第二十一話「魔王の故郷へ」.2
魔王というのは、異名や種族ではなく、樹海の者たちからの敬称だった。
それが千年の時を経て子孫たちにも受け継がれ、樹海の種族を代表する者の称号へと変わった。樹海の総司令官、魔族の全権代理とも呼ばれる者が、魔王となった。
「最初の魔王は、人間のような姿だったと言われる。突然現れた彼は、自らを地の底からの使者と名乗ったと言う」
「地の底からの?」
「かつて住処を別にした同族に、力を貸しに来たと言う話だ」
同族――どう考えても同じ種族に思えない者たちが樹海にはひしめき合っている。だがそれは、進化の過程で形態が変化しただけで、遺伝子上は同じ生物なのかもしれない。
しかし、サイクロプスとスプリガンが同じ種族だとはやはり思えない。
「魔王と名乗った者は、樹海の民を率いて人間と戦った。彼自身は地の底へ帰ることは叶わぬ者であり、地上に骨を埋めるとも言い残しておるらしい」
「文献か何かでも残っているのか?」
「アルヴァスの民のもとに残っておる文献を、若いころに読ませてもらった。そして魔王は、自らの種族を聖天使たちと相対する悪魔獣であると」
デモンズ――その名前を聞いたのは、過去に一度だけ。
エンジェルのミシュ・モーガンと会った時、彼女らエンジェルが攻撃を仕掛けてきたと疑った。だがマベッツは、それはエンジェルにはできない、できるのはデモンズのみと断言した。
「マベッツは、デモンズに付いて知っているのか?」
「リッチにも、初代魔王の伝承は残っておる。地の底より現れた、というのは初耳じゃが、デモンズと名乗ったのは間違いない。魔獣を使役する術を持ち、我らリッチに冥闇魔術を伝えたのは、かの魔王だったと聞いておる」
天使と悪魔、相対する者たちと考えれば、納得も良く。人間に味方している天使と、血の底から現れて樹海の民に力を貸した悪魔。
地球的考えでも、天魔の対立は起こるべくして起こるものだ。
「ということは、地の底にあるのは、デモンズの国っていうことか?」
「いや。それについても記録はある。地の底にあるのは人の立ち入れられぬ楽園であり、魔王は自らを最後のデモンズと名乗ったともいわれておる」
最後のデモンズ。
それが本当なら、今地下世界には誰かいるのだろうか。その魔王とやらも、マベッツのように追放されただけなのはないかと疑ってしまう。
ただ、樹海の人々のために戦ったことは間違いない。
もし望むなら、その骨を地下世界へ持って帰ってやりたいが。
「地上に骨を埋める覚悟をしてきたってことは、地下世界はどうなっているんだろうな」
「それは、行ってみなければわからんだろうの」
魔王の故郷。
いったいどんな場所なんだろうか。
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