第十三話「地下世界へ向けて」.3
ヤーム樹海は、日本の、富士の樹海と似ている。
おそらくはポリュペウス山脈のハルガッシュ火山から流れ出た溶岩や火山灰が堆積してできた土地だ。地下に大きな風穴があり、コケとシダ植物が広がっている。
リスボンたちの農地は樹海の中の空き地にある。土地改良が施されているのか、本来なら適していない植物でもよく育っている。
「確か、クルラホンたちから貰った酒は、果実酒だったな?」
「はい。ボクたちが育てたブドウを、彼らは毎年おいしいお酒に変えてくれます」
「この体になってから、飲み食いも何もできなくなったからなぁ……」
少なくとも、この生産力を損なわない場所が必要だ。
専門ではないから詳しくは知らないが、富士の樹海は水捌けがよすぎるため、コケがなければ木々が育たないらしい。一方で、この樹海には一本だけ川がある。ポリュペウス山脈から流れてくるもので、細いがリスボンの土地のすぐ近くを流れている。
植生は日本に似ているが、全てが同じというわけではない。
「この樹海は、北のほうにも広がっているんだよな」
「ボクが父から聞いた話では、途中にある別の川までは樹海が続いているそうです。そこから先は、比較的平地が広がっているとか」
「その先が、本来のネメアの生息域だった場所か」
通常なら、ネメアはその川を超えてこの樹海に入ることはなかった。まず、この細い木々が乱立した樹海は、ネメアの――刃王獅子の巨体には狭すぎる。
鎚君主鰐も、ここに到達するまでに大量の木々をなぎ倒してきた。おそらく移動経路を探ろうと思えば簡単なはずだ。
この二体が遭遇し、一方が住処を追われた結果、ネメアはここにいる。
「もうこれ以上ヴォロードガヴィルみたいな怪物が来なければいいんだけどな」
「調査してみますか? このヤーム樹海は、住んでいるボクらでも知らない個体が住み着いていることはよくあるので」
「頼めるか? 危険そうなら近づかず逃げていいし、もしもの時は俺が戦うから」
「お任せください! テフノ様の手は煩わせませんから」
意気揚々としたハダンに、俺は頷く。
「で、実際に地下世界を開拓したり住んだりするとなると、いろんな道具が必要になるかもしれない。特に土を掘るための道具は必要になるかもな」
次に話を振ったのはルツだ。彼女は少し目を細め、口元に手を置く。
「テフノ様のお話を聞く限りですと、地下には掘削の必要もないくらい大きな空間があるようですが、それでも道具は必要ですか?」
「ああ。多分」
少し歯切れは悪いが、確定しているような物言いに、ルツはわかりましたと頷いた。
「道具の手配は、父とともに始めさせていただきます。しかし、何か確証をお持ちなのですか? これから掘削道具が必要になると」
「確証というか、ただの経験則みたいなものなんだけどね。掘削道具だけじゃなく、いくらかの武器も必要になるだろうさ」
地底人と地底生物。
日本と世界のSFで、何重年と扱われてきた内容だ。広大な地底空間には、多種多様な生物がつきものだ。彼らからまず身を隠すか、身を守る術が必要だ。
一番ありがたいのは、ある程度の開拓がなされた土地であること。特に強固な社会体制が築かれていない文明レベルで、よそ者がやってきても受け入れられる度量があること。
「そう、うまくはいかないだろうけどな」
でなければ、地底世界はエンターテイメントになりはしなかった。
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