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44 神の祟り6

 ザラムもマナラも他の神々も、全員苦悶の表情を浮かべる。


「五秒耐えなさい!」


 そう命じたアイーシャは、外に出していた自分の力を全て中に引っ込めた。

 ザラムとマナラがキアの力に耐えられる限度はそこまでだろう。


(四、三――――)


 自分の内の奥深くに埋もれている記憶を全力で探る。


(二、一! ――――)


 破壊神だったタドミールが破壊(・・)された。最大の破壊の記憶を!


(あった!)


 その破壊の記憶から、アイーシャは『力』を引き出した!

 そして、最大級の破壊の力を、キアリークにぶつける!




 ――――本来であれば、それは到底不可能なことだった。

 ただの記憶に『力』などあるはずがないからだ。


 しかし、それは他ならぬ破壊神の記憶。

 どんな破壊――――そう、それが想像上の架空の破壊のイメージでも、そこから力を得ることができるのが、かつての破壊神の『力』だった。


(まあ、要は精神論なんだけど、神なんて精神論の塊みたいな存在だもの)


 神の力に論理的な根拠や、科学的な証明を求めても無駄だ。

 そこにあるのは、神の意志と思惑だけ。


(それに、あのときの私は、私が破壊されたときの力の全てを使っていなかった)


 だから神ではなく人間に転生したのだ。

 それを思えば記憶から力を引き出すことは容易いはず。


 そうアイーシャは、信じる!


 今だけは、自分がなんの力も持たない人間なのだという事実を忘れて!



「キア! あなたって子は! こんなにみんなに愛されているのに! …………愛している(・・・・・)のに! 少しは反省しなさい!!」



 思いの丈をこめて、力をキアリークにぶつけた!



 キアリークとアイーシャの力が、ぶつかり反発しつつも相殺する。

 創造神の力が無から『力』を生み出す端から、破壊神の力がその『力』を壊し無にしていった。

 それを繰り返し、繰り返す。

 生まれては消え、消えては生まれる『力』が、ふたりの間を巡った。



 そうして、永遠に続くかと思われた力と力の流転は、唐突に終わる。


 双方力を出し尽くし、プスンと息切れしたのだ。

 アイーシャはなんとか立っていられたのだが、キアリークはドスンと尻餅をついた。


(キアが引きこもっていて本調子でなくてよかったわ)


 それにアイーシャの方には、六柱の神々の力の補給もあった。不要と思われたザラムの判断だったが、終わってみればものすごく役だったと認める以外ない。


(あとで褒めてあげなくっちゃね)


 ザラムが知れば有頂天で踊りだしそうなことを考えながら、アイーシャはキアリークと向き合った。



「キア、もう止めましょう。既に確定した過去は、たとえ神であっても変えることはできないのよ。できるのは、受け入れ乗り越えることだけ。……それに、私はそんなに難しいことを頼んでいるわけではないでしょう? ただ単にあんまり悲しみすぎないでって、お願いしているだけよ」



 ハァハァと、肩で息をしながらアイーシャは話す。

 キアリークは、地面に座りこんだままアイーシャをジッと見上げた。



「…………さっき、僕を『愛している』って、言った?」



 やがて、口にしたのはそんなこと。

 アイーシャは「?」と考える。


「……ああ、そう言えば言ったかもしれないわ?」


 しかし、あのときのセリフのメインは、キアリークが『みんなに愛されている』という方だ。アイーシャの『愛している』は、ついででしかない。


「っていうか、私がキアを『愛している』のは、今さら言うまでもないことでしょう?」


 そんな当たり前のこと、わざわざ口に出すまでもない。


「違うよ!」


 なのに、キアリークはブンブンと首を横に振った。


「全然、違う! 僕はいつだってミールに『愛している』って言ってほしかった!」

「…………言っていたでしょう?」

「言ってない!」

「言っていたと思うけど?」

「一億年くらい遡っても、聞いた覚えがないよ!」




 ――――アイーシャは、よくよく思い出してみた。

 一億年前といったら、まだ人間はいなかった時代。大陸の形も今とはずいぶん違っていて、地表を歩いていたのは口から火を噴く二足歩行のトカゲの祖先や、尻尾で竜巻を起こす四つ足のトカゲの祖先だ。


(あれはあれで愛嬌のある子たちだったのだけど、いかんせん好戦的で大陸のほとんどを不毛の大地にしちゃったのよね)


 いくら言い聞かせても直らなかったのは残念でたまらない。


(最後の二頭になっても戦って、相打ちになって死んでしまったブレなさは、ある意味すごいと思うけど……あれ以降、生き物をちょっぴり賢くしたのよね。いくら破壊神の私でもそうそう種の滅亡とか見たくはないわ)


 とまれ、今は感傷に浸っている場合ではない。

 アイーシャは一億年前から今まで、キアリークに言ったセリフを思い出してみた。

 自慢ではないが、記憶力はいい方なのだ。




 ――――。

 …………たしかに、『愛している』は言った記憶がなかった。


「でもでも! 似たようなことはいっぱい言っていたと思うけど!」


 主に「可愛い」とか「可愛い」とか「可愛い」とかを。


「愛しているは、特別なんだよ! 僕はミールにいっぱい『愛している』って言ってほしかった! そうしていてくれれば、僕だってあんなに不安にならなかったのに!」


 アイーシャは、ガ~ン! とショックを受けた。

 ひょっとして、キアリークがあの時(・・・)あんなに怒ったのは、アイーシャからの愛情を不安に思っていたからなのだろうか?

 自分が半神である破壊神にそれほど愛されていないと思って……彼女が離れていくと思ったのか?

 創造神より人間を選んだのだと?


 それで不安になって暴走したのだとしたら――――あの時タドミールが死んだのは、彼女自身のせいだ。

 自分で自分の首を絞めていたなんて、あまりに間抜けすぎる。





「――――私はキアが大好きよ」

「……うん」

「たったひとりの半神なんだもの。他と比べられるはずがないわ」

「……知っている」

「当然、心から愛しているんだけど……私ったら、それをちゃんと伝えていなかったのね?」


「うん! うん! …………でも、それだって、本当は、僕は知っていたんだ! でも、ミールの愛情は深いから、いろいろなものに限りなく与えられて尽きることがないから! ザラムとか、他の神々も……あの人間も、みんな惜しみなく愛を注がれていて。……だから僕は、愛されていることはわかっても、なかなか言葉にしてくれないから! 不安になったんだ」



 …………いや、そこまで愛情を振りまいたつもりはないのだが。

 チラリとザラムを見れば、大きく頷いている。きっと、キアリークと同じ意見なのだろう。


 彼女にそんなつもりがなかったとしても、キアリークを不安にさせたのは間違いない事実だった。


 ――――大きくため息をついたアイーシャは、キアリークに手を差し伸べる。

 おずおずと掴んでくれたその手を引っ張り起こし、抱きしめた!


「愛しているわ、キア。私の半神。言葉を惜しんだわけじゃなかったの。ただ、私があなたを愛していることは当たり前すぎて、言うまでもなかったことだったのよ」


 それで不安がらせて殺されてしまったのだから、情けない。


「僕も、ただ怖がっていないでちゃんと聞けばよかった。僕を愛している? って」

「もちろんそのときは全力で肯定したわよ! これからはできるだけ伝えるようにするけれど、もしも私がまた忘れていたら、聞いてくれる?」

「うん!」


 キアリークもギュッとアイーシャを抱きしめてくれて、ふたりは久しぶりに心から笑い合った。


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