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異世界オカマバー~マスターは世界の全てを知っている~  作者: カクテル
全知のオカマと読心の悪魔
10/18

逃げるが勝ちとは言うけど見捨てるのは負け

 


 水が流れる音がする、綺麗で聞いていて何故か落ち着く音、ここは天国なのか?でも、体が濡れて冷たい、寒い。


 僕は横向きに寝ていて、側頭部にはナニか柔らかい感触がある、なんか前にもこんなことがあったような、、?


 僕は瞼をゆっくりと開くと、明るい光が目を貫く


 光に慣れると目の前に川が見えた、用水路に落ちた僕はどうやら町を出て川まで流されていたらしい


 僕は河原で横になっていた、違和感がある、何かおかしいな?



 何故か頭の位置がすこし高いし、それに地面は石でごつごつして身体中痛いのに頭だけ柔らかい?それに、このモチモチしたこの感触はまさかっ、!



「膝枕ッ!?」



 僕は瞬時に理解した、ついこの前に体験したあの膝枕だ!いったい誰が?と期待と興奮を込めて顔を僕に至高の枕を貸してくれている女性(人物)の顔を拝もうと天を見ると




「あらぁ、起きたのねん!!リスタルちゃん!!」


「ば、ばけッ!デミコお姉さんんん!!!???」



 そこには化物がいた、しかし僕は学習する男、リスタル、バカ正直に失敗は繰り返さない、今度はなんとかギリギリ耐えた。


「色々言いたいけれど、、まぁ、この前の件とチャラってことでお願いねん?」


「こ、この前って、、?  ああ、逃げきれそうだった時の、、」



 そういや、デミコお姉さんに裏切られたと言うか、見捨てられたから、酷い拷問を受けてたんだよな、それを貴方の膝枕でチャラ?寧ろマイナスを増やしてない?



「いや、チャラって、、流石に酷くないですか?ほら見て下さいよ、この怪我、、け、が?あれ?折れた指とかは?あれ?全部治ってる?」



 体を見るとあちこち折れた骨はくっついて、火傷の跡とか全部綺麗に治っていた、さらに言うなら身体の調子も良い、一体全体なんで?



「あらー?怪我がどうしたの?そんなの特別な魔法の薬で治してあげたわ♥」


「え、あんな重傷な怪我を直す薬って、、」


「ええ、もちろんお値段はお高いわよぉ?金貨1枚じゃ足りないぐらいの、、ね?かなり奮発したわぁ、、あらら?これは大きな借りになったわねぇ?」



 僕は顔が青ざめた、そんな高い薬を使ったってことは、、お金請求される?もしや、この怪我してこの川に流される事が分かっててあのとき見捨てたとか!?嘘だろ!?


「はぁ、、あなたと言う(ゴミ)は誰に対しても欲情するんですか?起きたら第一声に「膝枕!」って叫ばないと死ぬんですか?膝枕なら誰のでも良いんですか?この変態。」



 脅すように愉しそうに笑うデミコお姉さんと目の前にいる化け、、お姉さんに膝枕されていたかと思うとおぞましさから小動物のようにプルプル震える僕を見て呆れているのは、、



「え、ミルディさん?」


「はぁ、、一週間位で貴方は人の顔と名前が一致しなくなるんですか?物忘れの激しいおじいちゃんなんですか?ご飯はもう食べましたよ?川のお水をたっぷりね?もっと欲しいの?もう一度溺れますか?手伝いますよ?」



「え、お水はご飯じゃないですよ、」



「そうですか、そうですか、今すぐそこの川の石を口にねじ込んで飲み込ませてお腹いっぱい食べさせて欲しいんですね、分かりました、お腹いっぱいになりたいんですね準備しますね。お待ちください汚客様。」


