第六話「王の力」.4
イグニス・フールジェント――マベッツの放ったパルスレーザーは、赤髪の巨漢を足元から焼き尽くす。だが、同時に彼が放った風の刃は左右からマベッツに迫っていた。
「ぬぅっ!」
骨のペガサスから飛び上がったマベッツ。騎乗していたアンデットビーストは両断され、時間差でもう一つの刃が迫る。微細なコントロール、先ほどの爆発に巻き込まれても、敵は倒れてもいなければ大きなダメージを追っているわけでもなさそうだ。
「俺を前に!」
「頼むぞ!」
マベッツに付きだされた俺は全身から魔子を放出。それを空中で固定し、位相をそろえ、粒子を単一結晶状に形成。
「金剛界曼陀羅!」
半透明の光の盾は、敵の刃を受け止めた。盾に含まれる魔子と、風に含まれる魔子。二つの微粒子がぶつかりあうことでどういうわけか甲高い音が響く。魔子の特性なのか、それとも別の要因なのか。研究者として解明した欲求が溢れてくるが、今はそれどころじゃない。
「マベッツ! あいつは間違いなく生きてる!」
「ああ。下半身は焼いたはず。天からの槍を撃ち込みまくって、仕留めてくれようか」
それで倒せるのか? その疑問は、おそらくマベッツも感じているはず。周囲に闇の槍を複数出現させると、その一本の上に乗って空中で待機。射出タイミングを計る。
だが、それより早く、地面から飛んできた姿に、警戒しつつ攻撃を止めた。
「やってくれ――ごほっ! くれるよね。下半身、丸焦げにしてくれやがって……」
飛び上がってきた赤髪の巨漢は、黒焦げの足をぶら下げながら、その髪色に似た赤い馬に乗っていた。馬のほうも生物ではないようで、揺らめく炎のようなもので構成されている。
「たっく、死なないわけじゃねーんだぞ、こっちも」
「下半身黒焦げで済んだだけマシと思え。トバル……あのサイクロプスからしたら上半身殴り潰しても飽き足らないんだからな」
「へっ、こちとらそれが仕事なもんで。あんたたち、名は? うちに雇われないか?」
下半身黒焦げだというのに、ずいぶんと余裕のある状態だ。それだけの生命力があるのか。それとも再生能力か何かがあるのか。
「いやじゃ。我は我の目的がある」
「おや、残念。そっちは?」
「信じるに値する情報がない」
「手厳しい。じゃあ名前だけ覚えておいてくれ。ウォヘブ・アオバ。またどこかで会おう」
逃がすつもりはない。マベッツは先ほどは上空から落とした《マルム・サンクティオネス》を放つ。だが、それ以上に奴の――アオバの乗る馬は早かった。着弾による爆発もない空中では、闇色の槍は当たらない。
「じゃあな。イレギュラー」
ウィンクしながら指を鳴らし、空の彼方へ消えていく。赤い馬の脚力にこちらは追いつけそうにもなかった。
「……あいつのことは、ひとまず後回しだ」
俺の言葉に頷いたマベッツは、自分の操る闇色の槍をゆっくり地面に下ろした。
そこにネメアが戻ってきて、移動していたサイクロプスたちも肩を貸し合いながら戻ってきた。
「リスボンとサイクロプス、それぞれの集落に付いて」
「ああ。話し、合わねば……」
突然、マベッツの言葉が途切れ、俺を抱えていた腕の力が緩む。ベチャ、と緩んでいた地面に落とされた俺は、何事かと上を向く。すると、腹部に小さな穴をあけたマベッツが膝を付いているのが見えた。
「お、おい、まさかさっきの指パッチンは!」
「……く、最期に、してやられたのじゃ。アンデットの王として、油断したかの?」
「マベッツ!」
倒れようとするマベッツを、俺はとっさに腕で受け止める。
仲間を集め、集落を造り、したいことをする。
思ったより大変な異世界生活は、まだ基盤さえ築けていなかった。
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