第二十二話「広がる世界」.4
高濃度に圧縮された魔子によって作りだされた次元の障壁は、地下四十キロ地点辺りがピークとなっていた。
つまり、そこからさらに地下へ向かうさい、残りニ十キロほどの地殻を素通りするための、ショートカットになっていたのだ。
「周辺酸素濃度、正常。大気組成、ヒト型生物生存可能領域。重力方向、地上側へ向けて1Gプラスマイナス0.002。地面組成は火成岩を多く含むが、酸性濃度低。周辺にレーダー放出……危険物検知できず。みんな、降りていいぞ」
地面、と言っていいかわからないが、俺たちは大地の上に降り立った。
とりあえず岩盤を通り抜けた先の空間へ飛び出したゴーレムトレインを着地させ、周辺を観測した。大気、温度、湿度、重力、観測したどれもが、ヒト種の生存には問題ない数値を示していた。
マベッツたちが降りたら、俺もゴーレムトレインから離脱。地面をころころ転がっているとニアが俺を持ちあげる。
「ニアと一緒に行こ! テフノ、運んだげる」
「お、そうか。嬉しいな。ありがとう」
ニアは俺を頭の上に乗せて、未知の世界へと駆けだす。
植生は地上に似た部分もあれば、未知の植物も存在し、ここの図鑑を造るだけでも、何百人という研究者が何年も何十年も費やすことになるだろう。
「ねーテフノ、地面が上に向かってるね」
「うん。どうやらここは、ボールの内側みたいだな」
「お空に地面があるって、不思議―」
地球空洞説にも、二つのパターンがある。
一つは地上をそっくりそのまま圧縮したような形状。正しく地下世界というべき構造で、海はなく、広大な大地が延々と続き、地上を支える巨大な柱のように岩盤が聳え立つ。
二つ目はその逆。まるでSFアニメに出てくる、回転する円筒型宇宙コロニーのように、外に向かう遠心力で支えられた大地だ。
今回は、その後者らしい。
「あれって太陽?」
「うーん、どうだろう。もうちょっと近づいてみないとわからないけれど、今は太陽だと思っておけばいいだろう」
マベッツがうっとうしそうにフードを被って太陽を避ける。彼女が先ほど言っていたように、リッチたちは太陽光が苦手なのだ。少なくとも、日光浴する習慣はない。
「文明らしきものは、見当たらないな」
空間の広さは、実に広大だ。地球より巨大だった地上の内側だから、それよりはもちろん小さい。だが、地球より小さいかと言われると、そうでもない。
地球の表面積と同レベルの巨大な空間、あまりにも広すぎるゆえに、この空間が丸いことは認識できても、細かなテクスチャまでは確認できない。
「ここが、魔王の故郷だと言うのなら、どこかに集落や文明のあとがあるはずなんだ。ニア、何か見えたりしないか?」
「うーん、わかんないけど、ここ、なんだか懐かしい気がする」
彼女に混じっているワービーストの帰巣本能か? しかし、この地下空間を故郷としているのは魔王種だけのはず。
そう思って、ふと疑問がわいた。
「マベッツ、レコネ、散々魔王魔王と言ってきたわけだけど、魔王ってどんなやつだったんだ? 長老は悪魔獣って言ってたし、リッチには冥闇魔術を教えているし」
聴いている限り、悪い奴、世界の敵という感じではなさそうだ。
「どんな奴……ですか?」
「性格の話ですか?」
「そう」
首をかしげるルツとハダン。その視線は必然、この場で最年長のマベッツに向く。
「よく知られておらぬ。まして、初代魔王の子孫は絶えたというのが俗説での。今ニンゲンと和平交渉を行い、それを成立させた魔王は、養子の魔王のそのまた養子で、初代との地の繋がりはないからの。初代魔王に関する伝承も、絶えて久しい」
「少なくとも、今の魔王の地位に付く大鬼種女王は、初代魔王の功績や伝承を伝え遺そうという動きは、見せていませんね」
マベッツとレコネの知識に、俺はなるほどと頷く。
ともかく、初代魔王と同じデモンズが、この空間にいるかもしれないわけだ。
遠くに――この太陽と地面の間を空と形容していいのなら――空を飛ぶ巨体が見える。おそらくはドラゴン。あれと同じように地上では普段お目にかかれない種族が、ここには存在するかもしれない。
「様子見がてら、周囲を探索しよう。ゴーレムトレインに乗り込んでくれ!」
探すべきは誰かの住んでいた痕跡。手を取り合える仲間の存在。
きっと何十、何百年ぶりの来訪者のはず。
歓待されることを期待して、俺はゴーレムトレインを発進させる。
「行くぞ!」
未知なる出会いを求めて、俺たちは地下世界を爆走する。
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