「ちょっとからかっただけじゃん!逆ギレしないでよ!器小さいなぁ!?」


「生憎と男に対する器なんて持ち合わせてませんので、汚客様。」


 石を集め始めたミルディさんを引き留めようと立ち上がり、詰め寄ろうとするとデミコお姉さんが僕の服を引っ張っぱり止めてきた。



「なんですか?デミコお姉さん、、僕はあの人を止めなくてはいけないんです、、」



 そう、今も尚、人が飲み込めそうなギリギリの大きさの石を一つ一つと集めているあのメイドを止めないと僕の体内が死ぬ。



「アタシとのお話終わってないわよ~?リスタルちゃんにはこれからのことについてお話あるのよ。」


「こ、これからのこと?」


「そうよ?リスタルちゃんこれからどうするつもりなのかしら?」


「ど、どうするって、、、」


 僕は正直デミコお姉さんが言いたいことが分からない、これからどうするか?そんなの僕が聞きたい、今何をすべきなのか全く分かっていない、



「今ねマリー・ドラネットちゃんがボルグ・マスラだっけ?まぁ、あの男に拷問受けてて、貴方の家族の事とか色々暴露してるのよね、、実家や今の家にチンピラがもう張り込みしてるわよ?」



 なんだと、、、チンピラが家に、、?しかもマリーさんが僕の情報をベラベラ喋っているって?



「だから、、家には帰れないし、借金まみれで町にも入れない、もう行く宛がないわよ?リスタルちゃんはもう詰んでるのよねぇ、、そこでなんだけどぉ、、」



「じゃ、僕はマリーさんを助けに行きますね。」



「え?」



 あれ?今まで余裕の表情を一切崩さないデミコお姉さんが初めて動揺した、え?ミルディさんも?なんか信じられないって顔して石を落としてるし。


 どうやら僕の胃袋はちゃんと守れたらしい。



「き、聞いてなかったの!?あの娘はリスタルちゃんを裏切ったのよ!?いくら惚れた相手だからって許せないでしょ!?」


「え、なんで?」


「貴方は家族を大切にしてるんでしょ!?その家族が危険に脅かされてて!しかも自分を裏切ってお金も騙しとって!なんの説明もしないで逃げたような糞女よ!?例え家族でも見捨てるレベルよ!?」



 ああ、ようやく分かった、、デミコお根井さんが言いたいこと、つまりは僕はマリーに大切なものを全部踏みにじられてるから見捨てるよね?と言いたいんだ。



あと、ついでと言うか今の発言でデミコお姉さんの力の《()()》が分かったかも、、?



「はぁ、、あのですね、デミコお姉さんが言いたいことは分かりました、、そうですねぇ、、」



 まるで予想外、いや、そんな反応はあり得ないと言いたげなデミコお姉さん、そして、静かにその後ろに移動したミルディさん、、無表情で黙っているその姿はまるで完璧なメイドそのものだ、雰囲気が違う。



「逃げるのって簡単だし、逃げるが勝ちって言いますし、僕もよく逃げますよ、でもね、、、」






「例え悪人でも愛した人を見捨てて逃げるって確実に負けてるでしょ?逃げた先に後悔しか残らないでしょ?なら僕は助けて負ける、、試合に負けて勝負に勝つってやつで。」


「、、、それは自殺願望と言うのよ?」


「死ぬ気はないんで違いますね。」


「矛盾してるわよ?」


「ですね、でもそれが僕の生き方なんで!心の思うままに!正直に!デリカシー?知らない!僕と言う人間を全てさらけ出す生き方をする!心に嘘はつかない!僕はマリーを心から助けたいから助ける!それだけですよ!」



 僕の力説に呆れの感情、、馬鹿だと思うよね?うん、僕もそう思うけどこれが僕の生き方だ、曲げることはしない、約束だからね。


「あ、それとなんですけど一つデミコお姉さんのヒミツ、、分かっちゃいましたよ?」


「な、何よぉ?」


「デミコお姉さんってぇ、、知ってても()()出来るかは別問題ですよね?」


「うっ、、」


 顔を反らすデミコお姉さん、どうやら当たりっぽいな。分かりやすい。



「今もそうですよぉ、僕が家族を大切にしてるって事を知っていても、どういう意味かは理解していない、、僕も、知ってても理解できないものありますもん、女心とかね?どんなものか知ってるけど理解できないですからねぇ、、」


