第十六話「守護者との邂逅」.4
スプリガンの里の周りの森は、あえてそうなるように木々を密集させていた。
その奥にある開けた空間を隠すための配置なのだろう。
再びルツに抱き上げられて運ばれる俺は、木々の壁を抜けた先に(形状固定の)目を丸くした。
「日本家屋に似ている、な……」
社員旅行、というか研究所員旅行で言った白川郷を思い出す。ただ、あそこと違って余り高くない。海外の茅葺き建築のほうが近いかもしれない。それでも、どこか日本の原風景を思い出す。
何とも歪に文化が交じり合ったような感じだが、これがスプリガンたちの文化なのだろう。ショーエンと同じサイズの住民や、リスボンとスプリガンの間くらいの大きさの住民――緑色の肌は、もしかいてゴブリンだろうか?――もいる。
「ショーエン、どうして俺たちが来ることを、予期していたみたいなことを言ったんだ?」
「我らは樹海の守護者。この樹海に住む者たちを守る役目を、古くから仰せつかってきた。その役目に準じ、ともがらを保護してきただけである」
「ともがら……樹海に住む予言の一族が、そういえばおったのぉ。バンシーたちは元気か?」
バンシー、確か、嘆き妖精とかだった。偉い人が亡くなると泣き叫び、死の預言者って解釈があるとかないとか。にわかファンタジー知識では、詳細までは覚えていなかった。
「さすがはリッチ。樹海のことはよく存じておる。彼女らは無事だ。人間どもがバンシーの里に攻め入ろうとしていることを事前に察知できたおかげでな」
「変わらず今も行われておるのか。バンシー狩りは」
「かつて我らが人間狩りをしていたことの裏返しにすぎぬ。止めこそすれ、恨みを口にするのは、互いに筋違いであろう」
一見平和そうに感じる世界情勢だが、火種はいくらでも残っている。守護者たるスプリガンは、その炎から樹海の仲間たちを守るために奮闘しているのだろう。
やっぱり地上はまだまだ物騒らしい。
「長はバンシーよりそなたらの来訪を聞いてから、会いたいと待ち望まれておった」
「俺たちの来訪目的を、もう知っているのか?」
「バンシーもそこまでは予言しておらぬ。ゆえに拳を構えた」
「それでも、通してはくれたんだな」
「この者たちを引き連れる、そなた自身が我が前に立ちはだかった。盾に隠れる臆病者でも、言葉を偽る卑怯者でもないのだと、自ら判断したゆえに」
どこか武人めいた言い回しや、責任感は、日本人として共感できる。武芸なんて一秒もやったことないけど。
「この地を守る者として、警戒を詫びることはできぬ。だがそなたらを客人として歓迎することを、長の名において誓おう」
「ありがとう、ショーエン」
「では、長がお待ちだ」
気づけば、俺たちは立派な家屋の前にいた。スプリガン、ゴブリン、それ以外にも複数の種族の視線を受けながら、その一歩を踏み出す。
樹海の守護者の協力を得るための交渉が、開始される。
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