冷え切ってかじかみ始めた手を握ったり開いたりしながら、これ以上感覚がなくならないうちに強行突破して帰ろうかと思案する。
傘なし、連絡手段なし、カイロなし。ついでに家族は外出中で、後方支援の期待もできない。
ナイナイ尽くしでいっそ清々しいほどに何もない。
「よし、走るか!」
雨の中に踏み出す決意を固めた瞬間、木枯らしに吹き上げられたチラシが、顔面に張り付こうとしたのを、間一髪手でブロックした。
そこには、見覚えのある絵と、見覚えのあるロゴと、見覚えのある名前があって、一瞬私は手の冷たさも、濡れた服の重さも、理不尽な現実に打ちのめされた気分も、何もかもを忘れた。
「そうか…そう、なんだ……」
私の感傷を裏切るかのように、身に染みとおる寒風が、私の手からチラシを奪い去っていく。
吹き付ける風の冷たさに、どれほど痛めつけられても、私は。
その冷たい風に乗ってかすかに聞こえる、その便りに耳を澄まして。
「幸いなるかな、幸いなるかな」
誰にも伝えることのない感情を、そっと嚙み締める。
単純じゃなくて、複雑な感情。
だけどきっと、そこには喜びが一番多いのだとそう思う。
だから、私も立ち止まっていられない。
この雨の冷たさに、風の冷たさに、立ち尽くす時間さえも惜しいのだから。
私は雨の中に、もう一度走り出した。