 僕の推測でしかなかったがどうやらほぼ正解らしい、二人の感情を見たら分かる、


「はぁ、店長、、この汚客様そこそこ頭回りますよ?やっぱりあの話やっぱり無しにしません?」


「う、うう、、で、でもヒミツってより、どんな人でも当たり前のことみたいな?皆に当てはまるからヒミツでもなんでもないわ!!大丈夫よ!」


「まぁ、僕は心を読める!だからお二人は僕を勧誘したいんですよねぇ?色々回りくどい方法取っちゃってぇ?正直に言えば良いのにさ!」


「分かってたんですか?今まで知ってて、、?普通はそう言う相手の本心見破ったなら黙るものですが、、 まぁ、汚客様のそういうバッサリとした男らしい所は嫌悪感と共に好感が持てますが、、、」


 あれ?ミルディさんの反応が良い?なんか、さっきから前みたいな嫌悪感がなくなって同族を見るみたいな、、?気のせいか、


 にしてもだ


「え?普通に真逆の感情が同時に生まれます?どっちが勝ったのか知りたいんだけど、嫌悪感が負けてるよね?」


「嫌悪感の圧勝です、そんな自分の心に従って生き汚客様でもあの女の事を知ればその考えも変わるハズ、、、店長、あの事を、、」



「あ、ふふふ、そうねぇ?あの事を知ってもそんなこと言えるのかしら?」


「なんでしょう。」


 不穏な空気だ、なにやら爆弾を、、僕の心を折ることが出来る切り札を持ってきたらしい、、僕は心して聞くことに。


「リスタルちゃんがマリー・ドラネットに渡したお金ってどこに言ったと思う?あんな大金普通は使いきれないわよね?」



 デミコお姉さんの言いたいことはわかる、そこまでか鈍感でもアホでもない、つまりこう言いたいんでしょ?



「使いきったんですか?」


「ええ、しかも浮気相手に。」




 静かな川の音がより大きくなった気がした、世界から川の音以外が消え、それに集中することで心を守ろうとーーーー




「いや、僕以外に相手いるの知ってますよ。」




 しなかった。






「「え?」」



 デミコお姉さんとミルディさんの声が川の音と共に綺麗にそろった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「あのねぇ?僕って関係性の炎が見えるんですよ?最初から恋人いるの知ってましたよ、でも後から僕とも恋人になってくれたんでどちらかと言うと僕が浮気相手?」



「えええええ!?なんでよぉ!普通は浮気相手がいるなら怒るでしょ!?しかもあの女その男に全額渡してるのよぉ!?」


「え、事情があるんでしょ」


「汚客様、汚客様、その男は恋人ではなく夫ですよ、人妻ですよ?普通に犯罪ですよ?」


「あー、やっぱり?なんか関係性の炎が恋人よりも強いなぁと思ったよ、既婚者かぁ、そうかぁ、、」


「いやいやいや!なに納得してるのぉ!?リスタルちゃん!貴方結構あの女に良いように扱われてるわよぉ!?貴方の人生破滅させて自分の夫のためにあのお金使ってるのよぉ!?なんで怒らないのよ!?」



「え、マリーが好きだから。」



 男の倫理武装は完璧だった、何があっても相手が好きだから許す、例え借金してまで作った金を騙し取られても、路地裏生活をする原因だったとしても、彼女が好きだから許す、例え奴隷として売られても男は許すだろう。



「む、無茶苦茶よ、、それ?」


「まぁ、分かってますよ、でも本心です。

 デミコさんのそのなんでも知ってるのって多分恩恵ですよね?なんでも知れるみたいな?でも、心までは完全に知ることが出来ないっぽいですね。」


「ま、まぁね、アタシは何でも知ることが出来るけど心は感覚が分かるだけでどんな想いが込められているかまで理解出来ないわ。」



 良かった、僕の専売特許が無くなるところだった、いや、別に専売特許でもないし、こんな力無くなれば良いとは思ってるけど。



「店長、店長、話がごちゃごちゃになってますよ、結局どうします?このアホリスタルはあのクズ女助けたいとか言ってますけど、、」


「えぇ、、、本気なのぉ?」


「本気ですよ、」



 方法はなんも考えてないけど、、



「それに、僕ボルグ・マスラに一言言ってボコボコにしないと気が済まないんですよ、あの卑怯物の臆病者め、、あんなに怖がりながら人の指折りやがって、、ぶっ飛ばしてやる。」


