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第67話 自宅ダンジョン第5層

The Outsider -memorandum-にて、

自宅ダンジョン 第5層 取得物一覧を公開いたしております。

 朝食の後片付けを終え、戸締り確認を済ましてリビングに戻ってきた。


 マヤはいつもの装備である上半身の皮鎧と片手剣。手の関節部と恐らくは膝を部分的な防具で守っている。城塞で損傷した左肘の防具も補修済みのようだ。


 ロミナは札甲ラメラーアーマーを着込み、布とも皮とも判然としないコートをマトわせ、腰に短剣を吊っている。


 リンは、見た目がマヤと変わらない皮鎧と防具。短剣・弓で身をカタめている。全員が似たような革袋を肩に背負い込んでいるが、リンのは弓を簡単に着脱できるように工夫クフウしてあるようだ。


 ウィルマのブレスト・プレートと長剣という装備が一番威圧感を醸し出している。


 俺は城塞に向かう際とほぼ同じ装備になった。テントはいらないと思ったのだが、マヤが俺の分の1人用テントだけは持って行けと言うので素直に従った。食料は全員分×3食しか持って行かないので、子爵に招かれた際より少ない。


 出発前「エアーマットと寝袋は各自が持ってくれ」と言うとビミョウな空気が流れる。

 もしかして、こいつらから見た俺のポジは荷物持ちなのだろうか……






 例によって第1層での遭遇は無い。隊列で少し揉めたが、1層・3層の先頭はマヤ、2層・4層の先頭はウィルマということで双方を納得させる。


 俺の左前方3m位先をマヤ、右前方2m位先をウィルマ、ロミナは俺の左隣り、リンは俺の後ろ2m位という隊列。


 ロミナには左側の重点警戒、リンには後方の重点警戒を頼み、俺は右側の警戒を行う。マヤとウィルマには何も言わなかった。


 マヤは片手剣、ウィルマは長剣を手に持ち、ロミナは手に何も持っておらず、リンは弓。


 マヤに預けていたワンドは魔力をフル充填した状態で受け取っている。99回使えるそうだ。

 ワンドはバックパックに取り付けた。右手に魔法の短槍、左手に龕灯ガンドウを持った俺は、言われた通りにマヤの前方3・4m先が薄ぼんやりと見えるように龕灯ガンドウの照らす角度を調整している。

 あまり明るいと光の届かない曲がり角の先を覗き込む際の暗順応アンジュンノウに差し障りがあるのだろう。


 以前決めたハンドサイン。短期間しか使っていないし、ウィルマは初参加なので1層・2層でおサラいすることにした。


 2層に入ったので先頭を交替する。1層では最短距離を進んだが、2層からは全ての部屋を周ってもらう。

 リポップしているモンスターをウィルマがさくさくと斃す。

 オーブが転がっていないかと期待したが、そういうことはなかった。


 3層へ。ここまでに1時間かかっていない。マッピングをせずに済むので楽に来れた。

 この層でのリポップは初めてだったが、アラカジめ何処にどういうモンスターがいるのかわかっているので、最下級悪魔Lemure(レムレー)を除き俺がワンドで片付けていく。


 4層のモンスターは未だリポップしていなかったので5層直前迄進む。

 時刻は11時。少し早いが、ここで昼休憩を取ることにした。


 マヤ・ロミナ・リンは山菜おこわとおかず缶。ウィルマはパスタを希望する。別に何も言っていなかったのだが、マヤ・ロミナ・ウィルマは皮袋から追加の食料を持ち出していた。それを見てリンが俺に何か言いたそうな視線を向けてきた。


「リンさんの分もお持ちしました」


 視線を無視している俺にリンが何か言いかけようとしたタイミングで、マヤが皮袋を持ってリンに近づいて行った。


 1m位の間隔を開け円陣で座る。各々(オノオノ)の背後を互いににカバーし背後からのモンスター接近を警戒しつつ食事をはじめる。

 昼休憩中はカバーをずらして明るさを調節した龕灯ガンドウを中央に置き周囲を照らす。


 食事後はブレスト・プレートで身を固めたウィルマを除き、俺とマヤ、ロミナとリンでペアを組み、柔軟運動をしつつ第5層に備えた。





 ……第5層。

 4層迄の通路の直径は測ったように3m前後だったのに、5層の通路は10m以上の高さと横幅がある。龕灯ガンドウの明かりを少し先に延ばしたが、場所によっては20mを超えている高さと横幅がありそうだ。それと、4層迄とは違い少し湿気が高い気がする。


