全国大会を前に……
とある高校の体育館、部員全員を集めた監督は声を張り、言った。
「えー、我々、白東高校男子バレー部の全国大会出場が決定し、監督として誇らしい気持ちだ! しかし、ここで慢心せず、今日も練習に励むぞ! ……という気持ちで来たのに、全員怪我をしているとは、いったいどういうことだ!?」
そう、監督の前で横並びになっている男子バレー部員、八人全員が腕や足に包帯やギプスをつけていたのだ。
「監督、怒らないでください。みんなも悔しいんです」と、女子マネージャーになだめられ、監督はふーっと息をついた。
「……しかし、大会出場を決めたあの試合終了後まで、控えも含めて誰ひとり怪我をしていなかったじゃないか。いったい何があったんだ? 一人ずつ説明してみろ」
「はい、ゲーセンで台パンしたら手を骨折しました」
「僕は下校中、目をつぶってどれだけまっすぐ歩けるかを友達とやっていたら、溝に足が落ちて、グキッといっちゃいました」
「おれは寝返り打ったら腕が壁に当たったみたいで、それで」
「体育の時間にサッカーをやったんですけど、シュートの時に空振りして」
「いやぁ、干したてのフカフカの布団に飛び込もうとしたら足がもつれて」
「両手を放して自転車に乗っていたら」
「バナナの皮が本当に滑るか、知りたくなったことありません?」
「全員、バレーとまったく関係がない! どうなっているんだ! 理由もしょうもないし、お前ら小学生か! 進学校だろここ! 八人全員が骨折ってこれ、ん? あと一人の理由は? まさか、無事なのか?」
「おれはバレーに関係ありますよ」
「そこは重要じゃない! 『できますよ監督』みたいな顔をして言うな!」
「朝早くに来て、体育館の床をモップ掛けしていたら、滑って腕の骨が折れました」
「ほとんど関係ない!」
「監督、落ち着いてください!」
「ああ、すまない……。マネージャーもせっかくここまで応援してくれていたのに……クソッ、この間、怪我にはくれぐれも注意しろって言ったのに……」
「私の腕の骨も折れてます」
「そっち!? 落ち着いて聞いてって意味!? どうでもいいよ、マネージャーの腕の骨なんか!」
「どうでもいい……?」
「あ、それはその、申し訳ない……しかしなぁ、せっかく……」
「いや、監督。僕らも澄ましているように見えて、本当は申し訳ない気持ちでいっぱいなんです」
「はい。監督は対戦相手の情報とか入念に調べ上げてまで、僕ら弱小バレー部を全国大会まで押し上げてくれて」
「せっかくの全国大会……おれ、悔しいよ……」
「うちの母親なんて『あたしが布団を干さなければ……』って、ちょっと病んじゃったよ」
「でもまさかだよな。まさか全員、それにマネージャーまで」
「悪い偶然は重なるって言うもんなぁ」
「でも偶然も三つ重なると運命とかいうしなぁ」
「因果応報かもなぁ。もっとバレーに向き合っていたら……。まあ、おれはモップ掛けしてたけどね。朝練前に」
「せっかく呪詛をかけたのになぁ……」
「呪詛!?」
「そう、せっかくアフリカの祖母から取り寄せたお手製のブツで、毎回、対戦相手のレギュラーメンバーとついでに控えも何人か、骨折するようになぁ」
「だから、対戦相手の動きがなんかぎこちなかったんだ……」
「ああ、変な感じはしてたな」
「全国大会の相手にも念入りにやっておいたのに、まったくの無意味!」
「それって……」
「もしかして……」
「相手に返されて……」
「全国大会優勝で名を上げて、いずれプロチームの監督になるつもりだったのになぁ! 期待外れだった! 次はバスケだな。うん」
「なあ」
「ああ……」
「返そう」
「まったく、お前らも英語ができるのはいいが、勉強よりも誠意、恩返しというものを考えて、ん? なんだ? お――」