「店長、店長、この汚客様、とうとうおかしくなりましたよ、脳みそがきっと水に置き換わってますよ、絶対に勝てない相手に自殺しに行きますよ、是非とも行かせましょう。」



 あれ?そこ止める流れじゃ、、あ、やっぱりこの人僕のことが嫌いなんだな~、関係性の炎がまだ黒いもん、巻き込んだこととか色々まだ根に持ってるらしい。男に対する器がないからいつまでも根に持つんだろうなぁ



「うーーん、それなんだけどねぇ、、ミルディちゃん、。」


「はい?なんでしょう。店長。」


 デミコお姉さんは調子を取り戻していつもの態度に、結構冷静になるの早いな、さっきまで子供みたいに信じられない!って騒いでたのに。




「一応リスタルちゃんに勝機はあるのよねぇ、、」



「本気ですか?このリスタルですよ?このアホの」


「ええ、本気よ、このアホのリスタルちゃんでも勝てるかもしれないわ、」


「ねぇ、僕が悪いことしたし、謝りますからいい加減まともに僕のこと読んでくれませんかねぇ?アホアホ、バカバカ、キショキショ言われるの心に来るんですが、本心だと分かるから尚更。」


 僕の泣きそうな顔を見て満足したのかそれ以上悪口を言う口を止める二人、そして、こちらを見て聞いてくる、それで?どうするの、と。



「僕は男らしい男で、正直者で正々堂々とした男なので正面突破してマリーを助けます。なので協力お願いしまーす!!」




 どの口が男らしい男などと言ってるんだコイツ、と言う二人の顔でこの話は終わった。



 僕らは隣町へ、、マリーが待つ町へと歩き出す、日がもう暮れ始めた空を見て覚悟を決める、きっと今夜全てが終わる、どんな結果でも僕は受け入れよう、、後悔をする生き方はもう嫌だからね、




 僕は走馬灯で思いだした、罪を思い出しながら歩く、二度と愚かなことはしない、あの約束を果たすために、、



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 一方とあるチンピラの拠点では、、




「も、もうやめてよぉ、、いたいじゃない、、」



「う、うるせぇぞ、、お。おまえが全部話せばイーんだ全部な、さっさと吐けやゴラァ!」



 一人の少女が倍はある体格差の男に馬乗りになられ、その顔を殴られ、顔を真っ赤に染めていた。



「ヒューゥ、やっぱボスは容赦ねぇなぁ!」


「女相手にあそこまでやるか?普通!ヤベェヨ!」


「見せしめの意味もあるんだろうけど、おっかねぇ」



 回りには部下のチンピラがその様子を眺めるように囲んでいた。



 殴られて、泣いて血だらけになって顔がぐちゃぐちゃになっている少女はマリーで、馬乗りになっているのがボルグだ。



「も、もういいでしょ、、全部話したからぁ、アイツの家も、家族も、住んでる所も全部さぁ、もう殴らないでよぉ、、」


「ッッ!!」


 バキッ  ドゴォ



 殴る音は止まらない、まるで何か焦っているかのようにも見える、今日一日中この様子だ、まるで狂ったように殴り続ける男に回りは恐怖しか抱けない、その内心はどうなっているのかも知らず。



 最初は縄で吊るして怒鳴り散らかすだけだった、リスタルについて、関係、出会ったところ、成り行き、家族構成、住所、苦手なもの、弱点、恩恵、その他色んなことを次々に吐いていくマリー


 回りのチンピラもあまりにペラペラ喋るので怪しんだが、リスタルを知っている人物に聞くとかなりの頻度で情報が合っているのだ、チンピラもボスの迫力に負けて話したと納得したがボスは違った。



 何か、何かが足りないと目をギラつかせ、殴り始めた、それも二時間前の話だ、ボスは容赦なく殴り続けた。



(畜生!畜生!あの、リスタルとか言う馬鹿が現れてから全部上手く行かねぇ!!今日の大事な商談もパァ、マリーも信用できねぇ!思いどおりにならねぇ!)



 男はあの男が現れてから心が荒れ始めていた、唯一信じていた少女が自分を裏切っていた、信じられない事だ、あり得ない、自分の他に男がいたなんて、信じていたのに、



 それに、あの男は女を使って俺を倒しやがった!無敵の!無敗の俺に無様な敗北を!


