第二十三話「先住者」.3
ハダンに届きかけた顎は、直前でぴたりと止まる。代わりに、痛みに悲鳴を上げる声がした。
俺たちを包み込み巨大な影は、長大な首を伸ばしてティラノサウルスを持ちあげた。その恐竜の数倍近い巨体が、空から舞い降りたのだ。
「――――!」
はるかに巨大なその姿こそ、まさしく怪獣と呼ぶにふさわしい存在であろう。
白亜の三つ首竜。ラドン、ズメイ、九頭竜、多頭の竜の伝承というのは地球にも存在する。それと似たような生物が、怪獣サイズで目の前にいた。
「星の表側から何者かがやってきたと思ったが、なんなの、その箱は。新しい馬車が地上にはできたの?」
ティラノサウルスの巨体は、三つ首の竜が三方向から噛みつき、ひねることで引き千切った。スプラッタな光景に俺は顔をしかめたが、その頭上から聞こえてくる声はずいぶん陽気だ。
白亜の竜はティラノサウルスを咀嚼しながら頭を降ろした。
「大丈夫かい。小さな表側の人」
「は、はい……」
その人物は、倒れたままのハダンに手を差し出し、起き上がるのを助ける。
悪い奴ではなさそうだ。フードとマントに身を包んだその人物は、俺のことを見つけたように駆け寄ってくる。
「あなた、以上な魔子濃度ね。まさか表側から落ちてきた奴が弱いわけはないと思ったけど、君なら納得できるわね」
「……俺の中の魔子量がわかるのか?」
「わかるよ。わたしたちは魔子への干渉能力なら、この大地の表裏双方含めて随一と自認しているくらいだから」
巨大な三つ首竜の頭を撫でるその姿は、大型犬を撫でる飼い主と変わりがない。だが、撫でられているのは三つ首竜。恐竜さえ容易く捕食する頂点存在。
それを従える者など、一つしか考えられない。
「あんたは、悪魔獣なのか?」
「デモンズ……? あっ、表側のあなたは、わたしたちをそう呼ぶんだったかしら?」
目の前のデモンズの女は、どこかマベッツとは別方向で古風な感じを漂わせる。
女武者とか、戦乙女とか。
「デモンズじゃないのか?」
「いや。それで間違いないでしょうね。でもそれは、表の呼び方よ」
否定はしなかった。むしろ、彼女ら自身は自らをデモンズと名乗ってきたことはなかったらしい。初代魔王も主天使に対抗する種族としてデモンズを名乗ったようだから、魔王自身は別の名前があったのかもしれない。
「この大地の裏側に住む者は、皆等しく内住者を名乗るの。かつて大地の表からこの裏側へやってきたわたしたち全員、ナンロルさ」
バサリとフードを外した彼女は、人間と変わりない。だが、その側頭部から生えたねじれた角は、わかりやすく異種族であると伝えてくる。
「デモンズ……そういうことか」
地球人なら一瞬で判断できる。悪魔と呼ばれるに足る角を持つ彼女らは、自らをナンロルと呼んだ。
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