第十話「守る力」.3
俺とネメアは、特に何か契約を結んでいるわけではない。召喚獣や召喚悪魔のような契約を前提とした関係ではない。隷属契約、眷属契約を交わしていない以上、いつだって逃げ出すことは可能だ。
ネメアが俺に従っているのは、あくまで本能的に従っているだけに過ぎない。
だから、自分に危機が迫れば、逃げ出したっておかしくない。
「ネメア!」
そんな巨大ライオンの傷ついた体が、地面に横たわっていた。
リスボンたちを守ろうと必死に戦った結果だろう。立派な鬣は傷つき削れ、刃の如く伸びていた牙は片方が欠けている。
この負傷をもたらした者の姿は、リスボンの村へ迫りつつある。
「あれが、ネメアを北から追い出した元凶か……。ハダン、ネメアを頼む! トバル、力を貸してくれ!」
「御意!」
「お任せを!」
リスボンの村の前に緊急停止させたゴーレムトレインから、先頭車両にいた俺たちは飛び出した。後部車両に残っていたマベッツたちに声をかける暇はない。
あとからハダンが説明してくれるだろう。
車両から転がり出した俺をトバルは摘まみ上げ、その大股で大地を蹴って進んでいく。
巨体がゆっくり動いているように見えるというのは、大概目の錯覚だ。足が長ければ長いほど一歩は大きく、移動は早い。トバルは村を囲む柵に突撃する影に向けて、この場の誰よりも素早く接近した。
「リスボンの村に、手を出すな!」
村に設置された木柵に突撃していた巨体を、トバルは掴んで後方へ投げ飛ばした。太い尻尾、巨大な手足、恐竜と見まごうその巨体は、ネメアを超える怪獣。
「鎚君主鰐、山向こうに生息していると聞いたことがあるが、まさか山のこちら側で目にする機会があろうとは……」
「知っている個体か?」
「ヴォロードガヴィルという、尻尾の先端に骨塊を有する巨大なワニだ。クルツアスランを超える巨体を持つ、ポリュペウス山脈西側の、頂点捕食者と言われている」
巨大なワニ――なるほどクルツアスランという巨大なライオンを住処から追っ払うには、相応の個体が必要だ。そして、ライオンに対してワニというのは、地球でも知られた関係性だ。
ヌーやシマウマを捕食するクロコダイルは、時にライオンさえも捕食する。
むろん、水辺以外ではライオンに逆に捕食されることもあるが、頂点捕食者の一体であることに変わりはない。
「それがどうして、アンキロサウルスみたいな装甲とハンマーを持っているんだよ!」
「おそらくネメアがやられたのは、このハンマーによる一撃です。ヴォロードガヴィルはクルツアスランを超える上位大魔獣、油断めされるな!」
トバルからの忠告を受けた俺は、彼の角に掴まりながら各種センサーを起動させた。
そこから得られた情報に、トバルの言葉をより深く理解した。
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