 例え不意打ち、卑怯な方法でも俺が負けた、その影響はでかい、俺の部下達が俺の実力に不信感を抱いたかもしれない、そうすればこの組織、、《ハチノス》も終わりだ、自分の人生を掛けて作り上げた組織が終わるかもしれない。



 そんな不安で一杯だ、あの男のせいだ。


 あの男は死んだだろうか、あの濁流だ窒息して死んだに違いない、それがなくても流れてきた石に肉を削られるだろうし、何よりあの怪我だマトモに泳げるわけがない。



 リスタルは死んだ、、俺が殺した、、




 マリーも、俺に殴られて泣いているのではない、あの男が死んで悲しんでいるに違いない、痛いならもっと泣き叫ぶ、何度も見てきた光景だ、人が痛みで泣く様子はよく分かっている。



 痛みで泣いていない、()()()()()イラつく、不安になる、


 そんな鬼気迫る、異常な空間に腑抜けた声が響く




「おーーい!!聞こえてるかぁ!!!臆病者ぉ!!おい!お前だぁ!ボルグ・マスラぁ!!その建物にいるのは分かっている、出てこーい!」



 室内に緊張の空気が生まれる、自分達の居場所を突き止め、大声でこちらに呼び掛けるのだ、普通なら衛兵がこの拠点を囲んでいると思うだろう。


 だが、数人のチンピラは驚いている、その声は今朝用水路に落ちて死んだと思っていた男の声であり、そんなわけ無い、生きてるわけ無いと。


 一人が様子を見に行くとそれに続くように次々とチンピラが外に行く、ボルグもマリーを殴ることを止め、外に行く。



「りすたる?なんで、、、」


 一人部屋に残された少女は今朝死んだと思った相手の声が聞こえて、嬉しい反面、生きていたのに戻ってきた事に憤慨して、



「ほんと、、馬鹿なんだから、、」




 その呟きは誰にも聞き取られることなく一人だけの部屋に響いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ほら!出てきましたよ!僕の言った通り!」


「あんなやっすい挑発に乗るのねぇ、、」



 あの後僕らは直ぐにボルグがいるこの隠れ家に来ていた。


 その隠れ家の前で大声でボルグを呼んでいた、何故ボルグがここにいたかは、デミコお姉さんが教えてくれたお陰、借金してる僕は指名手配されてるハズで街には入れないのに難なく入れたのもデミコお姉さんのお陰。



 お姉さん!一生着いていきます!!ありがとう!



「店長、店長やっぱりこんなアホに任せて良い訳ないですよ、なんで馬鹿正直に呼ぶんですかね?ほら、もう汚い男達に囲まれてますし。どうせならあのショボい見た目どおりに裏からコソコソ不意打ちすれば良いのにアホですよね?」


 ミルディさんがなにか言ってるけど知らんぷり、なにも聞こえない。僕はリスタル、心に従う男、ここで真正面から行かないのは嫌だからやらない!



 僕はすこしだけ叫んだつもりが、いつの間にかチンピラ達に囲まれてしまった、こんな町外れなところに一体何人待機してるのだろう、、何故一人残らず僕を睨むのだろう、



「よぉ、、、やっぱりオメェ馬鹿だな、せっかく拾った命また俺に殺されたいのかよ?」


「僕!リスタルは!ボルグ・マスラに一騎討ちの一対一(タイマン)を申し込む!あ、いざ尋常に勝負!!」



 場が凍りついた、僕の発言に皆が呆けているからだ



 名指しされたボルグも、デミコお姉さんもミルディさんも、回りを囲むチンピラ皆がそのテンションの勢いに着いていけないままに行われた宣戦布告、一瞬何を言われたのか分からないのも無理はない



「お、オメェなに言ってるか分かってんだろうなぁぁ?あぁ!?」


「おう!言ってたじゃねぇか!俺を倒したらマリーは返してやるってな!!それにお前みたいな臆病者なんて元々僕一人で十分なんだよ!」


「誰が臆病者だ!!ふざけてると殺すぞ!!」



 ふん、よく言うよ、心の中グチャグチャの癖に!怯えてるよねぇ!もしかしたら負けるかもってさ!お前がなんでそんなにビビってるのに裏社会のボスやってるのかは知らないけどさぁ!



