第十二話「天の啓示」.4
ルツからの問いかけに、ミシュは細めた目を再び開けて、視線を剃らず答えた。
「――それは、『ウォヘブ』の名を持つ奴のことを言っているのかな」
「ご存じなのですね、その、ウォヘブを名乗った者のことを」
「ざっくりと。世界中で散発する反乱、暴動、紛争、その裏にウォヘブと名乗ったものがいるのはボクらも聞かされているよ」
リスボンとサイクロプスの対立。小人と巨人、対立すれば片方が殲滅されかねない紛争を、奴らはナイフ一本で引き起こした。
素朴で純粋な、普段は争いや諍いを起こしてこなかった者たちを、暗黒の領域へ引きずり込む。許される道理など、欠片もない。
「君たちの所に来たウォヘブは、何て奴だった?」
「赤い髪の、アオバと名乗っていた」
「そうか。ウォヘブ・アオバ……ありがとう。テフノくん、それとルツさん、だったね」
ミシュは背中にぐっと力を籠め始めると、両手を広げた。同時にその背中に純白の翼が広がった。頭部には天使の輪が出現し、神秘的な光に彼女は照らされていた。
「信頼の証として、これを見せるよ。ボクたちエンジェルの、翼と光を」
「なるほど、それが背後の質量の正体だったわけだ」
先ほどまで地面に付いていたミシュの足は、わずかに浮遊していた。天使であるからか、その翼は特に羽ばたいているわけではないのに、彼女の体を地面から離す。
この神秘性が、彼女らが聖天使と呼ばれる所以なのだ。
「ボクは君と戦いたくはないからさ。これからも人魔統一国家をよろしくね」
にこやかな、それこそ世の男女を虜にしそうな美女は、翼を大きく羽ばたかせて舞い上がる。戦闘機もかくやという速度で直角に曲がったかと思うと、そのまま離脱する。
あの速度ゆえに、突如現れることができたのだろう。
「マベッツ。どう思う?」
「聖天使はあらゆる種族に対して公平だ。自分たちより下等という点で」
「傲慢そうには見えなかったけど」
「おぬしは小さい子どもが背伸びして棚の上の物を取ろうとしているのを見て、チビだと馬鹿にはせんじゃろ?」
なるほどと、俺は体全体で頷く。ならば彼女らのそれは傲慢ではなく、慈愛なのだろう。同時に一方的で、理解されがたいところもあるだろう。
「なら、一応信用していいんだな?」
「本心で物事を語るという点では、な。人魔統一国家の首席顧問ということじゃから、ま、我とは相容れぬであろう」
「そうか。それがわかったのなら、大丈夫だ」
彼女とは、協力することはあったとしても、相容れることはないだろう。
マベッツに暮らしよい場所を提供してやると約束した以上、人魔統一国家の空気は合わない。まして、タイミングが良すぎる登場に、警戒せざるを得ない。
「結局、ヴォロードガヴィルをネメアの住処に突っ込ませた奴は、あいつじゃないんだよな」
「ありえぬ。上位大魔獣を操ることは、聖天使にはできぬ。できるとしたら、それは悪魔獣のみじゃ」
この世界を取り巻く多種多様な種族。その全てが自由と平和を望んでいるわけではない。
人魔統一国家もまたしかり。マベッツのように追放されたものがいる以上、相容れない思想は存在する。だからこそ――。
「まずは村の柵を作り直そう。それが終わったら、サイクロプスの歓迎会だ」
まずは、仲間たちの親睦を深めよう。
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