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雪女のあなたとキスした私  作者: キノハタ


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このかちゃん

 「―――なんで、『折り紙』だったんでしょうね」


 二人でこたつに入りながら、ふと私が漏らした言葉に、ましろさんはうーんと考えこんでいた。今しがた私が折った折り紙を天井の光に透かしながら。


 今回折ってみたのは、紅い薔薇の折り紙。普通のやつよりちょっと手間がかるから、2人で作り方をみて、あーでもないこーでもないと言いながら時間をかけて出来上がった。


 まあ、少し不格好ではあるけれど、どうにか薔薇には見えるだろうか。


 あなたはしばらくそれをどことなく、楽しむように眺めてから、そっと自分の唇に花を重ねた。見ようによっては、折り紙の花から、蜜を吸っているようにも見える。


 「……なんでだろうね、愛がこもればなんでもいいのかな」


 「折り紙以外でも、多少の愛の伝達はできるけど、けっきょく、折り紙が一番コスパがいいって、たかはな先生言ってましたね。やっぱりハンドメイドなのがいいのかな」


 「んー、でも本当になんでもよかったら、今まで誰か気づいてると思うんだよねえ。贈りものしたら、なんか愛を受け取れるぞって。だからあの瞬間のあの歌を歌ってる時に渡されて初めて愛がこもったのかも」


 「あー……なるほど。ところで、ましろさん、ちゃんと愛こもってます? それ」


 唇から、そっと紙の薔薇を離したましろさんは、どことなく紅い頬のままにっこり笑った。


 「……たっぷりこもってる、どの口が愛なんてわからないって言ってたのか不思議なくらい」


 「そりゃ何よりです……いや、今でもわかってないんですけど」


 私がそう言うと、ましろさんは少し意地悪そうな笑みを作った。ちょっとからかってるような視線を私に向けながら。


 「熱くて唇から溶けちゃいそうなくらいだよ、無自覚このかちゃん」


 「…………それはうん、何よりっす」


 ちょっとさすがに恥ずかしくなって視線を逸らしたら、ご満悦な笑みをいただいた。どう言葉で取り繕っても、この人には私の思いのたけはバレているからどうしようもないけれど。


 「そーいえば、あれだね、このかちゃんってそういう喋り方だった」


 恥ずかしさに、窓の外を眺めていたら、ましろさんばぼそっとそう零すようにそう言った。


 「…………そういう……とは?」


 「ほにゃらら……っす、みたいな。このかちゃんはそういうとこあるっすよね、って感じの」


 言われて、あーと思わず唸る。そういえば、あまり人に言及されなたことなかったっけ。


 「あー、使い分けてるんですよ、一応」


 「ほーん、ちゃんと丁寧語で話すときと、~っす言葉で話してるときで分けてるの?」


 「はい、っす、ってつくのは、半分癖みたいなもんで、ほとんど無自覚なんですけど。ま、尊敬してる人くらいには、ちゃんと丁寧語使おうって一応、想ってやってます、一応ですけどね」


 そんな私の言葉に、ましろさんはへーって、ぼやきながら何かを考えるようにホットのカフェオレを啜りながら天井を眺めてた。


 「あー、バーの店長さんにも使ってる?」


 「はい、結構、悩んでる時にお世話になったんで、あそこ居心地いいですし」


 「あとー……あ、私にも使ってる? あれ、でも結構前からだよね?」


 「ましろさんには、半年くらい前に話聞いてもらった時から使ってますよ」


 「え、あ、そ、そか。あ、あれ、あと使っている人いたっけ……?」


 「高校の頃の恩師と、小学校の頃に出会った近所の師匠みたいなお姉さんくらいっすかね。……たかはな先生もそろそろ使った方がいい気もしてきましたけど」


 そうやってやり取りしている間に、ましろさんは、あれ、あれと首を傾げながら指を少しずつ折って数えてた。


 「え、まだ、四人しかいないってこと?」


 あ、ようやく気付いていただけたようだ。


 「はい、生涯でたった四人の尊敬できる人です。私、あんまり人を信用しないんで、これだけしかいませんが。元から結構想っていたのが、お分かりいただけました? ましろさん」


 まあ、常連と店のバイトだから、限りなく私の片想いに近かったし。どちらかと言えば、今のような愛を求めあう関係じゃなくて、シンプルな尊敬だった気はするけど。


 「半年前から……?」


 「そーですよ? ましろさん」


 ましろさんはしばらく眼を見開いて、手元にある薔薇の折り紙と私を見比べて、やがて何を思ったかおずおずと頭を下げだした。そしてそれは緩やかに土下座へと移行した。


 「お、お、畏れ多いで候……」

 

