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 そして――――

 言うまでもないことだろうが、空中饗宴は大成功となった。

 カフィの祖父は恐縮しっぱなしで、最初は謝り続けていたけれど、最後は笑って楽しんでくれている。

 はじめて会ったカフィの両親も、とても楽しそうだ。


「父さん、母さん、紹介するよ。彼女はアイーシャ。ちょっと(・・・・)常識外れのところがあるけれど、だからこそ目を離せない――――ううん、絶対目を離したくない、俺の大切な人(・・・・)なんだ」


 カフィの言葉に目を丸くした二人は、嬉しそうに笑う。


「そうか。そうか。ついにお前にも――――」

「こんなに可愛いお嬢さんを紹介してくれるなんて、夢にも思っていなかったわ」


 相好を崩して喜ぶカフィの父と、涙ぐむカフィの母の姿を見て、アイーシャも嬉しくなる。


(こんなに喜んでくれるだなんて思ってもみなかったわ。きっと、二人とも感激屋なのね)


 カフィに紹介されて笑顔で挨拶するアイーシャに、ザラムは複雑そうな視線を向けてきた。


「タドミールさま……絶対誤解されていますからね」


 いったいなにを誤解されているのだろう?

 聞き返す前に、カフィの姉のキーラから。声が上がる。


「――――じゃあ、二人は、当分一緒に旅を続けるつもりなの?」


 キーラは、一口食べるなり虜になってしまったエング特性ジェラートを両手に持っていた。手放す様子は少しもない。


「ああ。少なくとも俺はそのつもりだ。アイーシャの隣で一緒に旅したいんだ」


 カフィの言葉を聞いて、アイーシャの胸が弾む。


「私も、カフィさんと一緒に旅をしたいと思っています」


 その気持ちを言葉にすれば、カフィは嬉しそうに笑った。


「ありがとう、アイーシャ。これからもよろしく! ……まあ、もれなく他のみんなも一緒なんだろうけど」

「当たり前でしょう! お前とタドミールさまを二人きりになどするはずがありません!」


 大声で割り込んできたのはザラムだった。相変わらずのテンションで、カフィも苦笑している。


「タドミールさま! 我々も! 我々もご一緒してよろしいでしょうか!?」


 どこか必死な様子で訴えてきたのは、神仕のエングだった。彼の背後にはタドミールの神仕たちが、全員頭を下げている。


「…………え?」


 まさかそんなことを言われるとは思わなかった。

 少ないとはいえ全部で二十名の神仕と一緒に旅するのは、大変そうだ。

 なにより彼らは、口うるさい(・・・・・)


(野宿とか…………絶対させてくれそうにないわよね?)


 とはいえ、ここまで頑張ってくれた彼らをすげなく断ることはしたくなかった。


 困っていれば、キアリークがアイーシャの隣に立つ。


「それは違うだろう。エング、お前たちがするべきことは、ミールが帰るべき場所を守ることではないのか?」


 その言葉に、エングは目を見開いた。他の神仕たちもパッと顔を上げる。



「…………タドミールさまは、我らの宮にお帰りくださるのでしょうか?」


 真剣に聞かれて――――アイーシャは、答えを躊躇った。


 今の彼女は人間だ。

 人間の体と人間の寿命しか持たないアイーシャが、かつて破壊神が()った場所まで辿り着けるとは思えない。


(だって、私の宮は、それこそ世界の果ての果て。時空さえも超えた亜空間にあるのだもの。エングたちは私の神仕だから簡単に往き来できるけど、今の私には入り口に立つことさえできない場所だわ)


 できもしない約束をするわけにはいかない。

 それなのに――――、


「当然だろう? 人間世界の旅なんて二百年(・・・)もすれば終わってしまう。その後、ミールがどこに帰ると言うんだい?」


 キアリークは、あっさりそう言った。


(いや! 人間は百年くらいしか生きないから! 二百年も旅するなんて、いったいどんな超人よ?)


 慌てて止めようとするのだが、キアリークの言葉は止まらない。


「――――ミールの宮は、主の不在でかなり荒れ果てていると聞く。お前たちは、そんなみすぼらしい宮にミールを住まわせるつもりなのか? もしもそうだというのなら、僕はミールを僕の宮に連れ帰り、お前たちのところには絶対帰さないからな!」


 エングは、ガ~ン! と、ショックを受けたみたいな顔になった。

 他の神仕たちも同様で、彼らはキアリークの前に揃ってひれ伏す。


「それだけは、ご容赦ください! …………キアリークさまの仰るとおりです。我らは我らの本分を忘れておりました。この空中饗宴を終えた後は、急ぎ宮に戻り一日でも早くタドミールさまが快適に過ごされるよう宮を整えて、お帰りをお待ちいたします!」


 きっぱりと宣言するエングと、彼と同じく頭を下げて誓う神仕たち。


(そんな! 私が帰れる保証なんて、まったくないのに!)


 アイーシャは、心の中で叫んだ。


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