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第一話「夢破れて」.1



『オールシステムズ、オールレディ。アンカーロック、パージ』

傾斜増大インクリース・スロープ

『エンジンスタート、出発(デパーチャー)


 巨大なドリルを備えた車体の、乗った台に傾斜がつく。

 特殊合金で構成された鋼のモグラは、ゆっくりと無限軌道を回して突き進む。夢の塊だと思っていたドリルタンクが実現され、ついに人類は地球の中心へ向けてフロンティアを拡大するのだ。

 地上の基地ではスタッフが固唾を飲んで見守り、多くのテレビクルーが管制室の様子を映していた。


『ただいま、有人地中探査車ツチノコが発進いたしました。国産、しかも民間の中小企業が中心となって開発されたこの地底探査車は、人類の夢足るSFガジェット、ドリルタンクを実に五年の歳月を経て実現した有人機であり、未知なる地底への旅を牽引するフラッグシップと言えるでしょう』


 アナウンサーが熱意を込めて、発進した地底探査車を説明する。

 中小企業が作った最新型の地底探査車。これまでは国や公的研究機関、大企業が主導してきた地底探査を、ついに中小民間企業が成功したと話題になった。

 順調に進む地底探査。大量の鉱物資源、地下資源を報告する傍らで、地底レーダーは何か未知の空間を捉えた。


『こちらツチノコ、問題のエリアに到達。移動速度を落としながら接近を試みる』


 地球空洞説。様々なSF作品で扱われてきたテーマであり、存在しないことを実証はできていない、ありえない空説。

 人類にとって未体験の領域である地下空間。何が起こっても不思議ではない。

 そんな場所へ赴いた唯一のパイロットは、その不可思議な世界を外部カメラとソナーで見極めようとする。


『な、これ、一体……』


 だが、その声が困惑と恐怖に代わる。地下十万メートル。事前の無人探査では何の問題もなかったその場所で、謎のトラブルに見舞われる。

 同時に、マイクに圧壊音が響き渡った。地震か、地殻変動か、それとも掘削通路が崩壊したのか。

 ただ、未知のエリアを前にして、ツチノコは大地の力に圧し潰された。


 *


 俺には、一つの夢があった。

 宇宙より遠い場所へ。高いか深いかは別として、人類が辿り着いたことのない場所へ向かいたかった。

 地底世界。初めて小学校の図書館で読んだSF小説では、荒唐無稽な乗り物で地底世界を目指す様子が描かれていた。


“見上げればそこにある宇宙。だが、地底や海中は、見下ろしても見えない“


 見えているものより、見えないものに牽かれた。

 だからこそ、地底探査車のパイロットになった。ただの研究員でいることもできたけれど、それよりも、直接未知の世界を見てみたいと思ってしまった。


「それが、運の尽きか……」

『応答してください。パイロット、藤山博夢(ふじやまひろむ)! 応答を!』


 通信機から声が聞こえる。だが、それ以上に圧壊する〈ツチノコ〉の車体が壊れる音で遮られた。答えようにも、圧迫された体はそれを許さない。

 視界が霞む。辿り着いた未知のエリア。偉大な発見を前にして、頓挫した。


「こんな、人間の、ちっぽけな体じゃ……まだ無理だっていうのかよ……」


 わずかに崩れた岩盤の向こう。その先に輝く世界が見えていた。

 地底世界。人間が誰も踏み入れていないその場所に――。


「行きたかった、なぁ……」

『博夢さん、博夢さん!!』

『応答してください。答えて……』


 仲間たちの声を聴きながら、俺は目を閉じた。




本日より、新作を投稿させていただきました。

SF系で読んでくださった方、初めて見に来てくださった方。

様々でしょうが少しでも気に入っていただけたら幸いです。


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