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第二十二話「広がる世界」.3


 車内のマベッツは、俺の目に移る光景を見ながら呟く。


「周囲の空間が歪んでおる。これが高濃度魔子のもたらした影響なのか? ヒトの手に余る時空魔術の類じゃな。今居るのは、本当に地下かどうかもわからぬぞ」

「リッチは、かつて地の底に暮らしていた種族だと、母から聞いたことがありますが」

「我もバンシーは湖の近くに住むものと聞いておったがの。あの里には川以外水場なかろう?」

「住めば都です。それで、リッチの地下都市とは、違うのですか?」


 リッチは、樹海の端に里があると言う。それとは別なのだろう。初めて俺とマベッツがあったのは、もしかしたらリッチたちの昔の里なのかもしれない。


「あそこは地下世界というには浅すぎる。リッチは冥闇魔術の特性上、陽光に当たっていると余計な魔力を消耗する故、地下に都市を築いただけのことよ。今では、人化術で生あるころの姿を取り戻し、その心配もなくなったがの」


 リッチは、そもそも種族とするには多少、(いびつ)だ。

 本来は人間と変わらぬ姿を持つ者たちだったのだが、いかなる神の逆鱗に触れたのか。一族全てが呪いを受け、老若男女問わず不死の呪いにかかってしまった。

 不死とは、決して祝福できる者ではない。死なぬことは変わらぬこと。

 それが人化の術で人の姿を取り戻し、そして生まれた次世代こそが、マベッツの代なのだ。


「かつては人間ではなくなった者たちが、人間であることを取り戻した。あそこは。ただ失われ、忘れさられた記憶が残るだけの場所よ」


 その言葉に、寂しさを感じる。感覚的なもので、根拠はない。

 解析をすれば、もっと明確なものが出てくるかもしれないが、今その必要はない。


「……リッチについての話はここまでじゃ! 高濃度魔子空間は、どうなっておる?」


 車内のしんみりした空気とは裏腹に、外部の状況は激しく変化し続けている。

 まずエンチャント物質の装甲はどんどん剥離を始めており、突破までの残り五分を耐えてはくれるだろうけれど、かなりの部分が破損する。

 そして周囲の光景は俺しか見ていないが、より光が強まっている。それに伴い、先ほどから深度の表示がおかしくなっている。地上に残したビーコンとの距離で観測しているはずの距離が、バグり始めてきた。


「マベッツ、君の言う通り、これは単なる地下空間への移動ではないかもしれない」

「時空魔術によって制御された空間。もしくは結界だと言うことか」


 見えない何かによって守られた空間。それが地下に存在した。

 スプリガンの長より伝えられた、地下世界の秘密。


「ここが、魔王の故郷への、入り口なんだ……」


 歪んだ空間の向こう側へ、俺たちは飛び込んだ。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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