第十九話「坑道突入」.1
空気を切り裂くようにして飛んできたのは、灰色の少女だった。
その勢いのままバンシーのレコネに飛びつくと、彼女に抱き着いた。レコネも慣れたものなのか、体を回転させて勢いを殺すと、そのままどんと少女を地面に下ろした。
「レコ姉! 次洞窟行くときは、うちも一緒だって約束したじゃん!」
「そうでしたね。でもお客様のご案内が先だから、あなたはまた今度ね」
「そっかぁ……」
シュン、とする少女の背後に、それまでブンブン振っていた尻尾がしおれる様子を幻視――というか実際に尻尾がある。
「スプリガン、じゃないな?」
スプリガンっぽくも見えるのだが、同時に彼女には、それ以外の種族かもしれないと思わせる部分がある。
まず背丈、二頭身のスプリガンより大きい、四頭身くらいか。それでもまだ子ども背丈の域を出ない。そして頭部、犬のような耳があり、背中には大きな尻尾がある。獣人かと思ったのだが、その肌付きはスプリガンそのものだ。
「レコネ、その子は?」
「おや、これは失礼しました」
「……わっ、おじいちゃんのお客さんだ」
俺の問いかけに、レコネは少女の背中を押して俺たちのほうに向ける。
「この子は、パトリニア。族長エヴェング様の孫娘であり、スプリガン、コボルト、ゴブリン、そしてワービーストの混血児ですよ」
「どもっ! うちのことはニアって呼んでな!」
強烈な元気の塊のような少女だ。どこか陰鬱としていた空気が消し飛んだ。
豪快な少女は尻尾を左右にブンブン振っており、混血特有の生態を示していた。
「パトリニア……ニアは、エヴェング族長の孫娘なのか。スプリガンというより、ワービーストの徳性が強いようじゃが」
「うちのばっちゃんがゴブリンとコボルトの融和種なの。パパがワービーストだから、この尻尾が自慢なの!」
この種族混在のスプリガンの里で、四種族のクォーターがいる。彼女が口にしたキメラとやらが、そういう意味を持つのだろう。地球だったら、キメラなんて単語はキマイラと混同されがちな言葉だが。
しかし、彼女の存在そのものが、融和、調和、友好の証と言えるだろう。
「レコ姉! お客様のご案内だろ? なおさらうちが一緒のがいいよ!」
「……あなたのことを信頼していないわけではありませんが、これから行くのは普段とは違い、ワイアームの直前です。たとえあなたでも、そのような場所へは」
族長孫娘を連れていくのが憚れる場所に、俺たちは連れていかれるということか。
なかなかにスパルタなことを選択するな、あの族長。
「レコネ、彼女は……その、強いのか?」
「強い――とは、どういう意図の質問でしょうが」
「その子、この洞窟に連れて行っても安全か、ってこと」
みんなの視線が、パトリニア――ニアに向く。
えへへっ、と照れくさそうに笑う彼女は、尻尾を先ほどより大きく振っている。
「いやいや、テフノ、そりゃ無茶なんじゃない? 子どもだよ?」
「そうですよ。背丈なんかボクより小さいんですよ」
「けれど、体内魔子の濃度は、マベッツに匹敵する。レコネの言葉から考えてみても、普段は坑道にも入っていないのは、君のほうじゃないのか?」
レコネが坑道に入るのは、何か特別な時のみ。それも、ニアが心配するような状況の時だ。そしてレコネはそこにニアを突き合せたくない。
彼女が強いことを知っていながら。
「ニアを連れて行きたくないのは、ワイアームを倒してしまうから? それとも彼女でもワイアームに勝てないからか?」
「それは、正解でもあり、不正解でもあります」
持って回ったような言い回しに、俺たちは首を傾げた。
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