第一話「夢破れて」.3
呆けた顔をする豪華なミイラに対し、俺はいくつか質問を投げかけてみた。
「……エンシェント・ゴーレムって俺のことでいい?」
「う、うむ。そなたを我がここで見つけて、他の眷属たちを造る間に、起動できたらいいなって……。で、つい先日お主の魔力が活性化したから、ここが攻め時だろうと思って」
「それで演説してたわけか。声も出せないゾンビとミイラに向かって」
「やめい! まるで我が友達のいない奴みたいではないか!」
「実際いないんだろ。この状況。故郷を奪われたとか言ってるけど、実際は追放されたんじゃないのか」
「グハァッ!!」
事実だったらしい。この豪華なミイラ、正確にはリッチ。アンデット――つまり不死の種族の一種で、死霊魔術に長けているのだと。
そして、アンデットといえども種族の一つとしては認められている。人間たちとは平和協定を結び、安穏の日々を過ごしていた。
「それ、あんたが人間嫌いだった結果、追放されただけじゃない?」
「それまで何百年に渡る戦乱を経験してきたのだ! それが急に平和協定だ? 貿易交渉だ? ダンジョンの共同探索だなんだと言われてみろ。そうもなるわ!」
「だけど、新しい時代には新しい時代のやり方ってものがあるだろう? 勇者と魔王がしのぎを削るような時代背景でもないだろうに」
「その勇者と魔王が手を取り合って、結婚して、人間に王侯貴族、魔族の全種族をまとめた大帝国を築いたのが、今より半世紀前。まぁ我は時代遅れだが」
「周回遅れどころか足切りだな」
どうやら、この世界はずいぶんと平和らしい。
異世界転生してゴーレムになったようだが、一体何のためにこんな場所で? とは思う。
人間の味方をしたいだの、魔族の味方をしたいだのと言った感情は、今のところない。ただ疑問だ。争いの絶えない世界ならばまだしも、争いが終わった後の世界に転生した意味があるのだろうか。
「一人でワーワー騒いで、結局何がしたいんだよ」
「復権である! アンデットは安価な労働力として人間たちに雇われ、誇りある死霊術の多くは禁術に指定されてまともな研鑽も許されない。人間たちには使えない、使えても精度の低い魔法を、奴らは自らの自尊心のため、使用に制限をかけたのじゃ!」
彼にもいろいろ言い分はあるらしい。
人間よりはるかに長い年月を生きてきた。その分のプライドや習慣、しがらみがあるのだろう。特に、人間たちと対立してきた以上、その手を取るのは難しい。
「それでも、わざわざ平和の時代に石を投じることはないだろう」
「そうしなければ我が誇りはこの先も穢されたままなのだ! ならばせめて、戦って散りたく思う!」
五十年前なら、それでよかったのだろう。しかし、時代は変わったのだ。
「今目覚めた俺が言うのもなんだが、受け入れたらどうだ? あんただって、五十年間戦い続けてきたわけじゃないだろう?」
「……忘れ去られ、見捨てられた気持ちは、お主にはわからぬか?」
その言葉に、俺はモニターみたいなのに映った目を細めた。
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