「待って!」

 警戒しつつ先へ進もうとするマヤを呼びとめた。

 不満顔のマヤを追い越して先頭に立つ。

「このヘルメットにも明かりを照らせる仕掛けがある」


 そう言って俺はヘッドライトを大角度の投光照明モードで点灯させた。

 すると、通路の先数十メートルが一気に明るく照らされる。

 凹凸があり自然の洞窟のような形状をした(ホボ)直線状の通路。100m以上続いているかもしれない。

 左右にはそれぞれ3カ所ずつの脇道が消灯前に見えた。


 振り向いて、マヤとウィルマを等分に見る。

龕灯ガンドウで足元だけを照らしていると、天井が全く見えないけれどいいのかな?」


 2人が顔を見合わせる。

 マヤがウィルマに発言を譲った。


「その頭からの明かりは明るすぎます。手元の灯火具のカバーを外してもらえますか」


「いや、これは[永遠光]の明かりだから何十mも先を照らせない」

 俺はウィルマに龕灯ガンドウを手渡す。


 龕灯ガンドウを受け取ったウィルマは絶句していた。


「ヘッドライトの光量は調節できるよ」

 そう言って光量を暗くしていく。


「その明るさでお願いします」


 明かりを絞っていく途中でマヤが声をかけてきた。

 ダンジョンの天井辺りが内玄関の照明より少し暗い程度の光量だ。

 20m先程度であれば物の形を識別できるだろう。


 俺がマヤにウナズくと、再びマヤを先頭にパーティーが動き出す。

 通路左に横穴が3カ所並んでいる。


 1カ所目は左に半円を描くような形で50m歩くと行き止まりだった。

 2カ所目は左右にくねくねと直線状の道が続いたけれど100m程進むと行き止まりだった。

 3カ所目は右に半円を描きかけた形で20m先が行き止まりだった。


 広い通路を挟んだ反対側にも横穴が3カ所並んでいるが、今は無視して左伝いに奥へ向かう。


 50m程通路を進むと道が二股に分岐している。どちらの通路も横幅が10m位はありそうだ。


 何も言わなくともマヤは左の通路を選択した。


 気がつくと通路全体に黄色味が濃くなってきた。硫黄イオウだろうか?

 確か腐った卵のような匂いがするのは硫化水素で硫黄は無臭だった気がする。

 黄鉄鉱や黄銅鉱、もしかしてカドミウム? 確か天然ヒ素も黄色に見えるらしいし、見ただけではわからんな。[鑑定]を使えばわかるのかも知れないけれど、わかったからといって、だから何だという話でもある。


 50mか100mか、立ち止まることなく黙々と歩く。周囲の壁が黄色味を帯びているのに誰も気にしない。

 進んで行くと通路は5m幅の二股に分岐していた。と言うよりも黄色の壁に気を取られていたが、周囲はいつの間にか50m四方位の広い空間になっている。


 マヤに小休止を提案し、皆が休んでいる間に地図を描き上げる。横目で観察していたが、やはり誰も壁の色に気を払わない。[鑑定]を使いたいのだが、使うとリンが何か言ってきそうな悪い予感がするので自重ジチョウした。


 小休止を終え、左側の5m幅の通路に向かう。

 中に入ると10数m四方の空間になっていて、反対側の5m幅通路へとつながっていた。


 クランク状の5m幅通路を進む。


 慎重に進んでいたマヤが立ち止まり、斜め後ろのウィルマとアイコンタクトをとった。

 数秒間様子(ヨウス)ウカガっていた2人がこちらに歩いてきた。


「但馬さん。頭の明かりを消して、かわりに[ライト]でこの先を照らして頂けませんか?」


 言われるままにヘッドライトを消して、完全な暗闇の方向へ数m進む。

 ……何も見えない。俺は引き返して小声で確認を取った。

「1度ヘッドライトを点灯させて、広さを確認してから[光球]を使うよ」


「それで良いですけれど、[ライト]を唱えたら直ぐに右側の壁際へ移動してください。もたもたしていたらワタシめとぶつかるかもしれません」


「このパーティーの護衛として前衛を務めてくれるのは助かっているけれど、弓矢や遠距離攻撃能力のあるモンスターだったら直ぐに通路へ引き返してくれ。通路に引っ張り込んで叩くから」


