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「ヒェッ! …………で、でも! たとえキアリークさまでも、私はタドミールさまのお側を絶対離れませんから!」


 なんと! ザラムがキアリークに言い返す。腰はへっぴり腰で今にも逃げ出しそうになっているけれど、なんとか踏みとどまっているではないか!


 そういえば、先ほどの戦いの中でもザラムはキアリークに刃向かっていた。

 アイーシャの胸は、ジ~ンと熱くなる。

 気分は思いもかけぬ我が子の成長を見た母親だ。


「ザラム、あなた立派になったのね。偉いわよ」


 涙ぐんで褒めれば、ザラムが嫌そうな顔で振り返った。


「タドミールさま、そのお言葉は嬉しくありませんから!」


 せっかく褒めたのに、面倒くさい奴である。




「……うん。ミールは僕の怒りを逸らす天才だよね」


 キアリークが、呆れたようにそう言った。


「せっかくこの機会にみんなぶっ飛ばして、ミールと二人だけになろうと思ったのにな」


 気が抜けちゃったと言って、キアリークは肩を竦める。

 ザラムをはじめとした神々は、みんな顔を引き攣らせた。


 カフィだけは「わかる!」と言ってキアリークに同意する。


「アイーシャは、とんでもないことばかり引き起こすのに、どうしてかその全てをなんてことない(・・・・・・・)ことにしてしまうんだよな。一緒にいて、肩肘張らないっていうか、居心地抜群っていうか、アイーシャと一緒ならどんなことでも簡単にできそうな気がするんだ!」


 饒舌に話すカフィを、キアリークはジロリと睨みつけた。


「たかが人間風情が知ったような口でミールを語るのは不愉快だけど、言っていることはわかるから不問にしてあげる。……他の神や、ましてや人間なんかと一緒にいるなんて絶対ごめんだと思っていたけど、それをミールが望むなら…………うん。僕は我慢するよ」


 アイーシャは、ビックリ仰天した。


(キアが、あの(・・)キアが、私のことに関して我慢するなんて!)


 さっきのザラムへの感動を上回る感激が、アイーシャを襲う。


「キア、あなたも立派になったのね。とぉっっても偉いわよ!」

「ミール、その言葉は嬉しくないからね!」


 アイーシャは一生懸命褒めているのに、ザラムといいキアリークといい、機嫌を損ねるのは何故だろう?


「私のなにがいけないの?」


 真剣に考えこむアイーシャを見て、カフィがクスッと笑った。


「ということで……俺もみんなも一緒に旅するってことでOKだよね? 早速出かけようよ!」


 誘われて頷きそうになって――――ハッとする!


「違うわ! そうじゃないでしょう?」

「そうそう、そうです! 私はまだ私以外の者の同行に同意していませんよ!」


 ザラムがアイーシャの言葉を受けて騒ぎだすけれど、それも違うのだ。


「ザラム、そうじゃないわ。私が言っているのは、カフィさんがご家族に会わないで旅立つのは問題でしょうっていうことよ!」


 なんだかんだと大騒ぎになってしまったが、元々の議論はそこだったはず。


「え~? それはもういいんじゃないかな?」


 カフィは、興味なさそうにそう言った。


「そんなわけにいかないでしょう! 大丈夫。キアが同行を認めたからには、カフィさんを置いていったりしませんよ。キアは、こう見えて彼らの中では一番偉いんです。だからどうか今夜は、ご家族と過ごしてください。私たちは、別に宿を取って明日の朝またここに来ますから」


 とはいえ、神々が普通の宿屋に泊まったりしたら、それはそれで大問題だ。なのでどこか適当なところで野宿しようと、アイーシャは考えている。

 そんな彼女の言葉に、カフィは眉をひそめた。


「俺は、アイーシャと離れたくないんだけど」

「そんなこと言わないで――――」

「――――だったら一緒にいればいい」


 なおも説得しようとしたアイーシャの言葉を遮ったのは、キアリークだった。


「キア?」

「我々の今夜の宿を、ここにすればいいだけだろう? みんなで泊まれば問題ないはずだ」


 実にあっさりと言ってくれる。


「キアったら……いいの? 何か気に障ることがあっても暴れたらダメなのよ。この家は脆そうだから、キアがちょっと力を入れただけでバラバラになっちゃうわ。ちゃんと我慢できる?」


 とっても心配だ。

 カフィの祖父も驚いて、顔を赤くしたり青くしたりしている。


「脆いって――――」


 カフィがポツリと呆れたように呟くが、キアリークの『力』の前では、人間の家など紙くず同然。ホントに脆いのだから仕方ないだろう。

 アイーシャに聞かれたキアリークは、プーと頬を膨らませた。


「ミールは僕をいくつの子どもだと思っているの? それくらいの我慢できるに決まっているだろう」


 …………残念ながらとてもそうは思えない。

 チラリと視線を向ければ、マナラを筆頭に神々もプルプルと首を横に振っていた。

 誰ひとりとして、キアリークの忍耐力を信じているものは、いない。



「貴様ら! 僕は我慢すると言ったら我慢するんだ! 今日は絶対ここに泊まるから! いいな!!」



 それを見たキアリークは、大きな声で宣言した。

 こうなってしまったら彼は、てこでも動かない。



 ――――非常に申し訳ないのだが、カフィの祖父の家に泊まることは決定事項となってしまった。


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