第五話「和解へ向けて」.4
「ハダン、手を」
「は、はい」
俺が伸ばした手を、ハダンが掴む。地球の人間がそうだったように、この世界のヒト型生物にも、指紋は存在した。トバルの娘を襲ったと言うナイフ。各種センサーで解析した視たところ、間違いなくトバルの血も、トバルと血縁関係にある誰かの血も付着していた。
そして、その柄には指紋が複数。
一つは今検査した結果、ハダンのものと一致した。
「確かに、間違いなくハダンはこのナイフに触れているようだ。拾い上げた時に、その証拠が柄に付いている」
指紋、という概念のない彼らに対し、細かい説明は解いていく。一から十まで理解してもらう必要はないがその証拠があると言うことだけ納得してもらえればそれでいい。
同時に――。
「ハダン、他にナイフを触ったかもしれない者たちは他に?」
その全員を検査し、一致しない指紋があったことも、告げてやる。
「では、この村の者以外のリスボン……またはそれを騙る何者かの仕業だと、そなたは言うのか!」
「ああ。可能性の提示でしかないけれど、君たちが争う理由は、ないと思う」
なら、彼らの怒りをどこへ向ければいいのか。
「君たちの里を襲った誰かが何者かはわからないけれど、他にもリスボンじゃない可能性はあるんだ」
「他にも?」
「靴音が聞こえたって言ってなかったか?」
その言葉に、リスボンたちも、サイクロプスたちも、驚きの色を示した。
同時に、トバルは自分を叱責するように、眼を手で覆った。
「リスボンたちの足の裏は、厚い脂肪と皮膚を持ち、足音を持たない。俊足と静穏を持って、魔王の懐刀の異名を持つのだろう?」
「私は……怒りで目を曇らせていたのか」
娘を傷つけられて冷静になれというのが難しい話だ。地面に叩きつけて強制的に深呼吸させたから、今こうして話ができている。
幸い、リスボンたちに負傷者は多数あれど、死者はいなかった。まだ戻れる。まだやり直せる。
「じゃあテフノ殿、やはり誰かが我らリスボンに罪を擦り付け、サイクロプスと殺し合わせようとしたと?」
「間違いなくそうだろう。どちらにも利益のない争いが起きる理由は二つ。何かしらの勘違いか、誰かの陰謀か」
今回は、その後者だった。
地底探査車の開発データの流出騒ぎが起きた時、あわやプロジェクトが空中分解するかと思われたことがあった。その時は国外の産業スパイの仕業だとわかり、警察の協力もあって何とかプロジェクトは再出発できた。
あの時のぎすぎす感は、二度と思い出したくもない。
「詳しい調査はまた後日行う。より調査が進めば、トバルたちを襲った犯人を特定できるかもしれない。だからそれまで、怒りの矛は納めて欲しい」
「それはならぬ!」
なんで!?
今いい感じに納得してくれようとしたよね!?
「この二人はともかく、私は怒りのままに拳を振るい、先祖の友を傷つけた。その罪を贖えなければ、我が拳が傷つけた者たちは、納得いたしませぬ」
「トバル……」
武人染みた物言いの巨人は、その巨体を地に付せ、リスボンたちへ頭を垂れる。鍛治棟梁というくらいだから、一番偉いはずの巨人が、贖罪を求めていた。
「この身、いかようにしてもかまいませぬ。どうか、此度の諍いは我が首を持って手打ちとしていただきたい」
「いやいや、トバルくん? そう言ったもの含めてね、俺の調査待ちってことで――」
堅物だけど義理堅い。昔気質な雰囲気を感じさせるトバルをリスボンたちと一緒になだめようとしていた時だ。
「おいおい、誰だそのちっこいの。何いい感じに解決してくれたんだよ」
低い、男の声に全員が振り返る。靴音を鳴らし近づくその姿に、顔を伏せていたトバルの額に青筋が浮かぶのがわかった。
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