 足元の狭い範囲を龕灯ガンドウで照らしているだけなので、ウィルマの表情はわからない。


 何も言い返してこないので同意と受け取る。

 床に置いた龕灯ガンドウから漏れる僅かな光で方向を確認し、もう1度数m進んでヘッドライトの光量を上げていった。

 ……広い。100m四方以上はありそうな広大な空間だ。

 松明程度の明るさしかない[光球]では暗すぎる。最遠設置距離である36m先、斜め上の空間に最大光量の[永遠光]をトモす。


 永遠光周辺は昼のように明るいが、魔法の効果範囲外では光量が足りない。左右の壁近くは夕闇程度の明るさにしかならなかった。ビジュアル的には変な気がしたけれど、魔法の明かりに理屈はないのだろう。そういうものだと受け入れるしかない。


 左端側に池が見える。眺めていると水面が動いた。軽自動車サイズの何かが水から姿を現す。


Rhinoceros(ライナセラス)!」


 ウィルマが叫んだ。サイ……? 確か草食だったはず。縄張りを荒らされたと思ったのか、明かりを挑発と受け取ったのか。凄い勢いで突進してきた。50mは離れていたのに、もう25m位先にまで来ている。

 マヤやウィルマに突進を止められるとも思えず、俺は慌てて通路に逃げ込んだ。

 リンが嫌な笑い方をしながら俺を見つつ弓を構える。

 マヤとウィルマは果敢にも飛び出し、左右に分かれて犀を迎え撃とうとしている。


「[フレイム・アロー]」


 リンが弓を放つのにやや遅れてロミナも[炎の矢]を放った。


 城塞からの出撃で騎馬傭兵の集団と共に駆けたのとは違う種類の重量感ある音がダンジョン内に響く。


 突進してきた犀をカワしながらマヤが片手剣で切りつける。見えないがウィルマも反対側で同じことをしているのだろう。

 そういえば見た目の印象と違い犀の皮は薄いのだったか、俺も横っ腹に短槍を投げつければよかった。


 突進してきた犀がすれ違った後、いっそう重い重量音を轟かせた。壁に激突しないために制動に入ったようだ。


「[光球]」

 犀と壁との中間点辺りに嫌がらせをしてみた。


 突然の明かりに驚いたのか異様な音を出して犀が転倒した。こういうのにサークレット(通訳)は仕事をしないらしい。まぁあれは言葉ではないのだろう。


 2射目を放ったリンが更に3射目を撃ち込む。射線に入らないようにマヤとウィルマは犀に駆け寄り、容赦のない痛打を浴びせた。犀は姿を消しマヤが何かを拾い上げている。

 拾い上げたのが魔石であるなら、あれも魔物ということか。もはや関係ない話だが犀の肉って食えるのだろうか?


 マヤたちが警戒を解いたので歩測で測量をはじめた。水が広がっているところは目測で済ます。


 だだっ広い空間内を歩き回っているあいだ、3人は中央で休憩をとっている。念の為の護衛なのか、マヤは俺の後ろをついて来ているが話し掛けてくることはなかった。マヤ基準でもこの規模のダンジョンであれば地図を描くのだろうか。


 地図を描き終えたので探索を再開する。

 入ってきたのと反対側に通路は続いていた。


 右に左にと通路がジグザグに伸びている。

 200m程進むと、長軸が40m短軸が20m位の楕円形の部屋にでた。右奥10m位が池になっているので、前衛2人もチラチラと注意を払いながら進む。


 左壁沿いに探索を続ける。12m位の円形の空間や、6m四方の正方形に近い形をした空間が繋がっている。


 突然マヤが悲鳴を上げた。


Barghest(バーゲスト)!」


 マヤは左腕で太腿の辺りを押さえている。ウィルマが警告するように大声を出した。犬? 狼? 黒い何かはマヤに奇襲した後一旦後ろに下がり、こちらの様子をウカガっている。前足? なのだろうか、どこかで見た様な太い腕を前足のように使い、四足で動きまわるが、サイとは逆に全く足音がしない。


