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どうせ悪役令嬢なら、二度目の人生は自分ファーストで! ~冤罪で断罪された完璧淑女、時間を遡って好き勝手に生きてたら、なぜか周りがひれ伏し始めました~  作者: ヲワ・おわり
第6章:社交界のゲームチェンジャー

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黄金の枷と自由のドレス

 商人ルーク――いえ、隣国の王子ルシウス様との契約から、数ヶ月の月日が流れた。

 クライフェルト領の『女神のルビー』事業は、彼の持つ圧倒的な販売網に乗り、驚くべき速さで軌道に乗っていた。

 わたくしの私的な金庫には、今やわたくし自身の力だけで稼ぎ出した、ずっしりと重い金貨の袋が、誇らしげに積み上がっている。


 それは、ただの黄金ではなかった。

 わたくしにとって、それは何物にも代えがたい「自由の証」。

『これさえあれば、わたくしはもう誰にも何にも依存せず、どこへでも行ける。何にでもなれるのだわ…!』

 金貨が一枚増えるたびに、わたくしの魂を縛り付けていた見えない鎖が、一つ、また一つと、砕けていくような気がした。


 久しぶりに王都の社交界に姿を現したわたくしは、以前とは明らかに纏うオーラが違っていたに違いない。

 誰かに媚びへつらうこともない。誰かに見下されることに、怯えることもない。

 その堂々とした態度は、経済的な裏付けという、絶対的な自信からくるものだった。


 その夜招かれたのは、王家主催の季節の始まりを祝う夜会。

 本当は面倒なことこの上なかったけれど、「王都の富裕層の最新の流行を知るのも、重要な市場調査の一つですわ」と自分に言い訳をして、あえて参加することにしたのだ。


 しかし。

 会場に一歩足を踏み入れた途端、すっかり忘れていたあの忌々しい苦痛を、鮮明に思い出した。

 それは、わたくしの身体をまるで鉄の処女(アイアンメイデン)のように締め付ける、コルセットの息苦しさだった。

 鯨の硬い骨で、ぎゅうぎゅうと締め上げられた胴体は、深呼吸すら許してはくれない。

 何層にも重ねられた重いパニエとペチコートは、優雅に歩くことすら困難な苦行へと変えてしまう。


 わたくしは、ふと、周りの令嬢たちを見渡した。

 皆きらびやかな宝石を飾り、最新の流行のドレスを纏い、完璧な淑女の笑みを浮かべている。

 けれどその笑顔は、どこか引きつって見えた。

 会話の合間に、扇子で口元を隠しながらそっと胸を押さえて、浅い苦しげな息を繰り返している。

 美しい音楽も、美味しい食事も、楽しい会話も、この息苦しさの前では、全てが色褪せてしまうのだ。


『なんて、馬鹿げているのかしら』

 わたくしは、内心で激しく憤っていた。

『わたくしたちは、美しい蝶のように着飾ってはいるけれど、その実態は、標本箱に針で留められた、身動き一つとれない、哀れな虫と同じじゃない!』

『これは、ドレスなどではないわ。女性を、美しさという名の鳥籠に閉じ込めておくための、きらびやかで、そして残酷な拷問器具よ!』


 夜会の息苦しさから逃れるように、わたくしは一人、テラスへと出て夜風にあたっていた。

 その時だった。

 月明かりに照らされた庭園で楽しげに追いかけっこをする、数人の子供たちの姿が目に飛び込んできた。

 侍女たちの子供だろうか。身軽で質素な服装の彼らは、笑い、転げまわり、心からその一瞬を楽しんでいるようだった。


 そのあまりに自由な光景と。

 夜会のホールの中で、美しい拷問器具に身を包み、苦しげに微笑む令嬢たちの姿が、わたくしの頭の中で、鮮烈な対比を描いた。


『なぜわたくしたちは、あの子供たちのように自由に動くことを許されないの?』

『美しさとは苦痛と引き換えにしか、手に入らないものなのかしら…?』


 その瞬間わたくしの頭の中に、まるで雷に打たれたかのような、新しい天啓がひらめいた。


『そうだわ! 食で『味覚』を解放したのなら、次は『衣』で『身体』を解放すればいいじゃない!』

『わたくしが作るわ。美しくて、エレガントで、それでいて思いきり踊れて、心の底から深呼吸ができて、なんなら庭園を駆け回ることだってできる…!』

『本当の意味で、わたくしたち女性をその魂から輝かせるための本当のドレスを!』


 決意したわたくしの行動はジャムの時と同様に、誰よりも早かった。

 夜会が終わるやいなや、わたくしはその足で、王都一と名高い仕立て屋「メゾン・ブランシェ」の工房へと、馬車を全速力で走らせた。


 店主のブランシェ氏は、王侯貴族の御用達であることに、絶対的な誇りを持つ頑固一徹な初老の職人だ。

 わたくしはそんな彼に、夜会の間にシャンパンで汚れたナプキンに走り書きした、革新的なドレスのデザイン画を、ドン! とテーブルに突きつけた。

 コルセットを極限まで緩め、身体を締め付けない、流れるようなハイウエストのデザイン。


 ブランシェ氏は、その前代未聞のデザインを一瞥すると、わたくしの審美眼を疑うかのように侮蔑の色を隠そうともせずに鼻を鳴らした。

「お嬢様、失礼ながら、これはドレスではございません。ただの寝間着ですな。このようなはしたないもの、我がメゾン・ブランシェの百年の歴史と名誉にかけて、作ることは断じてできかねます」


 予想通りの完璧な拒絶。

 しかし、彼のその抵抗を全て予測していたかのように、挑戦的に不適に微笑んでみせた。

「あら、そうかしら? ブランシェ氏」

「あなたご自身は、ただの一介の職人で終わるか、それともこの国のファッションの歴史にその名を刻む偉大なる革命家になるか、その運命の分かれ道に、今、立っているということに、まだお気づきではないのね?」

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