第四話「二つの種族」.1
クルツアスランの上に乗った俺とマベッツは、一緒に森の中を進む。
大地から放出される魔子というものは、生物なら呼吸で体内に取り入れる。俺の場合は魔子に対応したコンバーターのようなものがあるらしく、小さなファンで吸収することで魔力に変換しているらしい。
「ふむ、まさか森の王の一体と言われるクルツアスランを従えてしまうとは、よもやお主、存外大物か?」
「ただ殴って従っているだけの動物の本能だろ? そんな大層なものじゃないさ。殴ってごめんな? ネメア」
三本指のアームで鬣を撫でると、猫のような声が聞こえた。
「ん? それはこやつの名前か?」
「うん。昔話に出てくるめちゃくちゃデカくて強いライオンの……名前だったか?」
後に名前ではなく地名だったと気づいたが、一度名付けてしまったのだからもう遅い。
「まあいいや。ネメア、周囲に警戒しつつそのまま直進」
「ゴアッ」
移動しつつ、周囲のセンサーを起動してこの世界というものを把握していく。
「マベッツは、この森の出身、というわけではないんだよな?」
「うむ。もう少し離れたところに集落がある。昔は魔王軍の拠点の一つでな。それなりに大きい都市で、発展もしておったのじゃ」
「じゃあ、南にいる亜人たちの集落も、結構発展しているのかな?」
「どうじゃろうな。人魔統合国家の樹立から五十年。未だに世界には火種が散りばめられ、世界の開拓は進んでおらん」
人魔統合国家――以前マベッツが言っていた、勇者と魔王によって築かれた国のことだろう。勇者と魔王、彼らの五十年の統治でも、ヒトの間に横たわった問題は全て解決できているわけではなかった。
マベッツがこの軍団を率いて行動を起こそうとしたのも、この混乱に乗じようという考えがあったのだろう。
「南にいる種族は、どんな種族なんだ? 亜人って話だから、エルフとか?」
「隠れ潜む者族という、小人の一種じゃ。少々不器用な者も多いが、あらゆるヒトの中で最も早く、獣人すら追いつけぬ俊足を誇る」
「聞いたことないな。この世界で独自の種族なのか? ドワーフとは違うってことか」
マベッツの種族であるリッチは、転生前の世界でも有名な世界だった。一方で、南に住むと言う種族は聞いたことがない。
「リスボンは勇敢で忍耐強く、ただ力はあまり強くないため、一度捕まれば奴隷として扱われた者たちであった。数代前の魔王がそれを一人残らず救出し、自らの庇護下に置いたのじゃ」
「優しい魔王様だったんだな」
「リスボンは斥候に長け、俊足。靴より柔らかい足の裏であらゆる音を消して移動する。そこに目を付けただけかもしれん」
なるほど、と頷く俺にマベッツは続ける。
「ゆえに、リスボンはこうも呼ばれておる。魔王の懐刀、とな」
つまり、魔王様御用達のスパイや斥候だった。その出身地を保護するのに、手を尽くすのは当然だ。そこに踏み入れると、森の中の雰囲気が変わる。植生や温度が変わったわけではないのに。
「結界じゃ。リスボンたちの里は普段は外界から隠されておる。ゆえに、我もここに至るのは……」
「なんだ、これ」
マベッツの声を遮り、俺は各種センサーを起動させる。
その結界の中に、臭気センサーが鉄に似た匂いを捉えた。
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