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6 旅は道連れ3

 カフィは、本当にひとり旅に飽いていたようで、よく喋った。

 自分が旅をしている理由や今まで旅してきた場所。見たこと感じたことや、土地ごとの特産品や名物料理等々。

 轡を並べて旅しながら語られる彼の話は、あとからあとから湧いて尽きず、アイーシャは感心してしまう。

 もちろん彼は話すだけではなく、アイーシャの話も聞いてくれた。


「――――そうか。加護をもらえず監禁されそうになったなんて、苦労したんだね」

「ええ。でも、お母さまが私を逃がしてくれて。ザラムもお母さまからもらったんです」


 アイーシャは、できるだけ真実に近い嘘をついた。まるっきりの嘘ではいつかボロが出るからだ。

 隠したのは、貴族の身分と、自力で家出したこと。貴族だとバレるのはいろいろ面倒くさそうだし、皿を割って家出したとか、暴露するのは普通に恥ずかしいからだ。


『加護なしなのは言ってもよかったのですか?』


 思念でのザラムの問いかけに『当然よ』と答えた。


『だって私はシャルディで冒険者になるのですもの。そこまでカフィが一緒にいるかどうかはわからないけれど、冒険者登録をするときには必ず加護を調べられるわ。いずれわかることならば、隠す必要はないでしょう』


 それにカフィは、加護なしだからと蔑んでくるような人ではない。

 出会ってほんの少しだが、アイーシャはなんとなくそう感じていた。


(実際そのとおりだったんだけど。……むしろ、ものすごく同情されていて申し訳なくなるくらいだわ)


 アイーシャにとっては、加護なしもそのせいで家を出ることになったことも、どちらもたいしたことではない。予想できていたことだし、むしろ家出後の生活を楽しみにしていたくらいなのだ。

 それなのに、アイーシャの話を聞いたカフィは、まるで我がことのように悲しんでくれた。


「あ、その……私のことより、カフィさんがイーヴァ帝国の出身だなんて、私はそっちに驚きました」


 同情の視線に耐えきれず、アイーシャは話題を変えようとする。


「え、そうかな? 俺の赤髪も緑の目もイーヴァ人っぽいとよく言われるけど」


 カフィは、きょとんとした。


「えっと、その、イーヴァは遠いから」

「ああ。たしかにここからだと遠く思えるのかな?」


 イーヴァは大陸の北方に位置する帝国で、人口も領土もノーティスとは比べものにならないほどの大国だ。対して、この辺りはノーティスでも南より。隣国とはいえイーヴァを遠く感じても不思議ではない……はずだ。

 実際帝国の人々は、ほとんどがカフィのように赤髪で青か緑の目をしていた。色が白く男女ともに美形の多いお国柄なのは、アイーシャは知らなくとも有名な話だ。


(たしかに言われてみればイーヴァ帝国人らしいのかしら?)


 ……あまり自信はない。

 人間は人間で、国や人種の違いなど、()にとって大きな差異ではなかったからだ。気にかける必要性を、まったく感じていなかった。


「アイーシャの銀の髪と紫の目は、この辺でも珍しいよね?」

「私のひいおばあさまが銀髪だったんです。目はお父さま譲りです」


 アミディ伯爵家は、中堅だけあって多くの貴族と縁を結び自家の安泰を図ってきた。婚姻はそのもっとも有効な手段で、おかげでいろんな遺伝子が伯爵家には混ざっている。

 アイーシャは、中でも珍しい色の組み合わせで生まれてきた子どもだった。


「そうなんだね。髪も目もとてもきれいで、可愛いアイーシャによく似合っているよ」


 不覚にも、頬が熱くなってしまう。

 家族に溺愛されて育てられ、褒め言葉には慣れているアイーシャだが、出会って間もない男性に不意打ちで褒められるのは、やっぱり恥ずかしい。


「あ、ありがとうございます。カフィさんもとってもカッコイイですね」

「ハハ、そうかな。褒めてもらえて嬉しいよ」


 さらりと流すあたり、そんなセリフは言われ慣れているのだと思われる。

 褒めることにも褒められることにも慣れているカフィの様子に、アイーシャはなんだかムッとした。


「それだけカッコイイんですもの、引く手あまただったんでしょうね。……『運命の人』を探す旅になんて出なくてもよかったんじゃないですか?」


 ついそんなことを言ってしまった。

 アイーシャは、先ほど聞いた話を思い出す。


 ――――カフィは、自分は『運命の人』を探す旅をしているのだと言った。

 なんでもカフィの一族に代々伝わる家憲(かけん)だそうで、一族の男は誰でも一度は『運命の人』を探しに旅立たなければならないらしい。


「う~ん、でも決まりだからね。旅に出ない奴は一族として認めてもらえないんだ。まあ、どのくらい旅するかの決まりはないから、物見遊山にプチ旅行をして、見つかりませんでしたってさっさと帰ってくる奴も多いけど」


 旅立つ年齢は十六歳。そのくらいの年頃には、既に恋人なり婚約者なりがいる者もいて、彼らは旅をしたという形だけを取り繕うのだとか。

 ちなみにカフィは、旅をはじめて三年半。今は十九歳だそうだ。


「カフィは、さっさと帰ろうとは思わなかったの?」

「こう見えて俺はロマンチストだからね。この世界のどこかに俺の『運命の人』がいるのなら、探して出会いたいって思っているのさ」


 はるか昔、カフィのおじいさんのおじいさんのそのまたおじいさん? ……くらい遡ったご先祖が、旅をして『運命の人』に出会ったのだそうだ。わけあって彼自身はその人とは結ばれなかったそうなのだが、いつか自分の子孫が運命の人と出会い、自分には叶わなかった唯一無二の相手と結ばれるという幸せを得ることを願って、一風変わった家憲を残したのだという。


「ずいぶん型破りなご先祖ですね?」

「ああ、でもおかげで俺は誰に気づかうことなく自由気ままに旅することが出来ている。冒険者ギルドにも登録してそこそこ稼がせてもらっているから路銀の心配もいらないしね。当分はこんな暮らしを続けていきたいな」


 そう。カフィは冒険者でもあった。

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