女王陛下(クイーン)のチェックメイト
「それでは、最初の証拠を提出させていただきますわ」
わたくしの、静かだが有無を言わせぬその言葉を合図に、それまでわたくしの後ろに控えていた兄フェリクスがすっと一歩前に進み出た。
彼は騎士のような凛とした声で、一枚の羊皮紙を高らかに掲げると、その内容を朗々と読み上げ始めた。
「これはリゼット・ミューラー嬢の侍女アンナの家族がここ一月の間に購入した、その収入には到底見合わぬ高価な品物のリスト! そしてその購入資金の汚れた出所を完璧に記した帳簿の写しである!」
フェリクス兄様は、侍女の家族が新しい家具やら高価なドレスやらを買い漁っていた事実と、その金がリゼット家の執事を経由し、最終的にアルブレヒト王子の私的な予算から不正に支出されていたという、動かぬ金の流れを誰の耳にも聞こえるよう明確な数字と共に暴露した。
会場の貴族たちが、一斉にざわめき始める。
「王子が、なぜたかが男爵令嬢の侍女にこれほどの大金を…?」
「まさか…これは買収以外の何物でもないではないか…!」
アルブレヒト王子とリゼット嬢の顔から、さっと血の気が引いていくのが手に取るように分かった。
兄様が下がると、今度は我がクライフェルト家に長年仕える、忠実な老執事が厳かな、そして重々しい足取りで前に進み出た。
彼が震える手で、しかしはっきりとした声で読み上げるのは、王子の息のかかったあの宮廷医師からの涙ながらの「宣誓供述書」だった。
「私、宮廷医師ゲルハルトは、アルブレヒト殿下からの、拒むことのできない強い圧力と、そして多額の金銭により、リゼット嬢の侍女に対し『原因不明の毒物による、極めて重篤な中毒症状である』という、全く事実に反する、偽りの診断書を作成したことを、ここに神に誓って告白し、心の底から深く深く謝罪いたします…」
会場が、もはや制御不能なほどの騒然とした空気に包まれる中。
わたくしは、静かに一度だけ手を、「ぱん」と叩いた。
その音を合図に、広間の大きな扉が、再びゆっくりと開かれる。
そしてそこから、二人の屈強な衛兵に付き添われて、一人の見慣れた少女が現れた。
それは、この瞬間も病床で生死の境を彷徨っているはずの、リゼット嬢の侍女アンナ本人だった。
――決定的な、生き証人の登場。
それは王子とリゼットにとって、もはやいかなる言い訳も、嘘も、涙も、通用しない、完全な「詰み」を、意味していた。
アンナは、わたくしの前に泣きながらひざまずくと、震える声でしかし会場中の全ての者に聞こえるよう全てを告白した。
「わ、わたくしは…! リゼットお嬢様に、あのジャムを食べて苦しんで倒れたフリをしろと、そう命じられて…! 故郷の貧しい家族を人質に取られて逆らうことができなかったのです…! どうか、どうか、このわたくしをお許しくださいませ…!」
リゼット嬢は「あ、ああ…」と、力なくその場にくずおれた。
王子は、怒りと屈辱にその顔を熟れたトマトのように真っ赤にしながら、わなわなと震えることしかできない。
わたくしは、床にへたり込んだ哀れなリゼット嬢の前にゆっくりと歩み寄る。
彼女にしか聞こえないように悪魔のように甘く、そして真冬の氷のように冷たい声でその小さな耳元にそっと囁きかけて差し上げた。
「ねえ、リゼットさん。人を呪わば穴二つ、と申しますでしょう?」
「あなたが、このわたくしのためにご親切にも一生懸命お掘りになったその穴は。ご自分自身が、お入りになるには少しばかり深すぎたようですわね」
「――ごきげんよう、哀れで愚かな嘘つきさん」
そのとどめの一言に、リゼット嬢は「ひっ…!」と、短い獣のような悲鳴を上げ完全にその心を折られたようだった。
わたくしは、すっと立ち上がる。
そして今度は、会場全体を見渡し、女王のような、絶対的な威厳に満ちた声で、高らかにこの茶番劇の終幕を宣言した。
「我がクライフェルト公爵家の、七百年に渡る誇り高き名誉を! そして、わたくしが愛する領民たちと心血を注いで作り上げたささやかな事業を! そのあまりに卑劣で、そしてあまりに稚拙な嘘で、貶めようとしたその大罪!」
「この、アリアンナ・クライフェルトは、断じて許しはいたしません!」
その言葉はこの場の支配者が、もはや王子などではなく、このわたくしであることを、そこにいる全ての愚かな者たちに知らしめた。
王子派閥の貴族たちは蜘蛛の子を散らすように青ざめて顔を伏せ、他の貴族たちは畏怖と熱狂的な称賛の入り混じった目で、わたくしを見つめることしかできない。
王子は完全に失墜し、リゼットは心の闇に崩れ落ちた。
わたくしは、自らの手で完璧な脚本による最高の逆転劇を見事に完成させたのだった。




