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第十話「守る力」.2


 酒造のクルラホン、服飾のレプラコン――このポリュペウス山脈東側に広がるヤーム樹海は、旧魔王領と呼ばれる地域の一角だ。

 戦争中はリッチの里を防波堤とした地域で、その広大な樹海と聳え立つ山脈が天然の要塞となり、人魔統一国家は入り口に当たるリッチの里以外の統一を断念したのだ。


「統一国家とやらも、全部うまくいっているわけじゃないみたいだな」

「この森はまともな道らしい道もないので、外から入ってくるのは難しいでしょう。北側にはテフノ様のネメアのような、大型の怪獣たちの生息地もあります。いくらリッチ殿たちが統一国家側に与していたとしても、樹海征服は難しいでしょう」


 北――その方角にふと思うことがある。

 ネメア、つまり刃王獅子(クルツアスラン)の成体を生息域から逃げ出させる何かがいた。マベッツが言うには、ドラゴンやペガサスと言った、地球人もよく知る幻獣がこの世界にはいるらしい。

 クルツアスランという巨大ライオンを住処から追い出すほどとなると、そう言った上位神聖獣(ハイクラスビースト)の存在を疑うことになる。


「でも、マベッツ曰く、ハイクラスビーストは他の魔獣の生息域を侵略するようなことはしないらしいけど」

「この二百年、私が生きている間では聞いたことありませぬな」


 トバルの言葉に、やはりと俺は十四面体の体全部を使って頷く。何かが北に侵入したことで、この地域のパワーバランスが崩れている。

 ウォヘブ・アオバが二つの種族の対立を煽ったように、誰かがこの地域の生態系を崩そうとしているのかもしれない。


「それが、首謀者にとってどんな利益をもたらすのかはわからないけれど、放っておいていい話じゃないだろうな」

「しかし、クルツアスランを追い立てるとなると、相当強力な怪獣でしょう」

「ネメアのこと視ているとそんな気がしないんだけど、やっぱり相当強いのか?」


 刃王獅子(クルツアスラン)で唯一見たことのある個体がネメアだ。しかし、今じゃ従順な猫のような性格になってしまった。あれがこの樹海で一、二を争う狂暴生物だとは、誰も思わないだろう。

 少なくともあの巨体なら地上生物で叶いそうな動物は、サイクルプスのような巨人種以外いないだろうけれど。


「強力な怪獣がいるかもしれません。もし調査に出るのなら、警戒されたほうがよろしいでしょう。我々も強力いたします」

「ああ。頼むよ。ネメア一匹だけでの偵察じゃあ、危険かもしれないからな」


 リスボンの里の東側にあるサイクロプスとの問題は解決できた。あとは北に位置する怪獣の対策だ

 それがこの時は、まだ先の話だろうと思っていた。

 けど、脅威や危険というのは、立て続けに起こるものなのだとこの時実感した。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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