第二十話「材料調達完了」.3
それは、出入り口をふさいでいた岩を蹴り飛ばして飛び込んでくる。
灰色の狼――薄暗い坑道の中で見えたそれは、鋭い牙を持ったシルエットだった。
しかし、それがすぐに間違いだと気づく。
「あれは――」
「ニア!」
崩れ落ちる岩石を足場にして飛び回り、腕を大きく振りかぶる。
その爪は、黄金の輝きを放つ。
「マキシム・ルシェットアンガス!」
飛び掛かった小さな影が、グローツヴルムの横っ面を張り倒す。
「なぁ、あれは……」
「ええ。あの子……ニアが来てしまったようですね」
誰ともなく問いかけた俺に応えたんは、彼女の姉のようなレコネだった。
グローツヴルムの強固な装甲のような鱗をもろともせず、彼女の爪はそれを引きはがす。黄金色に染まった光の爪は、まるでレーザーのような印象を見せる。
「レコ姉! みんなも無事?」
「助かったぜニア! けどそいつは倒すとまずいし、これ以上怒らせたくないから、急いでこっちに来てくれ。すぐに坑道から脱出する!」
そもそも、グローツヴルムをニア単独で倒せるとは思えない。これ以上攻撃を繰り返し、文字通り逆鱗に触れるようなことがあれば、奴は住み心地のいいこの坑道から飛び出して、スプリガンの里を攻撃するかもしれない。
せっかくスプリガンたちが築いてきた共栄(一方的な無関心)が崩れてしまう。
「うん! すぐに追いつくから、その時に呼んで!」
グローツヴルムは、その長い尻尾と頭を同時にニアへ向けた。先ほどまで溜め込んでいたブレスの魔子は、殴られた反動で霧散してしまった。再チャージより、直接攻撃を選んだようだ。
「気を付けろ、案外素早いぞ!」
まるで二つの頭で攻撃するような動きで、ニアは反撃の隙を見いだせず回避に専念する。グローツヴルムの傷つけられた鱗は再生したり、剥がれ落ちたりはしていない。だからと言って、その下の皮膚、筋肉に攻撃が通るとは限らない。
突如、グローツヴルムの頭部の周りに、キラキラ光る鬣が出現する。
「まずい。ニア、こっちにこい!」
俺はとっさにニアを呼ぶ。グローツヴルム体内の魔子の昂ぶりを感じ、危険性を認識する。彼女は回避から逃走へ変更。俺の影に潜り込むと物陰から巨大な蛇の様子をうかがう。
直後、鬣のように見えた全ての毛らしきものが、宝石の槍となって降り注いだ。まるでマシンガンのような連続攻撃だが、威力はさほど高くはない。
エンチャント物質を取り込んだ今の俺の装甲なら、十分耐えきれる。だからと言ってブレスに耐えられるかなんてチキンレースするつもりはない。
「よし、乗り込め。このまま攻撃を受けながらでも移動して、脱出する!」
「作戦もへったくれもないのう。アシストはこちらがする。さっさと移動せよ」
「了解!」
マベッツからの協力も取り付けた。周囲には大量の宝石の槍が柱となって邪魔になる。
だったら、突破すればいい。
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