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どうせ悪役令嬢なら、二度目の人生は自分ファーストで! ~冤罪で断罪された完璧淑女、時間を遡って好き勝手に生きてたら、なぜか周りがひれ伏し始めました~  作者: ヲワ・おわり
第5章:胡散臭い商人と秘密の契約

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動き出す運命

 商人ルークと秘密の契約を結んだ、まさにその翌朝のことだった。

 わたくしは今後の『女神のルビー』の生産計画について、頭を悩ませていた。まずは少しずつ生産量を増やし、品質を安定させなくては…などと堅実なことを考えていた、その時である。


 窓の外が、にわかに騒がしくなった。

 地響きのような、馬のいななきと、車輪の軋む音。

 わたくしが何事かと窓から外を覗くと、信じられない光景がそこに広がっていた。


 クライフェルト公爵家の、荘厳な正門の前。

 そこにはおびただしい数の屈強な男たちと、山のような荷物を積んでもびくともしなさそうな、頑丈な大型の荷馬車が、まるでどこかの国の軍隊のように、整然と寸分の隙間もなく列をなしていたのだ。


 仰天するわたくしと、屋敷の使用人たちの前に、その集団の隊長らしき、一際体格の良い男が進み出てきた。

 彼は窓辺に立つわたくしを見つけると、その場に恭しく片膝をつき腹の底から響くような朗々とした声で、言った。


「――商人ルーク様の命により、参上いたしました! アリアンナ様!」

「え…!?」

「『女神のルビー』を、ここに、あるだけ全て、お預かりせよ、とのことでございます!」


 わたくしは、そのあまりの規模と、そして、契約からわずか半日という、常識では考えられないスピードに、もはや言葉を失っていた。

「(…話が、早すぎる! まるで、こうなることが、昨日から分かっていたかのような、完璧な手際の良さ…! あの男、ルーク…いいえ、ルシウス様は、一体、何者なの…!?)」


 ただならぬ事態に、兄フェリクスが、部屋に駆け込んでくる。

 彼は、窓の外の光景を一瞥すると、顔を真っ青にした。

「アリアンナ! いったい、お前は、誰と契約したんだ!? あれは、ただの商人の護衛じゃないぞ…! 動きに、一切の無駄がない。まるで、どこかの国の、精鋭騎士団だ…!」


 兄様の心配も、もっともだった。

 しかしわたくしの瞳には、もはや一片の迷いもなかった。

 わたくしは、兄様に向き直ると静かに、しかし心の底からの揺るぎない確信を込めて告げた。


「兄様、心配はご無用ですわ。わたくしは、ただの商人と契約したのではありません」

「わたくしは、わたくしの夢を、わたくし自身が想像していた以上の、遥かに大きなスケールで実現してくれる…そういう、『可能性』そのものと、契約を結んだのですから」


 わたくしの瞳に宿る、揺るぎない覚悟を見て、兄様は、それ以上何も言わなかった。

 彼はわたくしの肩に、ぽん、と力強く手を置くと、「…分かった。お前が信じた男なら、俺も信じよう。だが何かあったら、絶対に、何があっても、この兄に言うんだぞ。お前の、世界でたった一人の、兄なのだからな」と、少しだけ潤んだ目で、笑ってくれた。


 あれから、数週間が過ぎた。

 クライフェルト家の屋敷は、ジャムの増産体制に入り、かつてないほどの活気に満ちていた。

 わたくしは、ルークからの、最初の報せを、今か今かと、待ちわびていた。


 そして、ある晴れた日の午後。

 ついに、その報せは、一羽の鷲によって、東の空から届けられた。

 差出人は「ルーク」。

 しかし、その封筒は、最高級の羊皮紙でできており、封蝋には、わたくしが見たこともない、猛々しい獅子をかたどった、精緻な紋章が、誇らしげに押されていた。


 わたくしは、震える手で、その封を切る。

 中には簡潔な報告と、そして、信じられないほど分厚い、注文書の束が入っていた。


「――拝啓、我が麗しのパートナー殿。

 君の『ルビーの涙』(こちらでは、そう呼ばれている)は、東の都の食通たちの間で、瞬く間に評判となり、第一便は、市場に出回る前に、貴族たちの予約だけで、即日完売した。皆、次の到着を、赤子のように泣きわめいて、待ちわびている。

 同封したのは、追加の注文書だ。せいぜい、腕によりをかけてくれたまえ」


 わたくしが、その注文書に目を通すと、そこには、これまでの生産量の、実に数十倍というとんでもない数が、美しい筆記体で、記されていた。

 それは、もはや個人の商売ではない。国家規模の、巨大な交易と呼ぶべきレベルだった。


 そして。

 手紙の最後には短い、しかしわたくしの運命を決定づける、追伸が添えられていた。


「追伸:

 我が国の、食いしん坊で、少しだけわがままな姫君や、美意識の高い貴婦人方が、この奇跡のジャムを作ったという『女神』に、一目会って、直接お礼がしたい、と聞かないのだ。

 近いうち、君を、我が国へ『正式に』お迎えするための使者が、クライフェルト公爵家を、公式に訪問することになるだろう。

 ――心の、準備をしておくように」


「正式な、使者…?」

 その言葉を読んだ瞬間、わたくしの頭の中で、これまでバラバラだった、全てのピースが、カチリ、と音を立てて、一つにはまった。


 軍隊のような護衛たち。

 桁違いの資金力と、実行力。

 東の都との、あまりに太いパイプ。

 そして、あの気品と、隠しきれない威圧感。


「(…まさか。あの男は、ただの商人どころか、大貴族ですらない。シュヴァルツェンベルク大公国の…?)」


 わたくしは、自分が、知らず知らずのうちに、とんでもない大渦の中心に、足を踏み入れてしまったことを、悟った。

 わたくしの運命の歯車が、今、わたくし自身の想像を、遥かに、遥かに超えるスケールで、大きく、そして力強く、回り始めたのだった。

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