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恋の音

私の一作目の別視点的な作品です。

無機質なアラームに目が覚めた。


やっと、朝か


朝に対する嫌悪が体の動きを鈍らせる。

まだ夢現のままカーテンを開ける。

外には中途半端な雨が降っていた。



   ◯ ◯ ◯


テレビの星座占いで9位だった。

靴を履いたら昨日の雨で生乾きだった。

家を出たら雨が強くなった。

歩いていたら雨が足元で何度も跳ねて靴下が微妙に濡れた。

バスを降りようとしたら定期券を家に忘れていた。

学校に着いたら雨が止んだ。


梅雨でもないのにこの雨ってついてないな。

そんな中途半端に濡れた不快感を彼はお風呂上がりの爽やかさに変えてくれた、たった一言の


「おはよ!」


で。

不思議だ

これだから恋って恐ろしい



彼こと田神紳助とは高校始まって2日目に出会った。その日は初めての現国の授業で先生の粋な計らいで机が隣あった4人で雑談をするという楽な授業だった。そこで互いを知り、そこから仲良く、、、

なったわけではない。


私と彼がほんとうの意味で知り合った、というより、私が彼に恋に落ちたのは秒針が私を追い越した時だった。


その日は私が美術部に入部して2週間とかそれくらいの放課後。私は未だなれない美術室への道を少し緊張しつつも歩き、美術室前についた。

その少し大きく感じるドアを開けるとそこには誰もいなかった。あとで気づいたのだがその日は部活が休みだったらしい。そんなことなど知る由もない私は、空気のこもった教室の窓を開け、春の気持ちいい空気を教室と肺いっぱいに取り込んだ。

そして自分のスケッチブックと鉛筆を取り出し、前から部の課題として出ていた自分の好きな風景を拙い記憶を頼りに描いていた。

あと少しで書き終わりそうな頃、突風が私に吹いてきた。


「村上先生いらっしゃいますか!」


急に開けられたドアの音とともに彼の声が静寂の教室を突如破った。

その時の私は漫画みたいに目を大きくして長い髪が少しボサボサになっていたと思う。それほど静かだったのが急に破られるというのは驚いてしまうことなのだ。

彼は走ってきたのか天パ混じりの髪がセンターで分かれていて、汗をかいていた。


「あれ水宮さんじゃん、今日美術部ないんじゃないの?」


息を整えながらも彼は私に話しかけてきた。


「そうなの?私まだ部活のある曜日を把握してないのよね。でもありがとう、おかげで気づけた。そういう田神くんはどうかしたの?」


「いやあ俺、美術係なんだけど明日美術あるの忘れてて何持ってくりゃいいのか聞こうと部活抜けてきたんだよね」


サボりたいってのもあるけどと彼は頭をかきながらはにかんだ。


「村上先生ならもう帰ったんじゃない?あの先生部活ない日は帰るスピード異常に早いから」


「まじかー、明日の俺説教コースじゃん」


「他クラスの子に2回目の授業で何がいるか聞いておこうか?」


私のクラスは美術の授業が他のクラスよりも曜日的に一番遅いので他のクラスに聞けばわかるだろう。中学の頃からの友達なら快く教えてくれるだろうし。


「ほんと!?助かる!でも俺水宮さんの連絡先知らないよ?」


「私、クラスラインもう入ってるからそこから勝手に追加していいよ。でもごめんね私からクラスラインで美術の持って来る物直接言うの恥ずかしくてその、、、」


「いいよそれくらい。まずまず俺が聞いてないのが悪いんだし」


クラスラインで言ってくれる?と私が頼む前に彼は察してそう言って笑った。その笑顔は私を落ち着かせた。


「それって、水宮さんが描いてんの?」


ただの興味本位かサボりたかっただけなのか彼の本意はわからなかったけれど、彼は突然私の方によってきた。


「これ見てみていい?」


彼は絵を人差し指で指し、私の目を見ていった。

うんいいよと私が言うと彼は急に私の横に腰をかがめて絵を見始めた。


窓から風が吹いてカーテンがたなびいた時、制汗剤のシトラスの匂いが私の鼻をかすめた。

彼は今腰をかがめているし、私の絵をじっくりと見てるからバレないだろうと私は時計を見ているふりをしながら彼の横顔を横目で見ていた。

まつげが長いなとか、瞳の色がくるみ色だとかほんとに小さな発見をしていた。


そんなときに彼が急に私の方に振り返ってきたから目が合った。横目で見ていたはずの私はいつの間にか彼を正面に据えて見ていたようで見ていたのがバレてしまった。

私はつい顔をそらしてしまった。

彼はそれを気にした素振りも見せなかった。

そして私にアイスみたいな言葉をくれた。


「この水平線と入道雲がザ・夏!って感じで俺好きだな」


そのチョコミントのアイスのように清涼感と甘味が混ざったあの独特の味が胸の中で広がった。彼は語彙力がなくてごめんと笑いながらに謝ってきたけれど、そんな言葉でさえ、溶けて私の心に注がれた。

心の中の何かがコロンと音を立てた。


「ありがと」


私にとって平静を装うにはその言葉を絞り出すので精一杯だった。彼はそれにニコッと笑うとまた私の絵を見始めた。


その彼の姿が夏の代弁者に見えた。


もちろん私は彼のことなど全くとして知らない。でもそんな私でも彼がこんなふうに見えたのだから、それだけで彼がどんな人間かわかるだろう。


ふと時計を見るとまだ短針が5時の範囲を示していて時間の流れを示していた。彼がこの部屋に来てほんの数分しかたっていないというのに私にとっては秒針が止まって見えるくらいにゆっくりとした時間に感じられた。


まるで私だけ秒針に置いて行かれたように。

ここにはその話のイメージの歌の歌詞を書いていこうかなと。


『聴きたい曲も見つからない憂鬱な一日の始まりが君の大げさな「おはよう」で全て変わってしまう不思議』

            RADWIMPS 〈祝祭〉 より

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