 「……なぜ」


 問うてみるけど、ましろさんの頭はどんどんカーペットに埋没していく。あまりにも綺麗な土下座だ。てか、なんでこの人は、慌てるとすぐ武士みたいになるんだろうか。


 「だって、たった四人だよ!? このかちゃんの人生の最も尊敬できる人ベスト4でしょ?! 絶対、私みたいな酔っぱらいOLが座っていい席じゃないって!! なんなら半年前に話聞いてた時も、私酔っぱらってた気がするし!!」


 「まあ、実際酔ってはいましたね」


 「ほらぁ!! やっぱり!! ていうか知ってる?! バーの店長さん、結構凄い人だったんだよ!! 昔はいくつも音楽バンドをデビューさせたプロデューサーさんで、本人も滅茶苦茶ドラム上手くて、私も活動してた時に散々お世話になった人で、度量も深くて、奥さん美人で、性格イケメンで、音楽関係者との交流を大事にしたいからって現役を退いてもバーを経営してるような人だよ!!?? 私絶対、同列に扱っちゃダメだって!!」


 ましろさんはそう言って、泣き叫ばんばかりにカーペットに頭をごりごり埋めていた。あららと私は苦笑いしながら、ぽりぽりと頬をかく。


 「まあ、でも個人的には、ましろさんの言葉がやっぱり一番効いたと言いますか」


 「う…………」


 「やっぱみんな私のことは、しっかりしてるって言ってくれるんで。どうしてもしっかりしてる奴として、扱われるんすよね。だから、ましろさんがちゃんと気持ちに寄り添ってくれた時は、ほんと嬉しかったんですよ。私、お母さんいないから、いたらこういう感じかな―――とか」


 「う、うう…………」


 「店長が凄い人なの、なんとく知ってましたし。もちろん、あの人に教えてもらったことは山ほどありますけど。やっぱり私にとって、そうやって教えてもらったたくさんのことと同じくらい、ましろさんのあの夜の言葉響いたんですけど―――」


 「う…………ぐ…………」


 「こういう想いは間違いですか? ――ましろさん?」


 にんまりと、あえてわかるように意地悪な笑みを浮かべる。あなたは困惑と照れですっかり真っ赤になって、目尻にちょっと涙も浮かんでる。


 ただまあ、そういう姿も可愛いと想ってしまうのは、私もゆうて恋愛症候群に侵されているからなのかな。たかはな先生に言ったら、笑われそうな話だけれど。


 ましろさんは、しばらくうぬぬと唸って、むぐぐと悶えて、ぐにゃああと捩じれた後に、ふるふると真っ赤に震えたまま、ぽつりと小さく言葉を零した。


 「……それがこのかちゃんの想いなら……間違ってないと……想います」


 「ふふ、ですよね」


 だって、自分の気持ちを大事にしていいって、教えてくれたのあなたなんですから。


 とりあえずぎゅって抱き着いたら、小さなあなたの身体は、びくんと震えたけれど、やがて諦めたように力が抜けていく。うんうん、いつもは冷やっこくて冷たいからだけれど、今はしっかり暖かいというか、なんなら熱いというか。


 「…………うう、このかちゃんといたら、ほんとに身体溶けちゃいそう」


 「まっさかあ、雪女じゃあるまいし」


 「ふふふ……こやつ、私が雪女なこと忘れてきてるなあ……?」


 そのまま両手で小さい身体をぎゅっと抱きしめていたら、腕の中から頬を赤らめたまま藪にらみを頂いた。あらあら、ちょっと怒らせってしまったでしょうか? まあ、そうやって怒る姿も可愛いんだけれどね。


