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「え?」


 ポカンとしたのはカフィで、他の神々は驚きもせずに頭上を見上げる。




 ――――やがて、はるか上空の一角がキラキラと光を反射しはじめた。

 そこには透明な板が次々と生みだされ、敷き詰められているのだ。

 徐々にその光は広がっていき、とてつもない広さになった。


 次に、その光を弾く板の下側に木の根が広がっていくのが見える。きっと根の上には、大きな樹木が育ちはじめているのだろう。

 空中にグングンと根を張る樹木は、中央に一本。そこから同心円状に広い間隔を空けながら数を増やしているようだった。


 首を痛くして見上げれば、根の隙間から生い茂る緑の葉が上空の風にさわさわと揺れている様子が、かろうじて見える。

 樹々の周囲にも小さな芽が生まれ、やがてそれは咲き誇る色とりどりの花々に成長していった。




「ああ、下からだとあまりよく見えないのが残念ね」


 アイーシャは思わずそう呟く。


「だったら上空に移動しようよ」


 キアリークがそう言った瞬間、カフィや彼の祖父、そして使用人のゼンも含めた全員が、はるか上空に瞬間移動した。

 踏みしめていた大地は消え失せ、足下にはなにも無くなってしまう。


「うぉっ!」


 声が出せただけカフィはいい方で、祖父とゼンは今にも気絶しそうだった。足はガクガク震え、まともに立っていられず、さりとて何もない場所に倒れ込めずといった有り様だ。


「ゼリム! 彼らの足下に地面を作ってあげて!」

「はい! タドミールさま!」


 アイーシャが頼むと同時に、祖父とゼンの足下に、一辺が三メートルほどの地面が現れた。

 二人は、その地面の上にヘナヘナと崩れ落ちる。


「ゼリム、ありがとう。……キアったら、いきなり空中へ人を放り出したらダメよ。人間の中にはビックリしただけで死んじゃう人だっているんだから」


 アイーシャの「ありがとう」という言葉を聞いたゼリムが、その場で踊り出す。

 一方、「ダメよ」と言われたキアリークは、ムッと唇を尖らせた。


「だって、ミールがよく見えないって言ったんじゃないか。それに、人間だって、こいつは平気そうだろう?」


 そう言ってキアリークが指さしたのはカフィだ。


「キアリークさま! この男を人間の基準に当てはめて考えるのは危険です!」


 すかさずザラムが発言した。


「ここまでの言動を見る限り、不本意ですが私もザラムに賛成です」


 マナラまでそんなことを言い出してしまう。

 他の神々も全員同意するように頷いていた。



「ええ!? 俺の扱いひどくない?」


 カフィは、なんだか不満そう。

 アイーシャは、恩人のカフィを庇うことにした。


「みんな、そんな言い方はないでしょう? カフィさんは間違いなく私と同じ(・・・・)人間なのよ!」


 ところが――――、


「…………いや、タドミールさまと『同じ』と言われましても」

「その時点で、『普通』の『人間』じゃなくなるっていうか?」

「それどころか、かろうじて入っていた『人間』の範疇からも外れるんじゃないか?」

「うん。『同じ』は、マズいと思う」


 神々はてんでバラバラにそんなことを言い出した。


 アイーシャがギロリと睨みつければ、慌てて口を噤むくせに、まったくヘタレばかりである。

 機嫌を急降下させたアイーシャをカフィが宥めてきた。


「うんうん。まぁいいよ。俺はアイーシャに『同じ』と言ってもらえて嬉しいからね。……そんなことより足下スゴイよね? もっと近くで見られないかな」


 本当にカフィは、人間ができていると思う。


(ヘタレな神々にも是非見習ってもらいたいわ!)


 そういった意味をこめてもう一度彼らを睨みつけてから、アイーシャはカフィの望みに応えた。


「だったら直接降りて見ましょうよ。だいたい会場自体は出来上がったみたいだから、入っても大丈夫だと思うわ」


 アイーシャはカフィに手を差し出す。


「降りる?」


 カフィは首を傾げながらもアイーシャの手を取ってくれた。

 そこですかさず反対の手をキアリークが握ってくる。


「キア?」

「僕も一緒に行く!」

「うん。それはかまわないけれど……キアはひとりで降りられるわよね? 手を繋ぐ必要はないんじゃない?」

「でも、僕はミールと手を繋ぎたいんだ」

「ピョンと飛び降りるだけよ?」

「それでも、そいつだけ手を繋げて僕が繋げないなんて、我慢できないから!」


(……もう、私の半神は困った駄々っ子ね)


 それを可愛いと思ってしまうあたりが、アイーシャだ。


「仕方ないわね。今回だけよ」


 アイーシャは、キアリークの手をギュッと握り返した。


「タドミールさま! 私は?」


 ザラムが慌てて手を伸ばしてきたのだが、残念ながらアイーシャの手は二つだけ。


「…………また今度ね」

「必ずですよ!」


 念を押すザラムに適当に頷いて、アイーシャはサッサと降りることにした。でないと、他の神々まで我も我もと言ってきそうだったから。


「行くわよ!」

「え? え? え?」


 なんだか焦るカフィの手を引いて、アイーシャはポンと飛び降りた。

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