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どうせ悪役令嬢なら、二度目の人生は自分ファーストで! ~冤罪で断罪された完璧淑女、時間を遡って好き勝手に生きてたら、なぜか周りがひれ伏し始めました~  作者: ヲワ・おわり
第6章:社交界のゲームチェンジャー

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焦がれる王子の歪んだ執着

 アルブレヒト王子は、最近の婚約者であるアリアンナの変貌に、苛立ちと得体の知れない混乱の極みにいた。

 刺繍糸を理由にお茶会をすっぽかされたかと思えば、父である公爵閣下を手玉に取り、領地で庶民のような商売を始めたと聞く。

 そして今や、社交界で肌も露わな(と、彼の目にはそう見える)奇妙なドレスを着て、まるで自分が女王であるかのように、他の令嬢たちを従え男たちの視線を独り占めにしている。


 彼の理想の婚約者は、どこへ行った?

 彼の言うことを黙って少しはにかみながら聞き、彼の三歩後ろを影のように、しかし完璧な優雅さでついてくるあの美しく従順な人形は。

 今目の前で輝いているあの女は、彼の理解も彼の制御も完全に超えてしまっていた。


『一体、どうなっているんだ? あのアリアンナが…? 俺の知っていた彼女は、一体どこへ行ってしまったのだ? 誰だ、彼女をあんな風にはしたなく変えてしまったのは…!』

 彼は、頑なに彼女の変化の原因を自分以外の何か――彼女をそそのかした悪い虫のせいにしようとしていた。


 王子の耳には、最近の貴族たちの不愉快な噂話が嫌でも入ってくる。

「クライフェルトのご令嬢は、ただ美しいだけでなく実に聡明で、行動力のある素晴らしい方だな」

「それに引き比べて、最近殿下がご執心だという、あのリゼット男爵令嬢は…少々お飾りの人形のようで物足りないな」


 アリアンナの評価が、天を衝く勢いで上がる一方で。

 彼が、その庇護欲から庇い続けてきたリゼットの評価は、相対的に地に落ちていく。

 そしてアリアンナが自分から離れていくことで、皮肉にも彼女の価値が日に日に上がっているという、その耐えがたい現実に王子は、強烈な劣等感と焼け付くような焦りを覚えていた。


 彼の心の中に、黒く粘つくような感情が芽生える。

『そうだ、彼女は俺の婚約者なのだ。彼女のその鼻持ちならない才能も、男たちを惑わすその美しさも、その全てはこの俺のためにこそあるべきものなのだ』

『俺が、彼女を元の『正しい姿』に戻してやらねばならない。俺だけの美しい人形に』

 それはもはや愛情などではない。

 一度は手放そうとした所有物を、他人に取られるのが許せないという、子供じみた、そして何より歪んだ独占欲だった。


 新しいムーブメントの中心で、友人たちと心の底から楽しそうに笑い合うアリアンナの姿。

 その自分の知らない笑顔に、ついに我慢の限界が来た王子は、衝動的に彼女の前に立ちはだかった。


 周囲の目も気にせず、彼は強い力でアリアンナの絹のように滑らかな腕を乱暴に掴んだ。

 そして彼は、自分がまだ彼女の絶対的な支配者であるかのように、傲慢な命令口調で言い放った。


「アリアンナもういい加減にしろ。そのみっともない格好も下賤な商売ごっこも今日限りで全てやめるんだ」

「君は余計なことは考えず黙って、この俺の隣でただ美しく微笑んでいればそれでいいのだ」


 そのあまりに高圧的な態度に、アリアンナのサロンの友人たちがさっと息をのむ。

 会場の華やかな空気が、一瞬で凍りついた。


 しかし。

 腕を掴まれたアリアンナは、少しも怯まなかった。

 彼女は、掴まれた自分の腕と王子の嫉妬に歪んだ顔を、まるで道端に落ちている汚いものでも見るかのようにゆっくりと冷ややかに見比べた。


 そして彼女は、感情というものを一切乗せない、真冬の湖面のように静かで底冷えのするような、氷の声で静かに告げた。


「…殿下。その汚らわしい手をお離しくださいまし」

「なっ…!」

「わたくしのお気に入りのドレスが、あなたのその醜い嫉妬で汚れてしまいますわ」


 王子がその言葉の意味を理解できずに呆気にとられている、その一瞬の隙。

 アリアンナは、先日あの紫電の瞳の男にやったのと同じように、護身術の要領で軽く的確に手首をひねり、いとも容易く彼の無礼な拘束からするりと抜け出した。


 自由になった彼女は、王子からすっと一歩下がる。

 そして完璧な寸分の狂いもない、美しい淑女の礼(カーテシー)を、彼に見せた。


 最後に最高の聖女のような笑顔を浮かべて。

 しかしその空色の瞳は、全く笑わずにとどめの一言を放った。


「それに殿下。わたくし自分のこの足でしっかりと立つことが、ことのほか心地よいのだと知ってしまいましたの」

「もう誰かに寄りかからねば、輝くことすらできないような、か弱いお人形(――ああ、それこそが、殿下のお好みでしたかしら?)でいるつもりは、毛頭ございませんのよ」


「――ごきげんよう」


 彼女は、完全に言葉を失い衆目の前でこれ以上ないほどの大恥をかかされた王子に、優雅に背を向けると、心配そうに自分を見守っていた友人たちの元へと戻っていく。


 残された王子は、怒りと屈辱にその拳をわなわなと震わせる。

 そして友人たちに囲まれ再び楽しげに笑うアリアンナの背中を、まるで己の縄張りを荒らされた傷ついた獣のような、赤黒い危険な瞳でただ見つめ続けるのだった。

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