 前に出たウィルマと立ち止まったマヤ。射線がとれないのかリンが舌打ちしつつ右側へと移動していく。


「[マジック・ミサイル]」


 ロミナの頭上に浮かんだ5本の矢。それぞれの矢が右・右上・真上・左上・左と、等間隔の弧を描き目標へ同時着弾する。


 明らかに負傷したBarghest(バーゲスト)。俺はリンとは逆方向の左側に移動して短槍を投げ込んだ。

 Barghest(バーゲスト)は目前のウィルマを警戒しているのに俺の短槍をカワしやがった。

 直後に逆方向から放ったリンの矢は命中している。被弾したことでウィルマへの警戒が緩んだのか、真上から振り下ろしたウィルマの長剣がとどめを刺した。


 呆然ボウゼンとしているマヤに歩み寄り[軽傷治癒]を使った。1度では血が止まらないので、更に2回[軽傷治癒]を使う。


 俺が投げた短槍を拾いに行ったウィルマが魔石と共に短槍を俺へ手渡す。


「今のは何だったのですか?」


 マヤは気が動転しているのか、俺の手当に気がついていないようだ。


「オールバラ領辺りでは遭遇しないでしょうね。あれはBarghest(バーゲスト)。ゴブリンを使役して人を喰らう多次元界(プレーン)からの来訪者よ。時には自身がゴブリンに変身することもあるわ。人を食べ続て上位種になっていたら……」


 ウィルマはパーティーを見回して口を閉じた。


 犬か…。バックパックの中を探って軟オーブ(黄)と(橙)を1つずつ取り出しマヤに差し出す。


「病気になるかも知れないから、一応使っておくかい?」


「バカね! あんた。今の話を聞いていなかったの? 普通の犬ではないのだから傷つけられたからと言って病気になんかならないわよ」


「あっ! 但馬さんが怪我を治してくれたのですね。ありがとうございます」


 マヤは頭を下げてお礼は言ったが、俺の差し出したオーブは受け取ってくれなかった。


 バックパックにオーブを仕舞シマってから、布と裁縫道具を取り出しマヤに手渡し、足元に置いた龕灯ガンドウの角度を調節して手元が見えるように明かりをマヤに向けた。

 マヤが破れた衣服の修繕をしているあいだに、ヘッドライトの光量を上げて周囲を見回す。

 くの字に曲がった通路はどちら側も横幅が30m奥行きが100m位はありそうだ。


「[危険感知*]」

 探知範囲は狭いが、城塞では邪教徒の襲撃を防ぐのに役立った魔法。又、役に立つかもしれない。


 衣服を直し終えたマヤから裁縫道具を返してもらい、歩測で通路の幅を測り地図を仕上げる。隣にいるマヤが今まで以上に周囲に気を払う緊張感がこちらにまで伝わってきた。


 30mや40m四方の部屋が続いていたが、10m四方の小さな空間があった。

 小さいと言っても4層迄なら広い部屋と言っていたのだから、感覚がバグってきているなと思わず苦笑した。


 誰も中には入らない。


 俺が空間内をヘッドライトで照らしていると、マヤがすたすたと入って行き中央辺りで屈みこんだ。

 何かを拾ったマヤが戻ってきて俺に指輪を見せる。


 ……そういえば5層では一度も大岩を見かけなかったと、指輪を見てから気付かされた。


「[鑑定(赤)]」


 治療レミディの指輪。

 この指輪を身に着けた者が対象に接触することで、盲目治療、病気完治、毒中和、解呪の呪文効果を発揮する指輪。1日1回しか使えないが、高位術者の呪文と同等に扱われる。


 病気完治って認知症にも有効なのかな?

