第六話「王の力」.3
マベッツの眼下には、立ち込める土煙が見える。それが吹き飛ばされたとき、マントが消し飛んだ巨漢がいた。半裸の巨漢は、鋭い目つきで見上げていた。その赤い髪をかき上げ、不満そうな顔をしている。
「さすがに痛かったぞ? 質量で叩きつけるなんて、ずいぶん野蛮じゃないか?」
「ふっ、野蛮というのは、そちのような悪辣な企みを企てるものにこそふさわしい言葉であるぞ?」
赤髪の巨漢はマベッツの言葉に肩をすくめながら掌に風を集める。鋭い回転刃のようになる。先ほどまでの不可視の風の塊ではなく、殺傷能力の高い斬撃能力だ。
「切り刻むところ少なそうだが、不要な部分を削って素晴らしい骨格標本にして、装飾品ごと博物館に売ってやるよ」
「このボンッキュッボンッの我に削るところなどありはせん! 世界一の彫刻家にも作れぬ美の黄金律を目に刻むがいい!」
数十メートル離れて舌戦が繰り広げられる。魔子の乗った声はよく響くようで、これが世界に影響を与える力の一端なのだろう。
「ん? ちょっと待って、マベッツ。君、女なのか?」
その疑問を口にしたとき、赤髪の巨漢までもが、動きを止めた。
「我を見てわからんのか? このナイスバディを」
「いやボンッキュッの部分ほぼ骨だからな。最後のボンについては、肉ないからな」
こうして掴まれている現在も彼女の肌に肉感は一切ない。むしろこの状態でどうやって動いているのか、どうやって喋っているのか。なのに腐臭や死臭はしない。異世界という不思議を視覚嗅覚感覚で体験していた。
「ほう、つまり今の我に魅力がないとでも申すか?」
「死体愛好家ではない以上、外見的な魅力は残念ながら感じないよ」
「では力と肉体を取り戻したパーフェクトなリッチになった時はその光り輝く眼でとくと拝むがいい!」
美貌自慢を口にしたマベッツは、調子が乗ってきたのか頭上に腕を掲げる。
マベッツの――彼女の得意とするのは死霊魔術と冥闇魔術。だが、それ以外が使えないというわけではない。
大気中の魔子に干渉、吸収、再放出を行うことで、その手にプラズマの塊を創り出した。
人間の掌の中に、小さな太陽が出来上がっていた。
「嘘だろ……」
「ちょっとそいつはさすがにやばいかなぁ!」
「爆ぜ砕け! イグニス・フールジェント!」
プラズマを収束、さらに細い糸のようにして放出したそれを、赤髪の巨漢はギリギリで避けた。地面に命中すれば何も起こらない――わけもなく、一瞬で地面がはじけ飛ぶ。
はじけ飛んだ土の断片が弾丸のような勢いで飛び、さらに発生した熱が足元から焼いていく。その現象の内容を、俺のセンサーは捉えていた。
「クーロン爆発……? 分子構造を破壊した……?」
とんでもない火力、森全体に燃え移らないかと心配したが、爆発自体は思ったより小規模の範囲に止められており、彼女によって完璧にコントロールされているように見えた。
これが、アンデットの王、マベッツの実力なのだ。
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