第十七話「巌の種族」.4
動かない大岩であるスプリガンの長エヴェングは、リッチの姫君マベッツに向けて、言葉を続ける。
「強化付与物質を手に入れてどうする? いくら樹海の種族を束ねようと、人間だけではなく、多くの種族を取り込んでいる人魔統一国家には勝てなかろう」
「奴らと矛を交えるつもりは、このゴーレムにはない」
「では、なぜ必要なのだ?」
その問いに応えるのは、俺の役目だ。
「この地上は物騒だ。バンシーの見た予言の発端が、地上にいる。ウォヘブ・アオバ、そう名乗った奴が、リスボンとサイクロプスの争いを増長させた。そんな奴らのいる地上は、安寧には程遠いんで地下世界を開拓してそこに住もうかと思う」
「ウォヘブ・アオバ……闇の運び手たちが、再びこの地に現れたのか」
「闇の運び手? 知ってるのか、奴のことを」
「正確なことはわからない。だが、かつてもウォヘブという名前を持つ者たちが、世に混乱と憎悪を運んだ。それは、今より何百年も前の話だがな」
ウォヘブ、聖天使のミシュ・モーガンもまた、その存在を危惧していた。
彼女は明確にウォヘブというものが何なのかを口にすることはなかった。
ただわかるのは、ずっと昔から、奴らは存在したということ。
「伝承でしか聞いたことはない。だがそうではないとなったのなら、対策が必要だろう。我らの所に、エンジェルが来たように、そなたの所にも降り立っただろう」
「ああ。言いたいことだけ言って、帰って行ったけど」
結局彼女は何かを確かめに来たのか。それともほんの気まぐれか。
人魔統一国家の首席顧問というには軽いフットワークで現れたミシュの目的は、ウォヘブの情報を得る為だったのだろうか。それとも、本当に俺たちと友好を結びたいと思っていたのだろうか。
「どちらにしろ、我らは人魔統一国家バージュリタと手を取ることはない」
「そうか」
「だからと言って、エンチャント物質を簡単に渡せるほど、我らも裕福ではないのだ」
わかっていたことだ。
「じゃあ、どうやったら、俺たちに分けられるほどエンチャント物質を確保できる?」
「諦めるつもりがないのなら、レコネ、この者らを頼めるか?」
「はい、エヴェング様、お任せください」
ここに来て、初めてバンシーのレコネが口を開いた。
それまで沈黙を貫き続けてきた者の声に、俺たちの視線が向く。
「エンチャント物質の確保、簡単ではございませんが、よろしいですか?」
「それがないと地下世界探査が始められないんだ。採掘作業くらい、自分たちでやって見せるさ」
「ただの採掘になると、よろしいのですが」
ふふふっ、とバンシーは妖艶な笑みを浮かべる。緑色のケープで体を覆っているが、その下に美女が隠れていることは、音響センサーでわかっている。
それゆえに、非常に恐ろしく思えた。
「なんだか、恐ろし気な雰囲気ですわね」
「テフノ様、本当に、行くんですか?」
「詳細も聞かずに帰ろうなんて言えないからな。さて、バンシー殿、何をすればいい?」
とはいっても、幼少期からRPGゲームを堪能してきた人間ならわかるだろう。
物語の法則、これから起こる試練と死へのいざない。
「簡単な話です。坑道を根城にしている地底竜を、気絶させてきてくださいな。討伐してはなりませんよ、エンチャント物質の生成源まで、倒してはなりませんから」
ホラやっぱり。
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