表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/93

第一話「夢破れて」.2


 そこは、どこか小さな、薄暗い空間だった。

 手足の感覚はない中で、周りの音が聞こえる。土の中を流れる水の音。小さな生物たちの掘り進む音が、妙にはっきりと聞こえていた。


「目覚めるのじゃ。我が眷属たち」


 ふいに聞こえた声に、俺は目を開けた。ぼやけているため、周りが輪郭でしかわからない。


「誰だ?」

「よいか。今この偽りの平和の中で、多くの者たちが牙を抜かれ、爪を失った。だが我は屈してなどいない。ニンゲンどもを排除し、我が帝国を再建するのじゃ!」


 全身に包帯を巻かれた、ミイラみたいなやつが叫んでいる。黄金っぽい、くすんだ飾りに身を包んだそいつの言葉に、誰も反応しない。

 違う、反応できないんだ。視線を動かした時、そこにいたのは腐りかけのゾンビ、全身包帯の塊のミイラ、おおよそ意志らしいものを持っているようには見えない。


「怪物軍団? まさか、これを率いて侵略でもするつもりなのか?」

「ニンゲンどもに我が故郷を追われて五十年。この狭く小さな牢獄のような場所へ逃げ込み、再起の時を待った。ついに、その時が来たのじゃ!」

「……こいつ、苦労してたんだな」


 侵略ではなく、奪還。目の前の相手は、人間たちと敵対し、敗北し、そして故郷を奪われたのだろう。

 目の前のこの光景で理解した。


「あー、ここ異世界だわ」


 把握してしまった。納得してしまった。

 最後の記憶は、地底探査車ツチノコを操縦士、地下一万メートルまで進んだ時だ。海洋地殻ではなく地上地殻であるため、実に三十キロメートル以上の厚さを持つ。その半ばまで進んだ時、機体トラブルで身動きが取れなくなり、圧壊した。


「死んだ……ことを覚えているってのは嫌な気分だけど。ということは今、俺は魂だけなのか?」


 こんな地下墳墓か何かみたいな場所にあるから、周りはゾンビとミイラだらけ。

 俺だけ肉体はないのだろうかと思って手足を動かそうとするが、やはり体が動く気配がない。ただ眼前の豪華なミイラの声はしっかり聞こえるから、聴覚は機能しているらしい。

 魂じゃないのか?


「敵の防御は堅牢である。だが、我が切り札はその壁を打ち砕き、騎馬を屠るじゃろう! この地下墳墓より目覚めし、エンシェント・ゴーレム!」

「ん? 俺?」


 豪華なミイラは俺を指差してきた。


「そうだお主じゃ……ん、返事をしたのか?」

「ああ。したんだけど、俺どうやって喋ってる? 口ある?」

「いや、ないが?」


 何とも、呆けた会話だ。

 まさか、これが異世界のファーストコンタクトになるとは。しかも、相手はミイラだ。

 奇妙な出会いから、俺の異世界での物語は始まった。


「よりにもよってゴーレムかぁ……」


 さて、何ができるのだろうか。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




評価、感想、ブックマーク、どんなものでも大歓迎ですので、お気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