第九話「新たな始まりへ」.3
額の傷が消えたルツの様子を見るトバルは、ようやく肩の力を抜けていた。
本当の意味で、彼はようやく安心できたのだ。
「傷は、何ともなさそうだな」
「はい。まさか、こんなにきれいに治していただけるとは」
そう言ってルツは額を抑える。しかし、その額の第三の目が開かれることはない。
「トバル、彼女は覚醒眼という特性を持っているんだったな」
「テフノ殿。ええ、見ての通り、この子は目が三つあります」
サイクロプスは基本単眼だ。目の内部の構造が人間とは違うから、単眼でも問題なく距離感を測り、熱に関してはサーモグラフィー並みに細かく感知できる。
そんな中に生まれた三つ目の覚醒眼は、特殊な瞳力を持ち合わせているという。
「覚醒眼の力は、各時代によってさまざまで、神を滅ぼす力を放ったとされるときもあれば、一夜で平原を覆い尽くす大要塞を築き上げたともいわれております」
「魔眼の力は一つじゃないってことか。彼女の目はまだ開いていないようだけど」
「すいません。私の目は、まだ……」
何かしら、条件が必要らしい。その名前から考えても、彼女の能力が覚醒するきっかけがあるのだろう。
「トバル、棟梁なんだし、彼女のこともある。リスボンには俺から話すから、あんたはここに残っていいんだぞ?」
「それは……なりませぬ。我が失態は我が責務にて。たとえいかなる理由があろうと、リスボンたちへの贖罪は、果たさねばなりませぬ」
譲る気はないらしい。立派なのだが頭が固いと言うか頑固と言うか。
「だけどいいのか。ルツをこの村に置いて、リスボンの集落に来ちゃって」
俺はあそこを拠点にしてこれから生活を続けていくつもりだったのだが、トバルのことを考慮するのなら、考え成したほうがいいかもしれない。おせっかいだとしても、彼らのことに干渉した以上、俺の責任を取らないと。
リスボンとウォヘブ・アオバのことについて、ルツにも説明した。問題はこれから、多くの種族へ広がっていくかもしれない。サイクロプスとリスボンたちの間だけじゃない。
より多くの、この山と、眼下の森全体にまで。
「なら、私も父とともに、森へ行ってもよろしいでしょうか?」
「ルツも、森へ?」
「はい。そのアオバとやらが私を狙ったのは、偶然その場に居合わせたから、ではないと思います」
もしもある集団を諍いの場に連れてこようと思ったら、誰を狙えばいいか。周囲に影響を与える立場にある者を狙えばいい。サイクロプスで言えば、トバルだ。そして彼自身よりも、その家族に危害を加えたほうが、トバルみたいな人物は動かしやすい。
「なら、私が父と一緒に居たほうが、マベッツ様やテフノ様と一緒に居たほうが安全ではありませんか」
「わかった。伴に行こう、ルツ」
そうして、話はまとまった。リスボンの村への帰還は、もうすぐだ。
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