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どうせ悪役令嬢なら、二度目の人生は自分ファーストで! ~冤罪で断罪された完璧淑女、時間を遡って好き勝手に生きてたら、なぜか周りがひれ伏し始めました~  作者: ヲワ・おわり
第3章:未知との遭遇

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その腕、捻り上げますわ

 わたくしの、氷のように冷たい声と絶対零度の瞳。

 それに射抜かれ紫電の瞳の男は、初めて目の前の少女が、ただの路傍の石ころではないことに気づいたようだった。彼の眉が、訝しげに微かに寄せられる。

 けれど彼の傲慢さが、それを認めることを許さない。


「…戯言を」


 彼は、短くそう吐き捨てると、わたくしを邪魔な障害物のように無視して、そのまま立ち去ろうとした。

 彼の辞書に、身なりの貧しい少女に謝罪するという選択肢は、存在しないらしい。


『逃がさない。この侮辱を、なかったことになどさせてなるものですか』


 彼、わたくしの真横を通り過ぎようとした、まさにその瞬間だった。

 わたくしは電光石火の速さで動き、彼の屈強な右腕を、両手で、しかし確実に掴んだ。


「!」


 男は、そのあまりに細い腕から繰り出された力の強さに驚き、反射的に腕を振り払おうとする。

 しかしわたくしの手は、まるで鋼鉄の万力のように彼の腕に食い込み、びくともしない。


「失礼」


 わたくしは静かにそう呟くと、王妃教育の一環として来る日も来る日も叩き込まれていた、あの忌々しい護身術――淑女の護身術レディ・アームロックを、実践で初めて繰り出した。

 相手の力を利用し、その流れに逆らわず、最小の力で最大の効果を生む、優雅にして冷徹な関節技。

 わたくしは掴んだ彼の腕を軸に、自分の身体を流れるように回転させテコの原理を使い、いとも簡単にその大柄な男の腕を、背中側へと捻り上げた。


「ぐっ…!? なんだ、これは…!?」


 鍛え上げられた肉体を持つ彼が、初めて経験するであろう、関節の奥に響く鋭い痛み。

 彼の顔が、驚愕と、そして純粋な苦痛に歪むのを、わたくしは満足げに確認した。


 完全に動きを封じられた男。

 そんな彼をわたくしは、先程自分がされたように冷ややかに、そして少しだけ愉しげに見下ろす。

 逆転した力関係。

 ああ、なんて心地よいのかしら。


 そしてわたくしは、静かに、しかし一言一句が刃のように鋭い言葉で、彼に「教育」を施して差し上げた。


「見た目で人を判断し、根拠もなく侮辱し、己の非を認めず黙って立ち去ろうとする。あなたこそ、その魂の在り様の方が、よほど汚らわしいのではなくて?」


 その言葉は、まるで女王が物分りの悪い愚かな臣下に、礼儀作法の初歩を教えてやるかのようだった。

 わたくしは少しだけ力を込めて、彼の腕をきりりと締め上げる。


「まずは、『ごめんなさい』の一言から、お始めなさいな」


 腕の痛みよりも、心の高慢さを真正面から打ち砕かれた衝撃の方が、大きかったのだろう。

 彼は生まれて初めて、自分より明らかに格下の(と思われた)人間に、完膚なきまでにねじ伏せられたのだ。


 彼は苦痛に歪む顔のまま、わたくしを見上げた。

 その紫電の瞳から、侮蔑の色は完全に消え去っていた。

 代わりに宿っていたのは、驚愕と、屈辱と、そして、焼け付くような、強烈な「興味」の光だった。


『(…面白い。この国の掃き溜めに、こんな気高い宝石が、まだ落ちていたとはな)』


 わたくしは、彼が内心で反省した(と、勝手に判断し)のを確認すると、まるで興味を失くしたかのように、パッと、彼の腕を解放した。


「それでは、ごきげんよう」


 何事もなかったかのように、優雅に、完璧な淑女のカーテシーを一つ。

 そしてスカートを翻し、呆然と立ち尽くす彼を尻目に、颯爽と人混みの中へと消えていく。


 残された男――ルシウスは、捻られた腕をさすりながら彼女が消えた方向を、ただ呆然と見つめていた。

 やがて彼の口元に、苦痛ではなく、獰猛な肉食獣のような、獰猛な笑みが浮かぶ。


 彼は物陰から現れた屈強な部下に、短くそして楽しげに命じた。


「――追え」

「はっ」

「今、俺の腕を捻り上げていった、あの灰被りの女をだ。どこの誰で、何をしているのか。どんな些細な情報でもいい、全て調べ上げろ」


 彼の紫電の瞳は、獲物を見つけた狩人のように、ギラギラと、そしてどこまでも楽しげに、輝いていた。


「…どうやら、この退屈な国で、ようやく面白い玩具が、見つかったらしい」

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