第13話 探しものは何ですか?
The Outsider ーmemorandumーにて、
ep.3 自宅ダンジョン 第1層 装備・取得物一覧を公開しております。
翌日の夜半前。昨日引き返した広い部屋に続く通路までやってきた。
第2層に入って直ぐにいたゴブリン? 今日は小学生サイズだった。倒したゴブリンが残す固体を放置しておくと次は中学生サイズのゴブリン? と遭遇しそうなので、投槍2本で始末した後、固体は忘れずに拾っておいた。
龕灯と槍束とバックパックを足元に置くと、木製バットを手に持ち、ヘッドライトを170度大角度の投光照明に切り替えて室内を照らす。
生物ではなく物だと思えば、スケルトンに向かって躊躇なくフルスイングできそうな気がする。
部屋の奥、15メートルか20メートル。単体のスケルトンがこちらに向かって歩きながら近づいてくる。昨日の[邪悪感知*]には1体の反応しかなかったが、感知外にもいるかもしれない。わざわざ複数を同時に相手にする必要もないので、スケルトンが目の前にやってくるまで、部屋の中に踏み込まず待つ。
2歩手前に来た時に、それまで静止していた俺はスケルトンの左側、向かって右側へと機敏に突っ込むと力いっぱいに木製バットを叩きつける。多少の思うところはあったが、これは物だと自分自身に言い聞かせる。
遠心力を乗せたフルスイングがストライクゾーンの位置にあるスケルトンの肋骨を捉える。速度とバットの重みが骨の構造を容易に打ち砕き、骨が壁まで吹き飛んだ。手元に伝わるのは確かな破壊の感触だ。生き物を殴る時の柔らかい抵抗など微塵もない。
一カ所に留まらず位置を変えながら、今度は支点となる大腿骨を薙ぎ払う。バットの強度がスケルトンの骨密度を完全に上回っている。トドメの三撃目をいい位置に下がった頭蓋へ振りぬくと、乾いた音と共に存在が消失し固体を残した。それを拾い上げるとヘッドライトの灯りで改めて室内を見回す。
公立学校によくある25メートルプールより一回り大きい部屋には、入ってきたところも含めると6方向への出入り口があった。とりあえず荷物を回収し、右手はバットから短い投槍に持ち替えた。
今回も左手側から順に探索を続ける。
最初の出入り口に行くと又しても長い通路という構造になっている。
狭いダンジョンなのに、このペースだとそれぞれの層を攻略するのに何日かかることやらと思わなくはないが、ゲームではないのだから慎重にゆく。
「[危険感知**]」
ヘッドライトを切って、龕灯を左手にバットを右手に持つ。
20メートル程進んだところで右側に分岐路があったが、そのまま直進すると通路が広がっていく。
「[光球]」
前方10メートル、高さ3メートルぐらいの空間に灯りをイメージする。同時に素早く通路の左側に横歩きして地面に龕灯を置く。
通路の広がる角度からある程度予想していたが、10メートル四方ぐらいの部屋だった。そして中央には探していた大岩が鎮座していた。
期待しながら大岩の上を探すとオーブ(橙)が3個置いてある。持ち上げると全部硬オーブだった。
スクロールか便利アイテムだったら探索も捗るのだが、硬オーブ(橙)か。オーブやスクロールには色がついていて、強いのから弱いのに並べると、紫・藍・青・緑・黄・橙・赤の順だったな。
正直、手持ちの投槍のスキルを上げても、この先出てくるであろうオークやオーガに通用するとは思えない。
剣などの武器は公社が完全管理しているから購入しても持ち出せない。数十万円の日本刀を美術品として購入しても、それが実用的な武器なのか、見栄えだけの美術品かは実戦で試してみなければわからない。
実用的な武器という点では通販で購入できる斧や鉈も期待できない。あぁいうのは切れ味重視で、硬い骨のある相手に何十回と切り込んでも耐えられる耐久力を重視した作りにはなっていない気がする。
この先遭遇するであろう対象相手に通販で買った斧や鉈を使用したところで、下手すると数回の戦闘で損耗して使えなくなるかもしれない。