 指輪を受け取りながら、俺が誰なのかわからなくなってしまった母の顔を脳裏に浮かべる。


「何、神妙な顔をしているのよ? その指輪ってハズレなの?」


 リンを含めて全員に指輪の説明したが誰も欲しがる素振ソブりが見えないので、取り敢えず俺の指にめて探索を続行する。


 今いる40m四方の空間。壁が赤い。でも誰も壁の色に興味をもたない。気にする俺が変なのだろうか。


 赤い壁を通りすぎると10m四方以下の比較的狭い空間が続いた。

 スクロールかオーブが落ちていないかと丹念に地面を見つめるが、何も落ちてはいなかった。


 更に奥へ奥へと進んで行くと、カスかに水の流れる音が聞こえてくる。


 瓢箪ヒョウタンを縦に置いたような空間。手前の空間は広いところで10m位。クビれている箇所は5mもない。


 そのクビれている箇所の手前で水が左側の壁から右側の壁へと流れている。奥は池になっているようだが、ここからだと広さはわからない。


 ……何か違和感を感じた。

 池になっている空間の奥に視点を合わせていたのだが、目の隅に先程迄なかったはずのオブジェが立っていた。


 目の焦点をオブジェに向ける。


 うぶめ? ……鳥山の『画図百鬼夜行』ではなくて、勝川の『異魔話武可誌イマハムカシ』に描かれた絵に近い。不快感や嫌悪感を喚起させる手入れをしていない長い髪が上半身に纏わりついている。見るからに不潔そうな女だ。


 目が合った。

 膝から力が抜けていく。

 マヤの悲鳴が聞こえた気がする。



「痛い!」

 防具のない右横っ腹を誰かに蹴られた。何故か俺は地面に横たわっている。


「大丈夫ですか?」


 マヤが手に持った龕灯ガンドウで俺の顔を左側から照らしている。かなりマブしい。


「明かりを向けないで! さっきのは何?」

 左からの光を避けて右を向く。そこに突っ立ているのはリンだった。意図したわけではないがリンに話し掛けたようなかたちになっている。


Sea Hag(シー ハグ)よ! あんた邪眼にやられたの! 情けないわねー」


「1体しかいませんでしたが、Sea Hag(シー ハグ)複数体から邪眼を受けていたら、貴方死んでいましたよ。運が良かったですね」


 ウィルマが感情の籠らない声で補足の説明をしてくれた。


「但馬さん! 又現れるかもしれません。先程の指輪で解呪をするか、状態異常になっているのをオーブで解消させてください。そのままでいると本当に死にますよ!」


 向けるなと言っているのに、マヤは龕灯ガンドウの明かりを俺の顔にて続けている。


 あの指輪…… 1日に1度しか使えないし、オーブでいいか。

 バックパックから軟オーブ(橙) を取り出して飲んだ。橙を持っても誰も何も言わないので、黄は使わずにすました。


 [空中浮揚]を使えば天井伝いに池の奥を調べられるが、それは他の選択肢がないことを確認してからということにして、左壁伝えの探索を続行する。


 壁の赤い空間を再度通りすぎ、100m程引き返すと幅が5m位の細い通路があった。方向が一定しない曲がりくねった通路なので、入って早々に正確な作図は諦めて200m程進む。


