猫獣人に転生しました。発情期というものがありました。
沙羅は27歳、日本ではネット小説とネット漫画をこよなく愛し、寝不足で倒れてそのまま異世界転生してしまった。
生まれ変わった両親は――美形の猫獣人夫婦。
そして沙羅自身も、ふわふわしっぽと猫耳を持つ可愛い獣人娘に。
「やった! しっぽモフれる人生!」
そんな軽やかなテンションで、沙羅はのびのび成長。読み書き計算だけ覚えて、裁縫や炊事洗濯は母に習いながら「女子力強化クエスト」を進めていた。
ある日、母がぽつり。
「女の子にはね、“発情期”というのがあるのよ。おかしいなって思ったら、まっすぐ好きな人の所に行きなさい」
「ふーん。ゲームでよくあるやつかな?」
軽く受け流した沙羅だったが――。
そして、突然やってきた。
「……あっつい……!? なにこれ、身体が火照ってる……!?」
夜、急に押し寄せた熱。頭はクラクラ、胸の奥はムズムズ。
理性も吹っ飛び、気づけば足は勝手に動いていた。
――トタタタタ!
辿り着いたのは、隣の家に住む三歳年上の虎獣人のお兄さんの部屋。
長身で頼りがいがあって、沙羅が密かに胸キュンしていた相手。
「た、助けて……っ! おかしくなった……っ。す、好き……!」
朦朧とした意識の中、胸に飛び込み、ふわふわしてユラユラしてじんわりして――。
何故か気持ち良かった。
翌朝。
「……え、えぇぇ!? 結婚してる!? 私いつの間に!?」
「うん。もう正式に嫁だから。安心しろ」
「展開早すぎるでしょ!?」
勢いで結ばれ、勢いで結婚。
でも――お兄さんが優しく尻尾を撫でてくれるたびに、沙羅は思った。
(……ああ。こういうのも、良いのかもしれない)
お兄さん目線
俺の名前はレオン。虎の獣人。二十歳。
隣に住んでる猫獣人の女の子は三つ下で――俺の好きな子。
でも俺は知っている。
人の恋路を邪魔する最大の敵は「鈍感」だ。
女の子は俺が優しくしても「隣人サービス」だと思ってるし、
肉を分けても「おすそ分けありがとー!」で終了。
頑張って狩りに行った猪も「わー!でっかい!保存大変だね!」と、ハートではなく冷凍庫に直行。
……俺の恋心、いつ報われるんだろう。
ある夜。
コンコン!――いや、違う。ドンドン!
「……だ、誰だよこんな時間に」
戸を開けると。
そこには顔を真っ赤にした女の子が!
「れ、レオン……! 助けて……っ。おかしくなった……! す、好き……!」
……。
……。
……え、今、「好き」って言った!?!?
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やったーーーーーーーーーー!!!
俺のターンきたーーーーーー!!!
神よありがとう! 今まで隣人Bで我慢してた俺に光を――!
表向きの俺
「……落ち着け、沙羅。大丈夫だ。俺がいる」
(※冷静なフリ。内心は小躍り中)
沙羅はフラフラと俺の胸に倒れ込む。
あ、ちょ、近い近い近い!耳触れてるし、しっぽ絡まってるし!
死ぬ!俺が死ぬ!嬉しすぎて死ぬ!!
俺は意識が飛んだ。
本能、恐るべし。
-翌朝
沙羅「……え、結婚!? なんで!?」
俺「……もう決まったことだから」
(※本音:今決めました。全力で)
沙羅「展開早すぎでしょ!」
俺「……俺はずっと待ってたんだ」
(※本音:むしろ遅すぎた!昨日が俺の記念日!!)
こうして俺は、
「好きな子が突然転がり込んできて、そのまま嫁になった」という、夢のような幸せを手に入れた。