強度や耐久性を重視するのであれば、穴を掘るために先端を尖らせていて、折りたためないタイプのシャベル*** を使うべきなのだろうか。第一次世界大戦でも使い勝手の良さで定評があったというし。
現状、このダンジョンで入手したオーブもアイテムも、確実に現金化する方策がないのだから、金の使い道にはそろそろ慎重になるべきだろう。
しかしながら近接戦闘を積極的にやるつもりは全くないという基本方針を改めるつもりはないので、第3層以降には手詰まり感しかない。使用回数が1桁でもいいから強力な魔法攻撃が行えるワンドの類が何処かに落ちていないだろうか。
そう言葉に出せば何となく落ちていそうな気もしたが、落ちていれば落ちていたで気味が悪いので口にするのは自重した。
今、先々のことを考えるよりも、とりあえず第2層の攻略を順調に進めるために硬オーブ(橙)を一つ持つと投槍のスキルを上げておく。
シンキングタイムなのか小休憩なのか判然としない数分間を過ごした後に探索を続行する。
分岐のあったところを左折すると長い通路が続いている。ヘッドライトは切ったまま。足元のみを左手で持つ龕灯で照らす。2・3メートル毎に天井と通路奥も少しだけ灯りを向けて確認する。
[危険感知**]の探知範囲の狭さにストレスを感じる。右手のバットは余裕があればスイングで攻撃したいのだが、咄嗟に突かねばならないこともあるだろうから、どちらにも対応できるように、さげて持っておくことにした。丁字路にでると左手側に向かう。そのまま道なりに進むと通路が広がってきた。
臆病に過ぎるかなとは思うが、今日はここまでと自嘲して2回目の[光球]を唱え、先の部屋と同じ要領を繰り返す。
思った通り部屋だった。しかも大岩付きの部屋だ。空の部屋でなかった幸運を素直に喜びながら、やや早足で大岩の近くに行く。何が置いてあるのだろう。期待に胸が膨らむ。
と、[危険感知**]が反応した。同時に人型の何かが岩の陰から飛び出してきた。刃か、爪か。右手が嫌な光りかたをしている。
早歩きを急に止め、こっちに向かってきた小柄な何かから避けようと、適切ではない挙動を試みたせいで上半身と下半身のバランスが崩れる。仰向けに倒れながら俺は唯一の攻撃魔法である[魔法の矢]を唱えた。
魔法の矢が一直線に飛び、肉薄した人型の胸を貫く。貫通の衝撃でその体は奇妙に折れ曲がり、喉の奥からヒュッと空気が漏れるような生々しい音が漏れた。リザードフォーク(トカゲ民)であれば耐えたであろう一撃だが、こいつの華奢な体格は[魔法の矢]一本に耐えられなかったようだ。もがき、俺を掴もうと宙を掻いた細い指先が粒子となって消えてゆく。その死に際に一瞬視線が合った気がした。明日の我が身という言葉が脳裏をよぎったが、慌てて打ち消しコボルトの眼を忘れようと努める。
荒い呼吸をゆっくりと整えていく。
仰向けのまま見上げた光球の輝きと部屋の床。その両方がやけに冷たく感じられた。
立ちあがり周囲に目を配る。今回も単体しかいなかったようだ。
トカゲを連想する顔をした人型。リザードフォーク(トカゲ民)かと思ったが、小柄なのと魔法(赤)1発で仕留めたのだからコボルトだったのだろう。
ゴブリンより弱いと言われ、公社買い取り最低価格品という固体は残ったが、金属のような光沢の何かは残っていなかった。
固体を拾って大岩の上部を見る。
何もない。
頭上では俺の唱えた光球が輝いている。
何もない。
様々な角度から探し続ける。何かが見えるのではないか、透明な何かがどこかにあるのではないか、それではなくとも他の何かがあるのではないかと、俺は頑張って探した。
何もない。
俺の持つ最強の攻撃魔法を使ってまでの勝利した死闘の結果がこれか。公社買い取り最低価格品の固体を握る手の感触が空しい。
[危険感知**]がタイムアウトする前に第1層へ戻るため、俺は帰路に就いた。
* 邪悪感知 1時間持続。36メートル以内の術者への悪意を探知する。罠や毒は探知できない。
** 危険感知 1時間持続。数メートル以内の悪意のある生物・罠・毒を知覚できる。
*** JIS規格 語弊を感じる方はスコップと読み替えてください。




