第十七話「巌の種族」.1
俺たちの入った家の中には、巨大な岩が鎮座していた。
まるでご神体のような存在感を感じるそれには、不思議な幾何学模様こそ描かれている。長とやらはどこだろうと周りを見るが、そこに姿はない。
同時に気づいたのは、幕の外、俺たちに近い側に、緑の衣を身にまとった人物が鎮座している。彼女が、俺たちの存在を伝えたというバンシーなのだろう。
「長、噂の者たちをお連れした」
「ご苦労、ショーエン。そなたらも、粗末だが座るがいい」
聞こえてきたのは、重厚な声だ。だが、姿が見えない。声だけが、部屋の中に響いた。ルツやハダンも困惑しているのだろう。座っていいと言われても、すぐには行動できなかった。
そのまま突っ立っているのは失礼にあたるだろう。そう判断して俺は声をかける。
「お言葉に甘えて、そうさせていただく。みんな」
見えぬ主の言葉に、敬意をもって対応する。床に敷かれた座布団のようなものにルツたちは腰を下ろした。俺は彼女の腕から降り、同じく座布団の上に乗った。
声の出所を探ろうとレーザー波を飛ばすと、その位置がわかった。
「スプリガンの長って、まさか……」
「左様。この岩こそが我らの長、エヴェングである」
スプリガンは、普通の生物とは違う。サイクロプスが単眼でありながらその目の内側に様々な機能を併せ持つように、スプリガンの皮膚にも特殊な力がある。
まず、岩石化。体の性質を変化させ、無機物のように変化することができる。そして巨大化。スプリガンはサイクロプスと同じ、巨人に分類されるという。普段は小さな二頭身だが、いざ戦となればサイクロプスに匹敵する巨体を披露する。
「スプリガンは巨大化するとは聞いていたが、ここまで巨大だとは……」
「お父様より、大きいですわね」
サイクロプスという巨人を最近見続けているせいか、大きさに関する認識がバグっている気はする。それでも、この岩はデカい。
「当代の最も偉大なるスプリガンは自らを大岩にし、同胞を見守る。それが我らである」
しかし、これで注連縄でも撒いていたら、どこかに俺以外の転生者の存在を疑うところだった。だが、今のところそうではないらしい。これが、スプリガンの固有の文化なのだ。
「警戒する必要はない。ただ多少大きいだけの、動くこともままならぬ石ころが、そなたらと話しているだけにすぎぬ」
本人は謙遜でそう言っているのだろうけれど、その声と、内部に溜まっている魔子から、彼がただ者ではないことはひしひしと伝わってくる。
「まず、俺たちから自己紹介をさせてもらう。まず俺は、エンシェント・ゴーレムのコア、テフノ=ルギアだ」
「我は偉大なりしリッチの唯一の反逆者、マベッツである」
「サイクロプスの長の代理として参りました、ルツと申します」
「リスボンの代表として参りました、ハダンです」
今、俺たちの集団を表す単語は存在しない。いずれこの地下研究サークルにも、きちんとした名前が必要になるだろう。
むろんそれは後回しでいい、今は、目の前の相手に意識を注ぐ時だ。
「よくぞ参られた、ヤーム樹海のともがらたちよ。我が名はエヴェング。スプリガンの長を担う者である。そこにおるのは我が友、バンシーのレコネ。何事かあるたびに、スプリガンに助言を齎す、頼もしい預言者だ」
スプリガンの長エヴェングからの紹介に、バンシーは深々と頭を下げる。
彼女が、俺たちを引き合わせたのだ。
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