 広大な空間に出くわしたのでヘッドライトの光量を上げる。短いところでも対岸まで40mはありそうだが、地面の大半は水に覆われている。

 反対側の壁に通路が開いているのを確認できたが、池の水深がわからない。


 部屋のあちらこちらにライトを照らしていると、上からパラパラと何かが落ちてきた。ヘルメットに柔らかい物がアタる音。落石ではないので内心安堵(アンド)した。


「引き返して!」


 誰かの裏返った声が響く。


 通路を20m位走っただろうか。

 女性陣が立ち止まっている場所に数秒遅れで俺が合流すると、リンが俺の手から龕灯ガンドウを引っ手繰り、互いを照らして調べている。


 確認が終わったのか、マヤが龕灯ガンドウを手に俺のところにやってきた。


Leech(リーチ)が付いていないか確認するので、向こうを向いてカガんでください」


 ヒルか……


 誰も何も言わず、当然のように引き返していく。

 俺の書いている地図が正しければ、もう少しでマヤが不意打ちされた場所に戻ることになる。

 マヤとウィルマは地形を覚えているのか、今までで最もゆっくりと慎重に周囲を探りながら進んでいる。


 左壁伝えで歩いて行くと見覚えのある黄色い壁の部屋に出た。

 そのまま進む。第5層に入って最初にあった10m幅の広い通路の分岐路にまで戻ってきたので、左に向かう通路へと進む。

 右側に向かう通路は、左右の壁に3カ所ずつの横穴が開いていた第5層の入り口に至る。


 横幅が10m位の通路を歩いて行くと壁が白くなってきた。大理石か石灰岩か、数メートル離れたところから見ただけではわからない。


 ほぼ直線の白くて広い通路を100m程進むと池のある空間にでた。

 ヒルのいた空間に通じる曲がりくねった狭い通路では正確な作図ができなかったが、多分(ヒル)のいる池だろう。


 俺がその推測を話すと、足並みを揃えるように全員が回れ右をして、今来た通路を引き返していった。


 結局、第5層入口から入って直後にあった向かい合わせに横穴が3カ所ずつ並んでいるところにまで戻ってきた。


 手前の横穴に入っていく。通路の幅は5mない。4層までと比較すれば広い通路だが、5層基準だと狭い通路。

 この横穴は意外に長かった。100m程進んで、ようやく左右に長細い楕円形の空間にでれた。


 空間の中央を幅1m位の水が左手から右手へと流れている。

 全員が同時に天井を見上げ、ついでマヤから順番にジャンプで水路を飛び越えていく。


 5m幅ぐらいの狭い通路に入って行く。分岐を左に曲がると10m四方ぐらいの空間にでた。


 中央に異物が落ちている。目の焦点を合わせるとスクロールに見える。


 マヤがハンドサインで全員にその場で待てと指示を出してから、振り向いて俺の顔を見た。


 [危険感知]の持続時間は過ぎている。そもそも、気を失った時点から効いてなかったのではないだろうか。


「[邪悪感知] [罠発見] 悪意と罠は探知できなかったけれど、気をつけて」

 結果をマヤに伝える。


 マヤはウナズくと、天井や周囲全体に何度も視線を走らせ慎重にスクロールに見える物を拾いに行く。


 戻ってきたマヤからスクロール(青)を受け取った。

 ロミナに差し出すが、顔を横に振って受け取ろうとしない。


 [木材形成]

 最大で28立方メートル強の木材を作り出す。

 形成する物によって形成完了にかかる時間が変動する。単純な壁であれば10秒。階段であれば10分かかる。また、船の竜骨のような複雑な形のものは2時間かけてもおおよその形にしかならない。1度形成した木材に、さらに同じ呪文をかけることで形を再形成したり、以前に形成した木材をその形で固定することもできる。この呪文で作り出した木材は[ディスペル・マジック]で消去できないが、普通に燃やしたり破壊することは可能。木材の材質は術者が決めることができる。


 ……1辺3mちょっとの立方体分の木材か。強度を気にしなければ山の中に1部屋だけの小屋を建てれる。のか?


 スクロールを読み込んでいる俺をロミナが見つめている。マヤは周囲の警戒に余念がない。リンとウィルマは通路の左右を分担して監視している。

 俺が読み込みを終えてもロミナは感情の籠っていない視線で少しの間俺を見つめていた。


 狭い通路を進んで行くと広い所で30mぐらいありそうな空間にでる。

 右側には5m幅の通路。左奥は10m幅の通路。


 慎重に左伝えに進もうとするマヤに声を掛けた。

「その広い方の先はヒルのいる池だよ」


 ピタリとマヤの動きが止まる。

 くるりと向きをかえたマヤは、あたかも最初から右側の狭い通路に行こうとしていたというフウで、狭い方の通路に入って行った。


 幅5mぐらいの狭い通路を黙々と200m程歩いて行くと開けた空間にでた。

 ヒドい悪臭がすると思ったらマヤとウィルマが同時に振り向く。


「[ライトニング・ボルト]」


 ロミナの指先が光り、空間の中央辺りで突っ立っている赤い目をした腐りかけの人体が崩れ落ちた。背後の通路が一瞬だけ発光する。


「ありがとうロミナさん。ワタシめもマヤさんも魔法の武器ではないのでWight(ワイト)には対処できませんでした」


 ウィルマは俺をちらりと見てからロミナに話し掛けた。


「お役に立てて嬉しく存じます」


 ロミナは無表情に軽く頭を下げる。


 魔石を拾い、20m四方ぐらいの空間を通り抜け5m幅の通路へと入って行く。


 10数m進むと、又20m四方ぐらいの空間にでた。


 ウィルマが何の前動作もなく駆け出し、部屋の中央から何かを2個拾ってこちらに戻ってくる。

 1つは透明オーブ。もう1つはウィルマの表情から軟オーブ(青)だと推測できた。

 多分アームレットもそこらに転がっているのだろう。ウィルマの眼中にないだけで……

[危険感知*]1時間持続。数メートル以内の悪意のある生物・罠・毒を知覚できる。

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