 「実際、体温低いくらいで、雪女っぽいところはあんまりないですよね。あー、でもお母さんもまふゆさんもみんな色白美人か」


 「……美人かは置いといて、まあ色は白いね。あー、でも一応あるんだよ、雪女っぽいところ、結構、命遣うからやる意味特にないんだけどさ」


 ふう、とあなたは私の腕の中で軽く息を吐いて、肩から力を抜いた。怒りはどうやら収まったようで、どことなく柔らかくなった身体がそのまま私に体重を預けてくる。


 「え、なんですか、それ見たーい」


 「…………えー」


 そういえば、今まで、ザ・雪女ってところはみてない気がする。だから、あるというならみてみたい。まあ、言葉を聴く限りそれなりに消耗しそうな感じなんだろうけど。


 もちろんそれはあまりいいことではないけど、知っておきたいというわがままも同時にあった。


 そんな私の言葉に、案の状、あなたは少し迷ったような顔をしたけれど、やがて諦めたようにため息をついた。それから、仕方ないなあって感じで首をこっちに向けてくる。


 「まあ、いいか。お陰様で、今はちょっと命貰いすぎて熱いくらいだし」


 そういうとあなたは自分の唇にそっと指をあてて、少しだけ頬を息でふくらまし始めた。


 「…………ましろさん?」


 何してるんだろう、と首を傾げるけど、あなたはゆっくり首を横に振って手のひらをそっとこちらに向けてくる。ちょっと待ってて、ってところかな。


 しばらく言われるがまま、腕の中でましろさんが口を膨らませるのを眺めてた。なんかぷりぷり怒ってるみたいでかわいい。


 それが二分くらい経った後、ようやく彼女はふうと軽く息を吐いて、身体から力を抜いた。


 ん? って私が首を傾げてる間に、ましろさんはゆっくりと口を少し開けて舌と一緒にその中身をこっちに向けてくる。


 「ん……? …………あ」


 しばらくなんだろうこれ、って首を傾げて、ちょっとしてからようやく気付く。



 氷の、結晶。



 雪みたいに放射状に広がった、爪ほどしかないそれが、ましろさんの舌の上に乗っている。


 わー、って思わず声を上げながら、そっとましろさんの舌に指を添えて、その氷の欠片を手に取ってみた。


 舌に触れるとき、ましろさんの紅く濡れたそこに指がちょっと重なって、なんだかいけない気分にもなるけれど。それ以上に目の前の神秘に対する、驚きの方が勝ってしまう。


 確かに氷だ。冷たくて、濡れていて、雪の結晶のように放射状に広がっている。


 小さく、細く、その気になれば多分簡単に握りつぶせてしまうほど、儚くて、だからこそどこまでも綺麗で。


 そういえば、少し触れた舌もかなり冷たかった。なるほど、これは命を使うと言われても納得がいく。腕の中にあるましろさんの身体も、こころなしかさっきよりは冷たくなっている。


 「ふう……、いやあ、久しぶりにしたから、ちょっと疲れたかも」


 「へー……すご。でも、そんなに疲れるんなら、確かに、最初に教えてくれた時にはできなかったですね」


 私の言葉に、ましろさんはうんと首を縦に振る。


 「そう、それにファンタジーで説明するより、病気だっていって、先生に説明してもらう方がわかりやすいしね。正直、これ疲れるし命なくなるし、やる意味あんまりないんだよね。吹雪とか起こせるほどでもないし」


 ましろさんはそう言って自分の舌を、んべーとのばす。


 「まあ、確かに前はましろさん、そもそもそんなことに命遣える状況でもなかったですしね」


 「そーそ、ていうか、もうちょっと強かったらなあ、命を削って使う禁じられた能力! みたいな感じでカッコよかったのに。それすらないんだもん」


 そう言って、あなたは腕の中でびしっと何かのポーズを決める。しかし、しばらくするとだるくなったのか、へなへなとポーズを解いてしまう。うーん、能力者バトルモノでこの貧弱さはちょっとキツそうだ。


 「まー、実際命削ってますしね。それでこれじゃあ、色々とコスパが合わないような……あむ」


 うん、しょっぱいような、あまいような。


 「そーそ、大事な命をこんなとこに使ってられるか―って、感じもするし。ほんと無駄能力というか、もうちょっと恩恵あってもいいのになあ……なんて…………え?」


 「すぐなくなっちゃった、まあ、ちっちゃいですもんねえ」


 少し惜しいが仕方ない、氷とはかくも儚い物よ。


 「え?」


 ましろさんの怪訝な表情がこちらに向いた。


 「どしました?」


 「え? 食べたの? さっきの氷を?」


 何をそんな。


 「ええ、まあ、はい。なんかちょっとしょっぱいような甘いような、どっかで味わったことあるような…………」


 当たり前なことを。









 「な、な、なななな、何してんのこのかちゃぁぁぁん!!!????」


 「あ、わかった唾液だからだ、どっかで感じた味だと思ったら……」


 「あ、あ、あ、当たり前でしょうぉぉぉぉ??!!! え、ちょっと、だめ、出して!! だめ、さすがに恥ずかしいから!!!」


 あなたは顔を真っ赤にして、これでもかと表情を動かしている。そのうえ、わたわたと手を振り乱しながら私に詰め寄ってくる。うん、かわいい。


 「もう溶けてなくなっちゃいました、氷ゆえの儚さ……」


 「はにゃふにゃふにゃぁぁ!!!」


 「ていうか、散々キスしてるんですから、今更では?」


 「そうだけど! そうじゃないから?! なんか、こう、あれ、あれ、あれ!! あれだから!! だだ、出しなさい! 返しなさい!!」


 「返す……? ああ、了解です」


 「ふぇ?」


 腕の中で大暴れ大魔神となったあなたの言葉に、私ははたと一つ気が付いて、なるほどと納得した。


 「そうですね、命遣っちゃいましたもんね」


 「え? …………あ」


 じっとましろさんの瞳を覗き込む。にんまり笑って、ゆっくりとその唇に視線を向ける。ところで、さっき私に向かって濡れた舌を出していた姿は、なんというかおねだりしているみたいで中々に煽情的だったわけですが。


