4話 履歴
「はぁ~・・疲れた」
学校も終わり真っ直ぐに家に帰って来たボクは、自室の椅子に座り疲れ切った身体の体重を背もたれに預ける。
あれから何処に逃げても学校の生徒達が団結して西条さんと2人でいる場所をSNSで拡散するので、結局『死に戻り』の件については後日に再度説明される形で解散となった。
それからというもの、会話をしたこともないクラスメイトや他学年の生徒達までがボクの周囲を囲み彼女との関係性を敵意むき出しで尋ねてくるので、必死に逃げ切って今に当たる。
「死に戻り・・か。 今もあまり現実味はないけど、信じるしかないよな~」
前回と前々回の2回も西条さんが死んだ場面を目撃している以上、何事もなかいように学校に来ている西条さんを見れば、彼女の言っている事が冗談でない事は分かる。
しかし、どうしてボクなのだろうか・・・。
「他の皆は西条さんが死んだ事さえなかった事になっているのに。 どうしてボクだけが彼女が死んだ記憶を持ったままでいるのか・・・」
ボクはすぐに机に設置しているパソコンを起動させてゲームにログインする。
ゲームの題名は【LibertyWorld】。
ダウンロード数世界1000万越えの誰もが知る人気ゲーム。
広大なオープンワールドの中で様々の職業を選べるほか、開発者でさえ把握しきれないAIが創り成すストーリーとクエストにより飽きる事の無いやり込みが特徴のゲーム。
【ヘイジがログインしました】
ボクはゲームキャラありきな大剣使いの冒険者で名前もそのままヘイジと名乗っている。
『お? 今日はいつもより遅かったなヘイジ。 友達でも出来たか?』
『それ嫌味だよハカセ』
ログインした場面はセントラルと呼ばれる街の客が誰一人いない酒場。
そしてリバリティで酒場を経営している『ハカセ』は実際に現実世界でも自営業をしており、ボクの唯一の友人だ。
『はっはっは! 悪い悪い! 現実でもゲームでも友人と呼べる人間が少ないヘイジ君を心配しての質問だ! あまり悲観になるな!』
『それ、ホントに心配してるの? まぁいいや。 それよりもハカセに聞きたい事があるんだ』
『お? どしたどした? 何か新しいクエストでも見つけたか?』
『そういう訳じゃなくて、現実での出来事でちょっと厄介な事になっていて。 実は――』
そこからボクは西条さんの名前を伏せた状態でここ最近に起きた現象の事を話した。
『ふーむ・・信じられないな。 死んだ人間が生き返るなんて、そんな異世界転生系のありきたりな設定が実際に起きているとは』
『うん。 ボクも未だに信じられてないよ』
『・・よし! ちょっと30分ほど待ってくれ。 そう言った件に詳しい専門家に聞いてくるわ!』
『そんな専門家いるの?!』
ハカセはゲームだけでなく現実でも人脈が広い。
今までも学校の勉強の事やイラストやスポーツの事など専門に関わっている人との知り合いが多く、今までもリバリティワールドを通して色々とお世話になった。
『まぁな。 お前みたいなそういう摩訶不思議な事件に巻き込まれた人の話題も何件か聞いた事もあるからな。 もしかしたら何か分かるかも知れない』
『ほ、ホント! じゃあ悪いんだけどお願い出来る?』
『りょ! ほんじゃまた30分後に!』
【ハカセがログアウトしました】
「ふぅ~。 持つべきものは人脈の広いネットフレンドだな~」
ハカセとは顔も知らないネットゲームだけの関係だが、リバリティワールド以前のゲームから色々とお世話になっている信頼できる人だ。
「とりあえずはハカセの調査結果を待ってこれからの事は西条さんと相談しながらで・・・ん?」
そこでボクはなんとなく目に入ったチャット履歴を見て疑問に感じた。
ハカセとは音声でやり取りをしている為チャット履歴なんてものは残らない。
あるとすればゲームのNPCとの会話履歴くらいのモノだ。
しかし、視界に入ったチャット履歴には明らかにボクが別のプレイヤーとやり取りをしているものだった。
やり取りの履歴は昨日と前々日。
――昨日の履歴――
【大丈夫ですか? 今何処に居ますか?】
【今は学校の空き教室にいる。 お願い。 たすけて】
――前々日の履歴――
【すぐに建物の中に入ってください! 絶対にボクが行くまで出たらダメですよ!】
【ゴメン。 もう無理かも】
【諦めないでください! すぐに向かいますから!!】
読み上げた物は一部のモノだが、他にもボクの記憶にない履歴が2日置きに残されている。
チャットの内容はすべて、誰かがボクに対して助けを求めている内容ばかり。
「チャット相手は・・トウカ?」
トウカ・・確か最近でもそんな名前の人が・・・
「―――西条さん」
【ハカセがログインしました】
『いや~お待たせ! 色々と情報を持ってきたよ~。 ・・・あれ? お~いヘイジ~?』
ハカセが呼び掛けるゲーム内にいるキャラからプレイヤー本人の大杉の返事はない。
何故なら彼は今、あまり親交もない1人の少女を助ける為、必死になって学校に向かって走っているから。