第三話「新しい友達」.1
気絶したクルツアスランは、地面に横たわって動かない。
安全のためにも、今のうちにとどめを刺すべきかとも思ったが、人間であったころの良心が少なからず邪魔をする。
「どうしようか。マベッツ」
「ここで討伐するのは最善手であろうな。少なからず経験値にはなるし、お主の《スキル》にもなるであろう」
「スキル?」
長らく触れてこなかったジャンルの言葉が聞こえてくる。
異世界転生――そのあたりの話は理解していても、触れてくる機会はさほど多くなかった。同年代の友人たちも、地底や海底へのロマンを気にする一方で、エンタメにさほど興味のあった者たちはいない。
宇宙に向かう話は世の中多いが、下に向けて進む話は少ない。
「それは、単なる経験を積んだ技術ってことじゃないよな?」
「むろん。我が死霊魔術、冥闇魔術も、自らに宿ったスキルを鍛え上げて使いこなせるようになったものじゃ。魔術が剣の刃ならば、スキルはそれを振るう技術。世界より、その力を行使することを許された権利と言えよう」
そう言ったマベッツは懐から掌ほどの水晶玉を取り出すと、軽く握る。すると、水晶玉の中から光が溢れ、それは立体映像のように空中に映像を映し出した。
ホログラムっぽく表示されたそれは、マベッツのステータスウィンドウだった。
「特殊な水晶を通すことであらゆる生物のスキルは確認できる。スキルが『神から与えられた権利』と呼ばれるのは、このスキルの保有具合によってその者のできること、できぬことがはっきりと判断できるゆえじゃ」
「……なら、特定のスキルがなければ、つけない職業とかありそうだな」
「大概のスキルは基礎を教えられるでも独学でもよいから学べば済む。手に職を付けようと思う者は、図書館でその類の本を読めばよい」
あまりにもざっくりしている。だが、基礎を身に着けることはできたとしても、それで全てが解決するわけではないはずだ。
「スキルを鍛えるには、そのスキルを必要とする行動を何度も繰り返す必要がある。その回数は千差万別。そこに才覚の違いがみられる」
「へぇ。じゃあマベッツの死霊魔術と冥闇魔術の横に、これは……九十九と書いてあるのか?」
文字が読めた。読めないよりありがたいが、視ていると自動的に翻訳されていく。多分、それはエンシェント・ゴーレムとしてのシステム側が理解しているからだろう。
人間だったころの俺の知識に、地球以外の言語はない。エンシェント・ゴーレムに宿った魂である以上、俺のスキルはこのゴーレム側に依存しているのだろう。
「スキルの熟練度じゃな。それこそが鍛え上げられた証拠。ヒトは戦い、食べ、年月を経ることで得られるスキルや、スキルの限界を引き上げることができる。だが熟練度はスキルを使い続けることでしか鍛えられない」
「ポイント制ってわけじゃないってことか。ここまで鍛えるのにどれだけかかったんだ?」
「さてなぁ。二十年、三十年くらいかの? もう何十年も前に鍛え上げてしまった故、覚えておらぬ」
亡者の王であるリッチ族であってなお、魔術を極めるには時間がいるのだろう。
その事実に、俺は驚嘆するしかなかった。
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