第一話「夢破れて」.2
そこは、どこか小さな、薄暗い空間だった。
手足の感覚はない中で、周りの音が聞こえる。土の中を流れる水の音。小さな生物たちの掘り進む音が、妙にはっきりと聞こえていた。
「目覚めるのじゃ。我が眷属たち」
ふいに聞こえた声に、俺は目を開けた。ぼやけているため、周りが輪郭でしかわからない。
「誰だ?」
「よいか。今この偽りの平和の中で、多くの者たちが牙を抜かれ、爪を失った。だが我は屈してなどいない。ニンゲンどもを排除し、我が帝国を再建するのじゃ!」
全身に包帯を巻かれた、ミイラみたいなやつが叫んでいる。黄金っぽい、くすんだ飾りに身を包んだそいつの言葉に、誰も反応しない。
違う、反応できないんだ。視線を動かした時、そこにいたのは腐りかけのゾンビ、全身包帯の塊のミイラ、おおよそ意志らしいものを持っているようには見えない。
「怪物軍団? まさか、これを率いて侵略でもするつもりなのか?」
「ニンゲンどもに我が故郷を追われて五十年。この狭く小さな牢獄のような場所へ逃げ込み、再起の時を待った。ついに、その時が来たのじゃ!」
「……こいつ、苦労してたんだな」
侵略ではなく、奪還。目の前の相手は、人間たちと敵対し、敗北し、そして故郷を奪われたのだろう。
目の前のこの光景で理解した。
「あー、ここ異世界だわ」
把握してしまった。納得してしまった。
最後の記憶は、地底探査車ツチノコを操縦士、地下一万メートルまで進んだ時だ。海洋地殻ではなく地上地殻であるため、実に三十キロメートル以上の厚さを持つ。その半ばまで進んだ時、機体トラブルで身動きが取れなくなり、圧壊した。
「死んだ……ことを覚えているってのは嫌な気分だけど。ということは今、俺は魂だけなのか?」
こんな地下墳墓か何かみたいな場所にあるから、周りはゾンビとミイラだらけ。
俺だけ肉体はないのだろうかと思って手足を動かそうとするが、やはり体が動く気配がない。ただ眼前の豪華なミイラの声はしっかり聞こえるから、聴覚は機能しているらしい。
魂じゃないのか?
「敵の防御は堅牢である。だが、我が切り札はその壁を打ち砕き、騎馬を屠るじゃろう! この地下墳墓より目覚めし、エンシェント・ゴーレム!」
「ん? 俺?」
豪華なミイラは俺を指差してきた。
「そうだお主じゃ……ん、返事をしたのか?」
「ああ。したんだけど、俺どうやって喋ってる? 口ある?」
「いや、ないが?」
何とも、呆けた会話だ。
まさか、これが異世界のファーストコンタクトになるとは。しかも、相手はミイラだ。
奇妙な出会いから、俺の異世界での物語は始まった。
「よりにもよってゴーレムかぁ……」
さて、何ができるのだろうか。
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