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どうせ悪役令嬢なら、二度目の人生は自分ファーストで! ~冤罪で断罪された完璧淑女、時間を遡って好き勝手に生きてたら、なぜか周りがひれ伏し始めました~  作者: ヲワ・おわり
第7章:最初の「ざまぁ」

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毒の囁きと愚かな駒

 王宮の一室。

 そこは、公的な謁見の間ではなく、今はもう誰も使うことのない、埃っぽい古い書庫の一角だった。

 月明かりだけが高い窓から、まるで舞台のスポットライトのように、床の一点を青白く照らし出している。

 その光の下で、アルブレヒト王子とリゼット・ミューラーは密会を重ねていた。


 王子は、アリアンナに衆目の前で拒絶され、さらには遠い隣国の男から屈辱的な警告を受けたことで、そのプライドをズタズタに引き裂かれていた。彼の心は、もはや正常な思考能力を失い、ただアリアンナという失われた所有物を取り戻すことへの狂的な執着だけが渦巻いていた。


 一方、リゼットは。

 アリアンナが築き上げた新しい価値観のコミュニティによって、社交界から完全に孤立していた。かつて自分に媚びへつらっていた令嬢たちは今や皆アリアンナのサロンのメンバーとなり、自分を哀れむようなあるいは侮蔑するような視線で見るだけだ。


『アリアンナ…! アリアンナ、アリアンナ、アリアンナ!』

 彼女の心の中では、嫉妬と憎悪の炎がもはや制御不能なほどに燃え上がっていた。

『あなたさえいなければ、殿下も名誉も社交界も、その全てがわたくしのものだったはずなのに! あなたが手に入れたもの、今度はわたくしがその根っこから残らず全て奪い取ってあげる…!』


「殿下…」

 リゼットは、酒瓶を片手に荒れる王子の前にそっと跪くと、まるで毒のように甘く、そして唆すような声で囁きかけた。

「…ございますわ。アリアンナ様のその天狗になった鼻をへし折り、彼女が築き上げた全てのものを一度に完全に打ち砕いてしまう最高の方法が」


 王子が、血走った目で彼女を見る。

 リゼットは、得意のか弱い被害者を演じる作戦の最終段階を王子に語り始めた。


「殿下もご存知の通り、今のアリアンナ様が最も心血を注いでいらっしゃるもの…それは、あの領地の民を誑かした『女神のルビー』とかいう、忌々しいジャムですわ」

「もし、あれに」


 彼女は、そこで悪魔のように、にっこりと微笑んだ。

「――毒が、盛られていたとしたら…?」


 その、あまりに卑劣な言葉に、王子の瞳は狂的な光を宿して輝いた。

 リゼットは、畳み掛ける。


「わたくしの忠実で口の堅い侍女がおります。彼女に、あのジャムを食べて食中毒になったフリをさせますの」

「そして、殿下のお抱えの信頼できるお医者様に、重篤であるという『偽りの診断書』をお書きいただくのですわ」

「最後に、殿下の王太子としての絶対的な権威で『クライフェルト印のジャムには、悪意ある毒が盛られていた』と、公式に発表するのです!」


 それはアリアンナの事業を潰すだけでなく、クライフェルト公爵家そのものの名誉を、未来永劫地に落とすための、完璧でそして最も卑劣な罠だった。


「…それだ!」

 王子は、まるで天啓でも得たかのように、叫んだ。

 アリアンナへの憎悪に目が眩んだ彼は、その計画の非道さも、もし露見した時のあまりに大きすぎるリスクも、全く考えてはいなかった。


『そうだ、食の安全は国の根幹! これならば、父上もあのうるさいクライフェルト公爵も、アリアンナを庇うことなど絶対にできまい!』

『食品に毒を盛るなど、万死に値する大罪だ! これであいつは、俺の前にひざまずき、許しを乞うしかないのだ! そして、その時こそ俺が、寛大にも彼女を許し、再び俺だけのものとして救い出してやろう!』


 彼は、自分がリゼットに都合のいい「駒」として、完璧に操られていることに全く気づいていない。

 それどころか、喜々としてその実行役を自ら引き受けた。

「よし、リゼット! 医師の手配は、この僕に任せろ。お前は、侍女の準備を抜かりなく進めるのだ。最高の舞台を整えて、あのどこまでも傲慢で忌々しい女を、完膚なきまでに断罪してやろう!」


 数日後。

 計画は恐ろしいほどに順調に進行した。

 リゼットの侍女、アンナが「腹痛」を訴えて自室で倒れた。

 王子の息のかかった医師は、すぐに駆けつけ、「原因不明の毒物の可能性。極めて危険な状態」という、大げさな診断書を作成した。


 そして。

 王子という、この国で最も強力な権威のお墨付きを得た「噂」は、もはやただのゴシップではなかった。

「クライフェルト家のジャムで、人が死にかけているらしい」

 その、悪意に満ちた毒のようなデマは、公式情報であるかのように、またたく間に王都中を駆け巡っていった。

 市場からは、あれほど人気だったジャムが潮が引くように撤去され、クライフェルト家の壮麗な屋敷には好奇と非難の視線が無数に突き刺さり始めた。


 ――その頃。

 全ての元凶である、わたくし、アリアンナ・クライフェルトは。

 自室の、日当たりの良い窓辺で、次の『リバティ・ドレス』の春らしい新作のデザインしていた。


 窓の外の不穏な喧騒にもまだ気づかずに。

 ただ自分の輝かしい創造の世界に没頭していた。


 わたくしの足元に、張り巡らされていく、卑劣でどうしようもなく愚かな罠。

 その完全な対比が、これから始まる壮絶な断罪劇の静かな幕開けを告げていた。

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