「マリーは返してもらうぞ!」


「振られてた癖によく言うぜ!もうオメェの彼女でもなんでもねぇだろうが!あと俺のな!!」


「じゃ、タイマンな!」


「どうしたらその考えになるんだよ!!展開が急過ぎるんだよ!!もう少し落ち着いてからこいや!オメェの事俺が殺そうとしたのもう忘れたか!!今朝だぞ!?」


「知らん!!僕は生きている!体もなんか治ったし!お前の事もよく分かったし多分勝てる!!」



「て、テメェ、、俺様の事舐め腐ってんなぁぁ!?ここまで虚仮にされたのは久し振りだなぁ?良いぜ乗ってやるよ、一対一(タイマン)だな?」



 よし、乗ったな、、心は闘志や怒りの炎がこれっぽっちもない虚勢の演技だ、ここまで行動と心が一致していないのも珍しい。



「おい、部下ども!手ぇ出すなよ!一対一だ、、こんなヒョロガリ一撃だ、、、」



「おいおい、そこらのチンピラ見たいな台詞だね?流石チンピラのまとめ役。」



「オメェ、、本当にふざけてるなぁ?」


「はい、本心です。心の底から馬鹿にしてます。」



 ビキビキッと額に青筋が走る、ようやく怒りの炎が沸いてきたな、沸点高くない?キレる演技も良いけどさぁ、ビクビクしてるやつと喧嘩しても気分がよくない、お互い罵って拳で殴り合ってこそ喧嘩でしょうが!



 前逃げたのはどうなのかって?いや、多勢に無勢なら逃げるでしょ、あのままやりあってたらマリーも怪我してたし、逃げるが勝ちだし。


 フィールドは二十メートルの正方形に近い広場、前は住宅街だったのだろうが建物の老朽化、人の移り変わりで人が住まなくなった町の外れ、悪人の巣窟になってる区域の一角だ、


 そこで対峙するのは成人男性の平均よりすこし上のヒョロヒョロの男とこの場にいる誰よりも筋肉質な男、、誰が見ても無茶な挑戦だ、なのに自信満々な男。


「一撃だ、テメェはそれで十分だ、、」


「ハードル上げて大丈夫なのぉ?後で後悔するよ?僕は多分死にそうになっても止めないから、覚悟しろよ?」



 そこで始まる、、、お互いにもう言葉は要らないらしい、回りは、、




 完全に置いてきぼりだった。



「え、なんでボスがあんなカス相手にしてるの?」


「はぁ?なんでアイツ生きてるの?それになんでボスは当たり前に受け入れてるの?」


「あらぁ、、本当に正面突破なのねぇん、、リスタルちゃんって本当に面白い子、、」


「はぁ、男同士の手に汗握る熱い勝負とか、、まだ動物の死骸見てた方が楽しいですよ、気持ち悪くて仕方ない、、、どっちもどっちですし、私より弱いので。」


 でも、誰も止めようとはしない、止められないのだ、あの二人にはお互いの事しか見ていない、誰も割って入ることを許さない雰囲気を纏っていた。


 始まりの合図はなかった、お互いにじりじりと詰め寄り、互いの間合いに入ったその時ッ、、、





 ガッッ!!




 先にヒットしたのはボルグのパンチだった、容赦のないフックは見事にリスタルの顔面を正面から撃ち抜いた。



「ほらな、、一撃だ、、あぁ?」



 振り抜こうとした腕が進まない、よく見るとリスタルは体全体でパンチを受け止めている、足を後ろに下げて固定し、前のめりになって体重も合わせて受けとめている。



 筋肉の塊なハズの腕はピクリとも動かない、完全に受け止められている、顔面で。



 パァン!!



 今度はリスタルのパンチがボルグの鼻頭を貫いた、良いところに入ったのか鼻血を流すボルグ、自分が血を流したことに驚きすこし距離をとる。



 リスタルも無事ではなく、鼻血が流れている、互いに一撃を喰らった二人の決定的な違いはその表情だろう。



 一撃で仕留められると思いきや反撃をくらい、血を流したことに動揺を隠せないボルグ。


 その顔を見て満足げなリスタル。




 回りの動揺の声で二人の殴り合いのコングが鳴った。

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