 ちょっとくらい、気分が乗ってしまってもそれは不可抗力というもので。


 「じゃ、返しますね?」


 「ひゃ…………」


 あなたがこれから起こる全てを理解した瞬間に。




 愛でるように。



 貪るように。



 溶かすように。


 

 舐るように。




 唾液で少し濡れた唇をそっと重ねて、あなたの冷えた舌に、私のそれを絡めさせる。


 冷たくて、濡れていて、柔らかくて、まるで私の舌を求めるみたいに絡みついてくる。


 あなたから息を奪うように、あなたに私の何かを流し込むように、あなたへと愛と想いをそこで溶かしてしまうかのように。


 どろりと。


 何かが流れ込んでいく。


 舌の先に、しょっぱいような甘いような、さっき味わったばかりの感覚が満たされていく。


 それをしばらく愉しんで。


 それをしばらく味わって。


 あなたの身体が、弱く静かに震えるころに。


 そっとあなたの口から、私の舌を抜きとった。


 優しく、蕩けるように、溶かすように。


 口元から、伝う唾液の雫すら愛おしんで。


 紅く震えながら、ぎゅっと私の服の裾を握っているあなたに笑みを向ける。


 「補充と返却、できました?」


 そういってみるけれど、あなたはしばらく自分の身体を抱いたまま、小刻みに震えてて。


 やがて、どことなく紅い顔のまま、じっと私のことを見つめてくる。


 「君は……ほんとに……油断ならないね」


 「ふふふ、お陰様で」


 私の服の裾を掴むあなたの手はすっかりと熱くなっていて、うんうん、ちゃんと熱は伝わったようですね。


 私の身体も全然冷たくなってないというか、なんならちょっと熱いくらい。うーん、やっぱり、折り紙でちょっとずつ命を溜めてる効果が出ているのかな。それかシンプルに愛されているがゆえか。


 なんて考えていたら、ぼふって音がして、あなたの頭が私の薄い胸に収まってきた。


 「このかちゃんが詐欺師だったら、私全財産むしり取られてる自信があるよ……」


 「んな、大げさな……」


 「いや、無理。魔性が過ぎる……雪女よりよっぽど魔性の女だよ……」


 「ははは……、お褒めにあずかり光栄……いや褒められてるんですかこれ?」


 「…………多分」


 なんてやりとりを繰り返しながら。


 まだまだ冬が続く中、二人揃ってこたつでゆったり過ごしていた。


 悩みはあれど、まあ大丈夫。


 不安もあれど、まあなんとなる。


 苦しみもあるけれど、まあ楽しみがないわけでもないし。


 伝えたいこと、伝わらないこと、言えた想い、言えない愛もあるけれど。


 まあ、それでも今は独りじゃない。


 そんなことを噛みしめながら、気ままに気楽に、あなたの隣で笑ってる。


 そんなことが心地いい。


 そんな今がなかなか好きだ。


 だから二人揃って、紅くなった頬を抱えながら笑ってた。


 冬はこれから冷え込んで、ますます寒くなっていくから。


 そうならないよう、お互いしっかりくっついて。


 温め合って、過ごしてこう。


 どうせ隣にいるのだから、目一杯くっついて、どちらも寒くならないように。


 あなたの隣でゆったり、ゆったり。


 そんな幸せをかみしめていた。


 そろそろ雪が降り始める。


 そんな夜のことだった。
















 「もう外、寒いよ。このかちゃん、泊っていったら?」


 「はい、もちろんそのつもりですよ、ましろさん」
















 あと、忘れがちなことを一つ。



 別に、命の受け渡しなんて必要なくても、キスもえっちもしていいんだぜ。



 だって、本来、これはそういう行為なのだから。



 意味もなく、わけもなく。



 ただ愛を確かめ合うためだけに。



 ただ身体を温めあうように。



 ただそれだけのために、私たちは唇を重ねているのだから。



 














おしまい

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― 新着の感想 ―
たくさんの愛に溢れた作品でとても良かったです! 語彙力がなくて申し訳ありませんがとても満たされました! 本当に素晴らしい作品をありがとうございました!
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