告白されたことを引きこもり幼馴染に伝えた結果
「そういえばなんだけど今日放課後に告白された」
世間話をしながら今日一日で最も印象深い思い出を言葉にした。
「は....?」
それを聞かされた幼馴染という関係性の女の子は滅多に出さない低い声で隣に座る俺の顔を見ながら怖い声を出した。
並んでゲームをしている最中であったが俺の突然の報告に画面から目を離した隙をついて一気に勝負を決める。正直な所このような勝ち方は卑怯であるという認識があるが、それでも今まで百は超える勝負数の中俺が幼馴染に勝つことが出来たのはぎりぎり両手で数えられる程。こういった姑息な手でも使わなければ勝てないのだと開き直るしかなかったのだ。
「...........」
「............俺帰るわ」
卑怯なことをしている自覚がある分隣にいる幼馴染の視線が痛い。加えて黙り込むという不機嫌さ全開なのは長年の付き合いで理解している。
俺はその場にコントローラーを置くと胡坐をかいていた足から床に足をつけこの場から即時撤退を試みる。しかし、その行動は儚くもシャツを掴まれて不可能となった。
「おい待て」
「はい」
その言葉で俺は気付けば幼馴染に対して正座をしていた。幼馴染の彼女の表情はとても怖い。
「......告白されたの?」
「はい」
「いつ?」
「今日の放課後。時間にして一時間程前です」
「相手は誰?名前は?」
俺は彼女の質問に対して誠意に答えていく。しかし相手の名前を聞かれた時直ぐには口に出さなかった。別に告白をしてくれた女の子を庇っている訳でも相手の名前を知らない訳でもなかった。
「言っても分からないと思う。お前学校来てないから」
「......そんなことない。言われたら分かる」
「自分が関わる人の名前しか基本覚えないだろ。それに超人見知りもあるし」
俺の前に対面している幼馴染の彼女。超がつく程の引きこもりで学校にも週に一回程しか来ない問題児である。加えてあまり人と関わるのが得意ではないときた。初対面はもうとんでもなく警戒心が強く、猫が警戒する時のような感じで固まることが殆ど。話しかけられれば俺の背中を壁にして逃げてくるという可愛らしい一面もあるがそのせいで勝手な憶測がクラス内で広まっていることに関してはどうにかしてほしい。
「今のところ学校内で普通に話せる相手がいないってどうなの?俺普通に心配なんだけど」
「う、うるさいなあ!今はそんな話はどうでもいいの!!告白されたって話でしょ!!?」
「だからそれは今肯定したと思うけど」
「そうじゃなくて返事だよ!」
怒ってると思ったら急に騒ぎ出した。普段から家に引きこもっているおかげで今の会話だけで既に体力の限界が近いらしい、とんでもなく肩で息をしていらっしゃる。
「断ったけど」
俺は告白の返事の結果を伝えた。「ああ、そう」と先程までのやり取りから打って変わって素っ気ない返事が返ってきた。俺の幼馴染の情緒はどこにいっているのだろう。
「そんなに気になるものか?」
「......まあ、普通にね。私だって女の子だし。年相応にそういうのは気になる....よ?」
「最後自分でも分かってない感じになってるぞ。なんだ?俺が告白されるのが変だったか?」
「変とかじゃなくて今迄そういった話してこなかったから動揺したというか。別に○○が告白されたこと自体は特におかしいとは思わなかったけど」
意外だった。長い付き合いだからこそ男として見られていないと勝手に思っていたが異性から告白されるぐらいの事の評価を俺に下してくれているのは普通に驚いた。
「そっか」
「で、相手は誰?同じクラスの人?」
「三組の人。選択科目で被ってから話すようになった感じ。普通に友達って認識だったからこれから気まずくなるのかなってのが不安」
「そういうの気にするんだ」
「席が隣なんだよ」
考えてもみろ。告白をしてふられた相手が特定の授業の時に隣の席に来るのだ。普通に喧嘩をした友達の間に挟まれるぐらいの気まずさがある。変に話さなかったり避けるような仕草がどちらかに見られれば周囲の人から変に勘繰られる気もするしとこれからのその授業が憂鬱な気分で受けなくてはいけないことが決定しているのは地獄そのものだ。
「ち、ちなみに訊くけど何で断ったの?友達ってことなら普通に好印象だったんでしょ。なら付き合っても良かったんじゃない?」
「う~~~~ん。そうだな」
断った理由か。
「好意を伝えられた時は普通に嬉しかったよ。でもそんな相手に対して俺はそういった感情を抱いてないのに付き合うのは相手に申し訳ない気持ちになるんだよなあ。そんな中途半端な気持ちで付き合っても俺も相手も楽しくないだろうし何より相手の学生の青春の時間をつまらない時間で奪ってるってなって罪悪感凄そうだし。それならいっそのこと断った方が良いって感じ」
「結構考えてんだ。意外」
「まあ単純に今の俺が決めてる優先順位を変えることが嫌だっただけなんだけど」
「優先順位?」
人には優先順位がある。いってしまえば自分の生活スタイルだ。俺はそれを変えることに対して悲観的なのだ。
「だってもし仮に付き合ったとして相手に合わせるような生活とか普通にしんどいと思うんだよ。短期なら良いけど」
「付き合うってそういうものなんじゃないの?お互いに、なんというか少しずつ歩み寄るというか」
「そういう意見があると俺は恋愛不向きだな。俺は今の生活スタイルが変わるのは気持ち悪いとさえ感じるね。だったら気心しれた相手といた方が楽だし」
「.....そう」
「学生なんだから軽い気持ちで付き合うのはってのは無いかな。少なくとも俺は」
「一応訊くけど○○の中で私の優先順位はどのくらい高い?」
その質問をされ、少し考えてみる。しかし自然と答えは出た。
「上位。ってか普通に家族並かな。まじで子供の頃からずっといるし」
「~~~~~そっか!」
「放課後のこの時間も好きなんだよなあ。プリントを持ってくるついでだけど俺の中で日常になってるし。今の話をまとめると俺の中で○○よりも優先順位が明確に上に来る人じゃないと普通に俺彼女という存在が出来ないことになるな」
それは中々に壁が高い。普通に家族と同等の扱いになっている幼馴染よりも上となると本当にこの先一生独り身が決定しているようなものだった。
「..........か,,,,って」
「え?」
「もういいから!早く帰って!!」
「ええ!?」
帰宅を止められたが今度は急いで帰れと言わんばかりの勢いで背中を押されて部屋の扉まで押される。特に逆らう気もなかった俺はそのまま鞄を持って部屋の外まで追い出される形となり、扉は勢いよく閉まった。
「明日学校は!?」
「いかない!!!!」
「..........じゃ、また明日な~」
このやり取りで「行く」と言われた試しは無い。それでも続けているのはこれも俺の中での日常に組み込まれているからだろう。俺はそのまま階段を下りて幼馴染の家をあとにした。